【投稿】危険な核戦争瀬戸際政策--経済危機論(139)

<<ロシア・戦略的早期警戒システムへの攻撃>>
5/25、ロシアのニュースサイトRTは、「ウクライナはロシアの核の傘の重要な要素を攻撃した」、とするロシア上院議員ドミトリー・ロゴジン(Dmitry Rogozin)氏の発言を報じている。ロゴジン上院議員は、ロシアの核の傘の重要な要素に対するウクライナによる攻撃の直接の責任は米国にあると述べ、そのような攻撃は世界の核安全保障構造全体の崩壊につながる可能性があると警告している。この攻撃は、2013年に運用が開始されたアルマビル(Armavir)市のヴォロネジ・レーダー基地を標的としたものとみられ、射程6,000kmで飛来する巡航ミサイルや弾道ミサイルを探知でき、最大500の目標を追跡できるシステムである。
 ロゴジン上院議員は、以前ロシア宇宙機関ロスコスモスのトップを務め、現在は軍事技術センターの責任者であり、同日の声明で、攻撃はクラスノダール地方南部のロシアの戦略早期警戒レーダーサイトを標的としたものだと述べている。ロゴジン氏は、この攻撃が、米国の関与なしにキエフ単独の主導で実行された可能性は極めて低いと述べている。

5/25、yahoo!news経由ザ・ウォー・ゾーン(WARZONE)の報道「ロシアの戦略的早期警戒レーダーサイトへの攻撃は大きな問題だ」によると、5/23 バイデン政権は、ウクライナの代理部隊を活用し、「ロシアの核の傘の重要な要素」に対して前例のない攻撃を開始し、ロシア軍が核搭載弾道ミサイルの飛来を事実上探知できないように攻撃。衛星画像は、複数の無人機が「国の南西端にあるロシアの戦略的早期警戒レーダー施設」に深刻な損傷を与え、モスクワを敵の攻撃に対してさらに脆弱にしたことを確認した、と言う。実際の衛星画像により、同サイトにある2つのヴォロネジ-DMレーダー建物のうちの1つの周囲に大きな破片が写っており、ロシアの戦略的早期警戒レーダー施設が大幅な損傷を受けたことが確認されている。これは、ロシアの総合戦略防衛に関連するサイトに対する初めての攻撃とみられる。しかし西側大手メディアのほとんどは、この事件に関する報道をほとんど黒塗りにしてしまった、つまり報道されていないと言う。

5/27になって、ウクライナの情報機関筋は、同国の無人機がロシア南部オレンブルク州オルスク近郊の早期警戒レーダー「ボロネジM」を標的にしたと発表し、無人機による攻撃はウクライナ軍の情報機関が5/26に実施、被害が出たかどうかは明らかにしていない。

いずれにしても、こうした核戦争前夜をほうふつさせる攻撃は、ロシアが南部軍管区で戦術核ミサイル演習を開始した直後、あるいはそれに合わせて仕掛けられたものとみられる。きわめて危険な挑発攻撃であると言えよう。

<<核戦争勃発への危険な段階>>
5/27のテレグラフ紙(The Telegraph)の報道は、「ウクライナによるロシアの核レーダーシステムへの攻撃で西側諸国が警戒」という見出しで、ウクライナはロシアの核インフラへの攻撃を避けるべきだとして、米国科学者連盟の核兵器専門家ハンス・クリステンセン(Hans Kristensen)は「ウクライナ側の賢明な決定とは言えない」と述べ、ノルウェーの軍事アナリスト、ソード・アー・イヴァーセン(Thord Are Iversen)氏が、ロシアの核警報システムの一部を攻撃することは「特に緊張の時代には特に良い考えではない」と述べ、「ロシアの弾道ミサイル警報システムがうまく機能することは誰にとっても最大の利益だ」との発言を紹介している。

しかし実際には、2024年、今年初めに米地対地長距離ミサイル・ATACMSの新たな部分を極秘に受領して以来、ウクライナ軍はこれらの兵器をロシアの空軍基地、防空拠点、その他の目標に対して使用してきていること、そして米軍がその標的に対して深く関与していることは紛れもない事実であろう。
今回攻撃の対象となったアルマビルのヴォロネジ・レーダー基地は、ロシアの大規模な戦略的早期警戒ネットワークの重要な部分を占めており、たとえ一時的であってもその機能喪失は、迫り来る核の脅威を探知するロシアの能力を低下させるものであり、同時に、特定の地域で重複するカバー範囲が失われる可能性があり、これが潜在的な脅威を評価し、誤検知を排除するロシア全体の戦略的警戒ネットワークの能力にどのような影響を与えるかについても懸念されているところである。

しかし問題は、そうした懸念以上に、この攻撃が、ロシア政府が2020年に核報復攻撃を引き起こす可能性のある行動について公的に定めた条件を満たす可能性があると指摘されていることである。
ロシアの早期警戒ネットワークは、同国の広範な核抑止態勢の一部である。「核抑止に関するロシア連邦国家政策原則」というその基本文書によれば、「ロシア連邦による核兵器使用の可能性を規定する条件」には、「ロシア連邦の重要な政府施設や軍事施設に対する敵対者による攻撃、その妨害により核戦力への対応行動が損なわれること」が含まれると明記されている。今回の攻撃は、その条件に合致しているとも言えよう。核戦争勃発への危険な段階の到来である。

米・バイデン政権は、成長期待が低下すると同時に、インフレ率が急上昇するスタグフレーション化で支持率がどんどん低下しているが、その根底には対ロシア・対中国政策において、一貫して緊張激化・戦争挑発政策を追求してきたことが横たわっている。緊張緩和と平和外交こそが、スタグフレーション化を阻止するかなめなのである。しかしバイデン政権は、核戦争をも招来しかねない核戦争瀬戸際政策に限りなく近づこうとしているのである。
 このバイデン政権に同調して、イギリス政府はすでにウクライナに対し、ロシアを攻撃するためのミサイル使用を許可しており、スナク首相は徴兵制の復活をさえ公言している(5/26)。フランスのマクロン大統領は、将来的にウクライナへの派兵を排除しないと何度も言明している。
本来あってしかるべき外交と緊張緩和政策が、西側諸国によってすべて拒否されている現実こそが、危険な核戦争瀬戸際政策に追いやっているのである。しかしそれは同時に、彼らの一層の孤立化と矛盾の拡大をももたらしている。西側米同盟国間でさえ、今や意見が分岐し、イタリアでさえ、ロシア国内の拠点を攻撃することに対する規制の解除を求めるNATO事務総長のストルテンベルグ氏を「危険人物」と呼ぶ事態である。
今要請されているのは、緊張激化を煽ることではなく、緊張緩和と平和外交こそが出番なのである。平和のための闘いが一層の重要さを増している。
(生駒 敬)

 

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 生駒 敬, 経済, 経済危機論 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA