【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

                                  福井 杉本達也

1 志賀原発で変圧器の破壊
1月1日の能登半島地震で北陸電力志賀原発1、2号機の変圧器の配管が壊れて油漏れが発生、外部電源とつながる最も規模の大きい送電線が使えなくなった。敷地外の送電網は断たれなかったが、原発の外部電源の一部を失った。原子力規制委の山中伸介委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要」としたが、「安全上の影響が及ぶとは考えていない」と原発の再稼働路線を見直すつもりは全くない。3.11の福島第一原発事故では、1号機から4号機まで、送電線の鉄塔が倒れ、全ての外部電源が失われ大事故になり、今もなすすべがない。非常用電源があるというが、非常に危うい。

2 想定地震動を上回る激しい揺れ
地震の揺れについて、1月1日に北陸電力は、「志賀原発1号機原子炉建屋地下2階震度5強(399.3ガル)が観測されました」と広報した。その後、後出しじゃんけんよろしく10日に、東西方向の0.47秒の周期で、1号機は 想定地震動918ガルのに対し 957ガル、2号機は 846ガルの想定に対し 871ガルだったと発表した。しかし、それは報道発表ではなく、原子力規制庁の報告である(「志賀原発で一部想定上回る揺れ=規制庁に報告も公表せず―北陸電」:時事:2024.1.11))。ところが、規制委は「想定を一部でわずかに上回っていたが、使用済み燃料の冷却に必要な電源などは確保され、安全上の問題はない」という見解である。想定地震動は原発の全ての建物・設備の設計の基準であるが、上回っても「わずか」だから問題ないというのである。
技術評論家の桜井淳氏は原子炉建屋地下2階と自由解放面である地上1階の地震加速度は地下2階の地震加速度の2倍であるため、720 gal.(振動周期0.02秒)であるとし、さらに、志賀原発は、「新規制基準の適用前では、基準地震動は、600 gal.(振動周期0.02秒)、しかし、新規制基準…では…安全審査と工事が同時に開始されていたため、申請中の2号機は、工事が完了しており…1000 gal.対応になっており、志賀原発で観測された360 gal.は、基準地震動の約1/3であり、問題なく、それどころか、設計許容値に対し、工学的安全余裕度が、3-4倍、破壊限界に対して、7-8倍も確保されていますから、施工と運用が、的確ならば、懸念すべきことは、ありません」(kiyoshi sakurai:note:2024.1.10)と2号機が1000ガルまで対応しているかのように述べるが、「工学的安全余裕度が、3-4倍」というのは嘘である。主要配管などは1.3倍程度しかない。肉厚を厚くするなど安全余裕度を何倍にもすれば、費用は天文学的になり、溶接などの現場施工も容易ではない。また、2004年に起きた関電美浜3号機の二次系大口径配管(560㎜・肉厚10㎜)の破断事故では、運転開始後28年で事故を起こしたように、設備の経年劣化は避けられない。地震加速度360ガル

⇒600ガル⇒1000ガルへの対応というのは、骨折した腕に添木するようなもので(左:北陸電力:工事の実施例:2012.3)、骨(配管などの設備)が新しくなるわけではない。全く机上の空論である。

3 陸地の隆起
産総研は1月11日、能登半島北西部の海岸で行った2024年能登半島地震に伴う海岸の地殻変動調査の結果を報告した。最大4 mの隆起が起きた輪島市門前町鹿磯周辺・鹿磯漁港では防潮堤壁面に固着したカキなどの生物が隆起によって離水した様子を観察されている(写真1)。「能登半島北部沿岸にはおよそ6千年前以降に形成されたと考えられる3段の海成段丘が分布しており、過去に海成段丘を形成するような大きな隆起が少なくとも3回起きていたことを示している」としており、1500年に1回程度は今回のような大地震が発生していることとなる。未確認情報では志賀原発周辺でも数十㎝の隆起があるとされている。また、2012年に建設された基礎のしっかりした高さ4mの原発の防潮堤の一部も破壊されており、津波ではなく地盤変動による破壊の可能性が高い。とすれば、原発建屋本体の破壊の可能性もある。

4 長年止まっていたのが幸い
志賀原発は今も1号機の燃料プールに672体、2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵されているが、運転停止から12年以上が経過して、核燃料の発する熱量は下がっている。関電大飯・高浜原発のように現在運転中の原子炉とは違い、3.11のように核燃料の再臨界により爆発する危険性は低い。
2016年には、原子力規制委員会の専門家チームが、1号機の原子炉建屋直下にある「S-1断層」などを「活断層の可能性は否定できない」と評価。事実上、再稼働は不可能とされた。ところが、2023年3月、隣接する2号機の再稼働の前提となる新規制基準への適合審査会合で、規制委は「敷地内に活断層はない」とする北陸電の主張が妥当だとし、16年の判断を覆した。もし、再稼働していたならば、福島原発事故の二の舞になる恐れがあった。原発直下で地震が発生すれば、ひとたまりもない。いつも、政府・電力会社は「原発の直下で地震は起こらない」との非科学的なロジックを繰り返すが、狂気の沙汰である。

