【投稿】核管理が完全に崩壊した日本
福井 杉本達也
1 核管理の無秩序を露呈
2月7日に福島第1原発の放射能汚染水浄化装置から220億ベクレルの放射性物質を含む約5.5トンの汚染水(その後2月15日に、1.5トン・66億ベクレルに修正)が漏えいする事故が起こったことに対し、在日中国大使館は「日本は福島放射能汚染水の処理過程で繰り返し事故を起こし、東京電力内部の管理が混乱し無秩序で、日本政府の監督措置が不確実かつ不十分であることを存分に露呈して、汚染水処理装置が長期的な信頼性を備えていないことを改めて証明し、国際社会による監督の必要性を一層鮮明にした。」(新華社:20240208)と述べた。原子力規制委は2月19日、「廃炉の実施計画に違反の疑いがある」とした。また、21日には経産大臣が東電社長を呼び直接指導するという。
「東電によると、漏れたのは配管の清掃作業中。本来閉じるべき弁が開いた状態で清掃をする作業員に引き渡され、確認も不十分だったため、確認の弁の先の排気口から汚染水が建屋外に漏れた」というが(朝日:2024.2.15)、東電発表の現場写真を見る限り、放射線量の異常に高い、無秩序に作業用具の置かれた雑然とした現場で、限られた作業時間内にできるだけ被ばく線量を避けながら確認も不十分な状況で、あわてて作業しているとしか見えない。昨年からの放射能汚染水の海洋放出をはじめ、全く不可能な福島第一1号機からのデブリの採取計画など、環境中への放射能汚染物質の大量放出防止対策はこの12年間、何一つ進歩していない。メルトスルーした炉心に触れる注入冷却水や地下水からは90トンという大量の放射能汚染水が毎日出し続けられている。このまま進めば、日本は世界最大の核汚染国家となる。
2 原子力規制委は規制を投げ出し
1月1日に発生したM7.6の能登半島地震を受け、原子力規制委は2月14日、原発事故時の住民避難や被ばく防護策をまとめた原子力災害対策指針について議論したが、指針では大量の放射性物質が放出される場合、原則として原発の5キロ圏内の住民は避難、5~30キロ圏内は屋内退避としている。会合では「基本方針は変更する必要がない」とし、山中伸介委員長は記者会見で、「避難所や道路の耐震化などは各自治体の地域防災計画で対応すべきだ」との考えを示した(福井:2024,2,15)。ようするに、能登半島地震では家屋の倒壊や道路の寸断により、屋内退避や避難が困難なことが判明したにもかかわらず。原発は稼働させるが、事故が起きた場合の退避や避難は知らないと投げ出したのである。山中委員長は「自然災害への対応はわれわれの範疇外」だと繰り返した。恐ろしい無責任さである。「後は野となれ山となれ」と核管理「規制」を完全に投げ出した。
3 地震18日後に老朽原発を再稼働する関西電力
能登半島地震による北陸電力志賀原発の被害状況も明らかとならない中、1月18日、関西電力は美浜原発3号機を再稼働した。美浜3号機は運転開始から47年を経過した古い原発であり、耐震基準も古く、いつ事故が起きてもおかしくない。しかし、電事連の池辺和弘会長(九州唱力社長)は19日の記者会見で、「能登半島地震が原子力発電所の再稼働の議論に『直ちに影響しない』との考えを示した。」(日経:2024.1.20)。
美浜原発の場合、使用済み核燃料プールの管理容量 (652体)であるが、現在の貯蔵量(432体)であり、稼働が続けはあと5.3年でプールは満杯となる(電事連方式で=長沢啓行『福井県を使用済燃料で溢れる「核の墓場」と化す関西電力の使用済燃料対策ロードマップ』資料2024.1.27)。大飯原発は、管理容量 (3,872体)、現在の貯蔵量(3,343体)であり、あと4.5年である。高浜原発は厳しく、管理容量 (3,758体)、現在の貯蔵量(3,035体)であり、あと3.3年で満杯となってしまう。この問題を何とか辻褄を合わせようと、厚かましく福井県に提起してきたのが原発敷地内への「乾式貯蔵施設」である。使用済み燃料の一部を乾式貯蔵に移し、プールを空けて運転を継続しようというのである。しかし、それでも3~5年の保管量しか確保できない。全くの付け焼刃である。
4 地震大国日本に原発の安全な場所などどこにも存在しない
東北電力は東日本大震災で大きな被害を受けた女川原発2号機を9月に再稼働するという。東電の「原子力改革監視委員会」の会合が2月13日に開かれたが、柏崎刈羽原発の再稼働について、昨年末に事実上の運転禁止命令が解除されたことから、委員から「フェーズ(局面)が変わった」と前向きな発言が相次いだという(東京新聞:2024.2.13)。能登半島地震では佐渡沖の断層までが連動して動いた。柏崎刈羽原発も地震の影響を受けた。それを、運転禁止命令解除を「フェーズが変わった」として再稼働に走ろうというのはノー天気も甚だしい。
原子力は「経験主義的に身につけてきた人間のキャパシティーの許容範囲の見極めを踏み越えた」。「私たちは古来、人類が有していた自然にたいする畏れの感覚をもう一度とりもどすべきであろう。自然にはまず起こることのない核分裂の連鎖反応を人為的に出現させ、自然界にはほとんど存在しなかったプルトニウムのような猛毒物質を人間の手で作りだすようなことは、本来、人間のキャパシティーを超えることであり許されるべきではない」(山本義隆:『福島の原発事故をめぐって』211.8.25)。
日本は福島第一において核管理に失敗した。そして、現在も失敗し続けている。放射能汚染は今後数百年~数万年も続く。起こってしまったことは元には戻せない。福島の汚染された国土を元には戻せない。せいぜい、現状を維持し、これ以上海洋を含む環境に放射能を出さない、再稼働している原発を全て停止して、これ以上使用済み核燃料などの放射性物質を増やさないようにすることだけが日本に課された責務である。2月7日の東京新聞<社説>は「地震国の原発 安全な場所はあるのか」とし、「志賀町の稲岡健太郎町長が『あらためて地震列島の中の原子力だと分かった』と語ったように、地震国と原発はあまりにも取り合わせが悪い。各地の原発はいずれも海岸沿いに立地しており、もし原発事故が起きるとすれば、地震や津波との複合災害になる可能性が高い。想定外の地殻変動や避難計画の破綻はどこでも起こり得る。…政府も、地震国日本に原発の『居場所』はないと悟るべきである。」と書いた。もう「想定外の津波」という誤魔化しは通用しない。地震大国・日本に安全な地域などはどこにも存在しない。