【投稿】G7・「不幸な集まり」--経済危機論(140)

<<「弱体化した西側諸国指導者」>>
6/13、米ニューヨークタイムズ紙は、「弱体化した西側諸国の指導者らがイタリアに集結し、無秩序な世界について議論」、「G7は主要先進国を集めているが、その指導者たちは政治的に弱く、ウクライナとガザの問題は未解決のままである。」と酷評、イタリアのメローニ首相を除き、G7各国の首脳は困難な内政状況を抱えながら会議に出席しており、その「不幸な集まり」は西側の政治的混乱を物語っている、と指摘している。

「日本の岸田首相は支持率が低

下しており、秋に退陣する可能性が高い。カナダのトルドー首相は8年以上も在任しており、国民の失望に直面している。ドイツのショルツ首相、及びフランスのマクロン大統領は欧州議会選挙で敗北し、政権維持が危ぶまれている。総選挙を目前に控えた英国の

スナク首相にとって今回のサミットは「お別れツアー」になる可能性が高い。加えてバイデン氏も支持率が低下しており、ドナルド・トランプ氏との大統領選では厳しい戦いが予想されている。」と、ロシア紙スプートニク(6/14)が紹介している。
そのG7で、「年末までに、我々の管轄区域で凍結されているロシア資産の利益を使って返済する融資メカニズムを通じて、ウクライナに約500億ドルの追加財政支援を提供するという政治的合意に達したことを確認した」とメローニ首相はイタリアでのG7サミットで述べた。ただし、あくまでもG7が没収するのは、凍結したロシア資産から得られた利息だけであり、凍結資産そのものではないと釈明している。「我々はこれらの資産の没収について話しているのではなく、時間の経過とともにそれらが生み出す利息について話しているのだ」と述べ、G7サミットで調印されるこのメカニズムでは、米国、欧州連合、その他の参加国がウクライナに融資を行い、ロシアの資産から得られる収入を返済に充てる、と言う。だが、他国の資産による利息の盗用である、と言う本質は否定できない。

これは明らかな国際法違反である。6/13、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワ氏は、この展開についてコメントし、「ロシア資産を没収しようとするいかなる試みも窃盗であり、国際法違反である」、ロシアの凍結資産からの利益を使ってウクライナに500億ドルの融資を行う計画は西側諸国にとって有益ではなく、新たな経済危機を引き起こす可能性があると述べ、「このような措置は西側諸国にとって何の利益にもならない。他人の犠牲のもとでキエフ政権に資金を注入するという違法な取り組みは、最終的に金融システムの不均衡と壊滅的な危機をもたらす可能性がある」と警告している。

<<ドルの地位の劇的低下>>
第二次大戦中でも、敵対国の口座を凍結することはあっても、盗用することはなかったのである。これまでいまだかつて起こったことのない国際法違反の資産窃盗行為に踏み出すことは、多国間国際貿易決済、通貨取引全般の根本を揺るがすものであり、ドル離れを一層加速させ、ドル一極支配体制の事実上の崩壊を自ら認め、主要基軸通貨としてのドルの地位を劇的に低下させる行為であると言えよう。

さらにこのドル離れは、この6/9に、1974年に米国とサウジアラビアの間で締結されたいわゆる「オイルダラー協定」が、失効し、実態は別として公的にも、サウジアラビアは中国人民元や他国通貨、米ドル以外の通貨で石油やその他の商品を決済できるようになっており、現実に、サウジ主導の湾岸諸国から中国とアジア太平洋地域に輸出される原油は1日あたり約1200万バレル、中国は原油輸入1300万バレルをペトロ元で支払い、ロシアは原油と石油製品をルーブルとペトロ元で850万バレル販売し、インドは輸入500万バレルをルピーで支払っている。かくして現実は一層明確にドル離れの進行が先行している。すでに世界の原油取引の少なくとも52%がドル以外の通貨で販売されているのである。サウジアラビアはもちろんであるが、BRICS諸国もすでに貿易決済に米ドルを使用しなくなり、米ドルの需要はこの24年以降着実に減少、米国債の購入に米国に還流する米ドルが大きく減少し、それを防止するためにも、米国債の買い手を引き付けるためにも利上げが不可欠、しかしその利上げは経済を一層スタグフレーション化させる政治的経済的危機を激化させる、泥沼に自ら追い込んでいるのである。

