【投稿】日銀の「異次元緩和」解除と巨大な副作用
福井 杉本達也
1 異次元緩和の罪は万死に価する
日銀は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を決定した。と同時に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC) の撤廃と上場投資信託(ETF)などリスク資産の新規買い入れの終了も決めた(日経:2024.3.20)。
立憲民主党の小沢一郎氏は、「日銀が大規模緩和解除へ、19日決定 長短金利操作も撤廃 自民党とその手先の日銀の敗北宣言。この11年の異次元緩和は、物価高・実質賃金下落で国民を苦しめ、日本の格差と貧困を拡大させただけ。残されたのは巨大な副作用の爆弾。その罪は万死に価する。取り返しがつかない」(小沢一郎X:2024.3.19)。「異次元緩和が行き詰まり、終了を発表したのに円安が加速。二進も三進も行かないことを市場は見透かしている。11年も異様な低金利を続けたために経済も家計も今や少しの金利上昇にも耐えられないほど衰退・弱体化した。結局、今後も物価高が続く。まず、異次元緩和に関する自民党と日銀の謝罪が不可欠。」(小沢一郎X:2024.3.21)とツイートした。
日銀の政策転換は遅すぎた。少なくとも、前黒田東彦日銀総裁が辞めた1年前に異次元緩和をやめるべきだった。日銀総裁は財務省官僚や日銀官僚の「上がり」のポストである。しかし、官僚は誰も手を挙げなかった。そこで、仕方なく学者である植田和男氏が説得された。その後も異次元緩和はつづけられ、円安が止まらず輸入物価が上昇、国民は2年もインフレに喘いでいる。植田日銀は本当は政策転換をしたかったようだが、政府と米金融資本から圧力をかけられ政策転換できなかった。
2 日銀による異次元緩和とは
日銀は2013年からの8年で500兆円の国債を買い、銀行・生保・政府系金融の当座預金に、大量の円の現金を供給し、その当座預金の増加分の58%をドル証券や預金として米国に貸し付け、ドル買い=円売りを行って円安にした。円は過小評価され、ゼロ金利の日本が約5%の金利があるドル債を買っているためドルが過大評価されてきた。米国は、アフガニスタンやイラク、シリアやウクライナ・ガザなど世界各地で戦争の火をつけ廻り、軍事費の負担に喘ぎ、ついに、ウクライナ支援を諦めた。バイデン政権はウクライナ戦争の張本人であるヴィクトリア・ヌーランド国務副長官の首を切った。その瀕死の米国の財政赤字を補填しているのが唯一日本である。日本の政治家と官僚は米国金融資本の指示に忠実にゼロ金利政策を続けた。米ドルと4%程度の金利差があれば、為替変動リスクを考慮しても銀行や生損保がドルを買うに決まっている。
3 上場投資信託(ETF)を買い支えるというばかげた政策
日経平均株価が4万円を突破したが、市民には好景気の実感はない。日銀はETFを簿価で37兆円分、時価ベースで67兆円も保有し、事実上、日本株の最大の株主になってしまった。日銀は10年以上にわたりETFを買い続け、事実上、株価を下支えしてきた。事実、日銀の拡大後の買い入れ枠の規模は、アベノミクス始動直後の2012年12月~2013年4月、日経平均株価を9000円台から1万4000円まで一気に引き上げた。ETFとは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数に連動する運用成果を目指し、個別株と同様に市場で売買できる投資信託である。日銀の購入によってFTFの市場価格が上昇すると、ETF構成銘柄の現物株との間に価格差が生じる。すると、相対的に割安となった現物株に買い注文が入り、現物株も値上がりするというもでである。しかし、日銀という中央銀行が株価を下支えするなどということは他の諸国の中央銀行では考えられない。賭場に国家資金をつぎ込む行為である。、いずれ日銀は「売却」というアクションを起こす必要がある。そのとき、株価には、大きな下押し圧力がかかる。株価が暴落しないように売却することは簡単ではない。2023年には日銀は株式の売り手に転じたもようである(日経:2024.1.9)。
4 日銀の国債の大量買入れで、国家財政は政治家の財布のように
日銀が国債を大量に買い入れることで、財政規律は低下し、政治家によるバラマキが大きくなっている。オリンピックや万博の名のもとに、大きな金を動かし、その中間マージンを政治家やIOCなどの主催者、政府と親しい企業が「抜く」ことで財政効率が極端に悪くなっている。まるで政治家の財布のようにバラ撒かれている。
さらに財政規律を緩めたのがゼロ金利政策、YCCである。通常、政府が財政赤字を拡大し、国債を大量発行すれば、債券市場では国債の需給悪化を読んで長期金利が上昇する。今のようなインフレになれば長期金利は3%程度になっていてもおかしくない。それが財政規律への圧力となる。ところが、日銀が国債の過半を買い上げ、国債需給が実態を反映しないのだから、財政悪化のシグナルは発せられない。政治家からは金利コストが低いうちに国債を大量発行してでも歳出を拡大しろとの声ばかりが大きくなる。
「果てしなく膨張しているのが『補助金』である。巨大な『補助金』がばらまかれている。『補助金』を受領した企業は与党に献金する。裏金も渡しているだろう。『補助金』を配分する官庁は補助金を受領した企業から『天下り』を受ける。『政』・『官』・『業』が『補助金』・『献金・裏金』・『天下り』で三位一体の関係を築いている。…文部科学省のロケット補助金が556億円計上されている。…『市場経済』、『市場原理』を主張する者が政府から補助金を受領するのはおかしいだろう。トヨタがリチウム電池を開発するのに、なぜ政府が1300億円もの補助金を投入するのか。…日本の財政運営は『補助金』で膨張の限りを尽くしている。」と植草一秀氏は書いている(「知られざる真実」2024.3.22)。
例えば、コロナ禍で売上が極端に落ちて1/2以下になった企業に対し持続化給付金という制度が設けられた。国はその業務を竹中平蔵が会長を務めるパソナという会社に委託した。当然、委託業務であるから業務の運営はパソナがしなければならない。ところが、パソナは説明会の場所だけを設定し、受付のアルバイトを雇うだけで、実務を全く行わない。売上が落ちたことを説明する資料の作り方を解説するのは経産省の役人である。もちろん、パソナには決算書を読める人材などは一人もいない。業務を行う能力など全くない。全くの中抜き業務が行われた。さらに、それに輪をかけたのが近畿日本ツーリストである。コロナ・コールセンター委託業務のアルバイト人数のごまかしが発覚した。これが、現在の国の委託業務の実態である。「ブルシット・ジョブ」という言葉がはやったが、それ以上のいらない業務である。極めつけは、女性問題で親子会社社長が3人も辞任したENEOSである。事実上ENEOSと出光の2社の独占状態にあるが、そこに6兆円を超えるガソリン補助金をじゃぶじゃぶと注ぎ込んだ。ENEOSは3400億円、出光は1400億円の営業利益である。補助金がお上から降って来るような経営では社長は何も考えることはない。しかし、円安を放置したまま個別の物価対策を講じても、巨大な財政赤字は膨らむ一方で、効果はない。日本が、これまで長期にわたり円安政策をとってきた結果である。