【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
福井 杉本達也
1 歴史的総選挙だったが、投票率は低く
日刊ゲンダイは「想像を絶する自民党の大惨敗だ。自公の与党で計215議席。公示前から64議席減らし、過半数の233を18議席割り込んだ。裏金事件の真相究明をウヤムヤにして、選挙で幕引きにしてしまえ、という姑息に、全国の有権者が怒りの鉄槌を下した形だ。石破首相の変節という裏切り、政治とカネへの反省ナシ、裏金非公認候補への2000万円支給……。日を追うごとに墓穴を深めた腐敗堕落政党の歴史的末路である」と書いた((日刊ゲンダイ:2024.10.29)。
しかし、投票率は小選挙区で53.85%、比例代表は53.84%で、前回衆院選をさらに下回り、戦後3番目に低い水準にまで落ち込んだ。元朝日新聞記者の佐藤章氏は「注目されていたのになぜ投票率が低かったのか? 自民党の集票システムがぶっ壊れたからである。インボイス導入で地方の中小土建業者が塗炭の苦しみを味わい、国内農家を無視したアメリカ農産物の輸入増加によって農家・JAが打撃を受けた。自民党への投票者はもういない!」とXに投稿した(2024.10.29)。また、明治大学の井田正道教授は「自民支持層が自民に嫌気を差して寝る行動に出た。野党にも入れたくないので『政治からの退出』を選択したと言えます」(井田正道:日刊ゲンダイ:2024.10.29)と分析する。立憲民主党は小選挙区で自民に競り勝ったが、比例代表の得票数をみると、立憲支持が広がったわけではない。これは、野田代表が「政権交代」を掲げながら、代表選から2週間あったにもかかわらず、各政党間との具体的提携協議をしなかったことにある。目標が示されなければ国民は動かない。
2 政党としての大義を失った公明党
「下駄の雪」と揶揄される公明党は、9月末に就任したばかりの石井啓一代表(埼玉14区)が落選、維新とすみ分けてきた大阪では、佐藤茂樹副代表(大阪3区)を含む4人全員が小選挙区で議席を失い、佐藤副代表は落選した。選挙区事情を優先して、西村康稔元経産相(兵庫9区)や三ツ林裕巳前議員(埼玉13区)ら35人を推薦した。選挙区が隣接する石井らとの票バーターが目的であり、自民党を上回る腐りきりであった。佐藤章氏は「公明党はすでに政党としての大義を失っている。憲法違反の集団的自衛権を導入しアメリカから高額兵器を買い続けた安倍政権にあれだけ協力し、唯一の存在理由だった『平和の党』を投げ捨てた。創価学会婦人部はやる気を失い戦闘能力激減。無能力・石井啓一の落選は自明の理」と書いた(佐藤章:上記)。
3 他党・他国批判しかない共産党
田村共産党委員長は「裏金を最初に報じたのは赤旗だ」と訴えた。また、選挙中、自民党本部が、裏金事件で非公認になった候補者側に活動費2000万円を支給していた問題をスッパ抜いたのも「赤旗」だった。しかし、こうした行動は共産党の票には結びつかなかった。日本共産党は冷戦時代末期から中国やソ連は社会主義ではないと主張。中国やキューバなどの現存する社会主義国が共産主義社会を目指す方向性とは全く異なる。他国の悪口、中ロを遅れた国と解釈し、西側を高度に発達した資本主義先進国と見立てる。長年にわたり「共産主義」を掲げながら、日本においてどのような社会主義制度を描くのか明確ではない。我々の生活を改善するのかどうか。宗文洲氏は「日本社会における共産主義的所有制度、法治体系及び産業政策について全く研究も言及もせず、単なる自民反対、民主反対、中国反対、ロシア反対…労働せず反対でご飯を食べている」だけだと批判している(X:2024.10.28)。これでは、党員の高齢化とともに衰退するだけである。
4 福井2区では立憲民主党・辻英之氏が当選、1区は同・波多野翼氏が比例復活当選
福井2区は敦賀市(もんじゅ・敦賀原発)・おおい町(大飯原発)・高浜町(高浜原発)を抱える原発銀座である。この原発銀座に長年君臨してきたのが、自民党の高木毅氏である。毅氏の父親の故高木孝一敦賀市長は石川県志賀町の講演会で、「(1981年4月の敦賀発電所放射性廃液漏出事故について)マスコミがなぜ騒ぐのかまったくわからない」「電源三法交付金や原発企業からの協力金でタナボタ式の街づくりができるから(原発を)お勧めしたい」「(放射能汚染で)50年後、100年後に生まれる子どもがみんな片輪(原文ママ)になるかわからないが、今の段階では(原発を)やったほうがよいと思う」等と述べた」(Wikipedia)。こうした関電や日本原電などの原発企業をバックに、高木氏は2021年9月に国対委員長にまで上り詰めたが、裏金事件が発覚し、総額が1019万円あったということで、国対委員長を辞任・党員資格停止となり、今回は自民党非公認で出馬した。
安倍派5人衆の1人ということで、何としても対抗馬を出さなければと模索したが、候補者がなかなか決まらず、立憲民主党県連が辻英之氏(青森大教授・54歳)擁立を決めたのは7月30日である。選挙の2カ月半前であり、ぎりぎりのタイミングであった。福井2区では英之氏の父親である故辻一彦氏が合区前の旧福井3区で旧民主党から当選しており、兄も挑戦していた。知名度不足・準備不足の中ではあったが、選挙事務所に関電副社長が陣取る高木毅氏に2万票以上の大差をつけて当選した。
福井1区はさらに混迷した。それまで、予定候補としていた女性が9月末に党運営を不満として突然離党してしまった。総選挙まで2週間を切る中、10月7日に越前市職員の波多野翼氏(39歳)を擁立するというドタバタ劇であった。候補者の地元は150軒ほどの集落であるが、地元出身でもなく、勤務地が30キロも離れた越前市ということもあり、本人を知るものは誰もいなかった。それでも、自民党裏金への批判とSNSを駆使した情報拡散・自治労や連合の応援もあり、裏金候補・元防衛大臣の稲田朋美氏に1万6千票差まで肉薄した。福井は比例は北陸信越ブロックであり、新潟選挙区では立憲民主党が独占するなどしたため、波多野翼氏は比例で復活当選した。何としても自民党の腐敗政権を倒さなければならないという強い風が、ぎりぎりのタイミングでの候補者擁立と2名の当選に繋がったといえる。
5 今後の展開
自公は政権維持のため国民民主党の取り込みに躍起である。立憲民主党も具体的な構想を示さねばならない。経済学者の植草一秀氏は、「野党陣営が『消費税率の5%への引き下げ』で足並みを揃えれば政権交代が実現する。」と提案する。野田佳彦氏は2009年総選挙で消費税を引き上げないとの公約したにもかかわらず、2012年に消費税率を10%に引き上げる法律制定を強行し、小沢一郎氏らが離党し、民主党政権を大敗北に導いた「戦犯」である。今回、小沢氏が代表選で野田氏を支持したこともあり、野党結集ができるかどうか。いずれにしても、インフレで実質賃金は連続して下がっており、エンゲル係数は上昇し続けており、生活を守るには、トリガー条項程度の小手先ではどうにもならない。
また、国際的には米大統領選が11月11日に迫っており、共和党・トランプ氏の大統領返り咲きが濃厚となっている。トランプ氏が返り咲けば北朝鮮との関係も大きく変わる可能性がある。韓国からの米軍撤退もあり得る。極東の情勢が大きく変われば、これまで自民党を支えてきた「朝鮮戦争」という中ロなど大陸と無意味な緊張状態を作りだし政権を維持してきた重しもなくなる。「米民主党日本支部」としての自民党はいよいよ再編せざるを得なくなる。いずれにしても歴史的末路は迫っている。