5 「分かっちゃいるけど・やめられない」―再稼働に突き進む政府・規制委・財界
原子力規制委の山中伸介委員長は大丈夫か。電力会社に忖度しすぎではないかとの声が聞かれる。原発の外部電源の一部を失ったことについて、山中委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要としたが『安全上の影響が及ぶとは考えていない』と従来の考え方を見直そうとはしなかった。」(東京新聞:2024.1.13)。
また、M7.6の地震が起きたことについて、今後「事故対策に向けて想定する地震の大きさについて…稼働中の原発が停止する可能性も出てくるが、山中委員長は『他の原発にも影響あるかどうかは分析次第。一定の時間がかかる』と述べるだけで動きは全く鈍い(東京新聞:同上)。 さらに、空間放射線量を測るモニタリングポスト18カ所で一時測定ができなくなったが、山中委員長は、「自動車やドローンなどで線量を測る手段もある」と見直しについて具体的に言及せず(東京新聞:同上)、“規制”委とは名ばかりの存在となっている。 日経新聞のコラム『春秋』が「世界の地震の1割が日本で起きるといわれる。列島は地震の巣なのだ。国土はいつどこで大きな揺れに見舞われでもおかしくない。そういう大地の上に、そして海のすぐそばに、私たちは原子炉を抱えている…東日本大震災以降、長らく停止していた原発を順次動かしていくとおととし政治は決断した…能登の鳴動が伝えた自然の警告を真正面から受け止めて、日本は『地震と原発』の相克を乗り越えねばなるまい。」(2024.1.15)と書くにいたっでは、「分かっちゃいるけど、やめられない」=日本は放射能と心中すべきだとあからさまに宣言しており、支離滅裂以外の何物でもない。これが、現在の政府・財界・電力会社・規制委の本音である。こやつらに日本の未来をゆだねることはできない。

6 地震のメカニズムは?
能登半島地震のメカニズムとして加藤愛太郎東大地震研究所教授(地震学)など複数の専門家が指摘するのが、地下の水(流体)が、断層運動を誘発した可能性である。「地下深くから上がってきた水などの『流体』だ。海のプレート(岩盤)が水を取り込んだ状態で日本列島の下に沈み込み、能登半島の地下で水が上昇、断層を滑りやすくしたとの見方がある。こうした動きが今回、半島神にある複数の断層を広範囲に動かすきっかけとなった可能性がある。」(福井:2024.1.8:メカニズム・イメージ)とする。また、京都大学の西村卓也教授は「能登半島の沖合で起こるような地震としては、また日本海側全般に言えることですけれども、今回マグニチュード7.6とか8に近い地震というのは、おそらく最大級と考えてもいいと思っております。正直、ここまで大きい地震が起こるってのはかなり意外でした」(khb-tv:2024.1.1)とインタビューに答えている。要するに、地震を日本海特有の地震であり、太平洋側のプレート地震とは異なるメカニズムの内陸型の地震であり、太平洋プレートの動きとは切り離され、これ以上の規模の地震は起こらないという前提に立っているように見える。
これに対し、巽好幸神戸大学客員教授は「今回の地震を含む群発地震の原因となった流体は沈込むプレートから供給されたと解説していますが、その可能性は極めて低いです。そうであれば能登半島に火山があるはずです」と、「地下水原因」説に異議を唱える(巽好幸X:2024.1.3)。「松代や中部〜東北地方の地下ではプレート起源の水がマグマを発生させ、多くの火山が分布する。つまり太平洋プレートと地表の間には、プレート沈み込みに伴う一種のマントル対流によって『高温領域』が存在し、水がプレートから上昇してくるとマグマが発生する…ところが能登半島では、過去数百万年の間全く火山活動は起きていない」(巽好幸:「まだ続く能登半島群発地震:その原因は本当にプレート起源の水なのか?。」:yahooニュース:2022.8.10)。「日本列島が地震・地殻変動大国になったのは300万年前のフィリピン海プレートの方向転換が主要原因。地下で太平洋プレートと衝突して向きを変え、その結果日本海溝が西進し始め、中央構造線が再活動化。東日本で山地や半島が隆起、西日本では瀬戸内海にシワ状の隆起・沈降域が形成。」・「今回の地震は地殻内の流体移動に伴う破壊現象だが、巨視的には日本海の島々や突き出す半島を形成した逆断層隆起(オレンジ域)。これらの断層活動は300万年前のフィリピン海プレートの方向転換に伴う日本海溝西進による圧縮が原因。」と「フィリピン海プレート方向転換」説を主張する(巽好幸X:2024.1.8)。

7 若狭湾の原発が危ない
巽教授の説では若狭湾はさらに危ない。「若狭湾には沈降海岸である『リアス海岸』が発達し、特にその東端では断層に沿って急激に落ち込んでいる。また琵琶湖は、低地(盆地)が南から移動して約100万年前にほぼ現在の位置までやってきた。濃尾平野が広がるのは、地盤が沈降してその凹地に土砂が厚く堆積したからだ。そして伊勢湾は西と東に走る断層によって大きく沈んでいる、…中部沈降帯(伊勢湾―琵琶湖―若狭湾沈降帯)である。」・「沈み込み角度が小さい中部日本では、この補償流が、海溝に近く温度が低い領域まで届かない。そのために、中部地方の地下ではマントル物質がどんどんと引きずられ…その上の領域が沈んでしまうことになる。」・「将来、1

891年に起きた日本史上最大級の直下型(内陸)地震である濃尾地震(M8.0)のような地震を引き起こす可能性」があると指摘している(巽好幸:「『日本沈没』は始まっている:(1) 中部地方が沈没して本州が2つの島に?」yahooニュース:2021.12.12)。

冬場、セイコガニ漁が行われる越前海岸は250 ~350mと急峻な崖となっている。今回の能登半島地震の隆起のように、甲楽城断層が過去何回も変動して、若狭湾が沈降し、その東側が隆起し海岸段丘が形成されたものである。そのようなところで、関西電力の高浜原発1・2・3号機(4号機は定検中)と、大飯原発3,4号機が稼働中である。もし、若狭湾で濃尾地震(M8.0)クラスの直下型地震が起きた場合は、今回の能登半島地震の4倍ものエネルギーであるから稼働中の原発はひとたまりもない。

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