そしてこの脱ドル化を決定的に加速させてきたのは、バイデン政権自身が推し進める緊張激化、対ロシア・対中国制裁・戦争挑発政策である。直接・間接の膨大な軍事支出の増大により、米国自身の国家債務がいまや34兆ドルを超え、米国財務省に6,600億ドルもの利息(2023年)がのしかかり、国の総利息(国家債務の支払いと政府口座が保有する債務の政府内支払いを含む)は2023年に合計8,790億ドルに上る事態である。この状況は、米ドルに対する信頼を損ない、脱ドル化の動きをさらに加速させている。つまりは、米国は自らの手でドル離れを加速させているのである。

<<欧州議会選挙「戦争党は罰せられた」>>
6月6日から9日までおこなわれた欧州議会選挙は、象徴的である。バイデン政権のこうした緊張激化・戦争挑発政策に追随してきたフランスとドイツの現政権が劇的な大敗を喫したのである。
フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領は、極右民族主義のマリーヌ・ル・ペンの国民連合が最多の票を獲得し、マクロン大統領の同盟の得票率が約15%だったのに対し、2倍以上の32%と大敗である。
ドイツでは、やはり極右・民族主義のドイツのための選択肢(AfD)が15.9%の票を獲得し、キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)に次ぐ第2党となり、旧東ドイツ全体では第1党となっている。オラフ・ショルツ首相の社会民主党(SPD)に大きな打撃を与え、史上最悪の結果で、得票率14%で3位に落ち、ドイツの緑の党も大敗し、2019年の20.5%で第2位だったが、今回12.8%で第4位に転落である。

 6/10、元米中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデン氏は、自身のSNSで、「欧州議会選挙で戦争党の政治家は厳しく処罰されることになった。これはバイデンにとって良くない兆候だ。平和にチャンスを与えるときが来たのかもしれない」と、投稿している。
ここで注意を要するのが、スノーデン氏の言う「戦争党」である。極右・民族主義政党はその本質からして、「戦争党」であるはずだが、問題はそう単純ではない。本音は別として、フランスの極右・ルペン氏は、ウクライナ支援に非常に懐疑的な立場を何度も表明し、NATO統合軍司令部からフランスの撤退をさえ主張してきたのである。そしてドイツのAfDは、「常にロシアとの平和的対話」を主張してきたのである。
つまりは、「戦争党」とは、バイデン氏とともにウクライナをめぐって戦争挑発と緊張激化を煽り立てるフランスのマクロンとドイツのショルツの党なのであり、その戦争党が「罰せられた」ことに、今回の欧州議会選挙の本質が現れているのだと言えよう。

こうした事態にうろたえたフランスのマクロン大統領は、極右政党「国民連合」の台頭を阻止するために、議会を解散し、この6月30日と7月7日に2回の総選挙を予定するという賭けに打って出た。しかし、これは裏目に出る可能性が極めて高い。

 6/14、左派政党のほとんどを結集する新しい人民戦線の結成が急きょ浮上してきている。これはマクロンとの大同団結ではない。緑の党、社会党、共産党、屈しないフランス党の統一戦線である。この「新人民戦線」は、共同綱領と候補者の共同リストを発表し、「団結への期待が表明された」。
この新人民戦線(NFP)と呼ばれるこの新連合は、中道左派の社会党(PS)と左派の不服従のフランス(LFI)など複数の政党が力を合わせ、共通の政策を打ち出し、マクロン氏の政策からの「完全な決別」を推進すると発表。LFIのリーダー、ジャン=リュック・メランション氏は、連合結成を「フランスにおける重要な政治的出来事」と呼び、「これは非常に前向きな新しい展開だ!」と声明で述べている。1936年に結成された反ファシスト統一戦線である人民戦線にちなんで名付けられたNFPは、直近の世論調査で28%、ルペンの国民連合・RNは31%以上、マクロンのルネッサンスはわずか18%である。事態は劇的に変化する可能性を浮き彫りにしている。
問われているのは、バイデンやマクロン、ショルツ、彼らに追随する「戦争党」に対する闘いなのである。
(生駒 敬)

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 生駒 敬, 経済危機論, 統一戦線論 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA