<<「よりましな悪」の選択>>
11/5の米国大統領選挙は、「よりましな悪」の選択で、共和党のトランプ前大統領に勝利をもたらした。民主党候補のカマラ・ハリス副大統領がまだ敗北を認めていない段階で、7激戦州すべてでの勝利を確保し、トランプ氏は、「これは素晴らしい政治的勝利であり、アメリカを再び偉大な国にすることができるだろう」、「今こそこの4年間の分断を忘れて団結する時だ」と勝利演説を行った。
女性差別と人種差別、移民差別で分断を煽りに煽ってきた、その意味ではファシストと紙一重の本人が、「分断を忘れて」と言う皮肉
である。
同時に行われた435 の下院選挙、34 の上院選挙でも、トランプ・共和党の優勢が確実視されている。
ハリス候補は接戦でもつれ込むどころか、予想外の大差で引き離され、民主党・バイデン/ハリス政権の敗北が浮き彫りになったのである。
なぜ、こうした事態になったのか。
世論調査によると、投票の際の第一の問題は、経済であり、それはインフレ、不安定雇用の蔓延、レイオフの拡大である。バイデン政権の経済好調という宣伝は、その嘘が見抜かれてしまっており、過去 4 年間のインフレ率の 25~35% 上昇、過去 1 年間の民間部門の賃金と給与の雇用水準の低下、実質週給の 0.4% の低下、終わりのない慢性的な戦争、住宅価格の高騰、金利の上昇が、バイデン/ハリス政権の敗北をもたらした根本原因だと言えよう。
しかし、それ以上に問題なのは、ハリス氏が、バイデン氏に代わって登場し、刷新感もあり、女性候補として、妊娠中絶など女性の人権確立への期待も大いに高まり、支持率も上昇していたにもかかわらず、敗北したことである。ハリス氏は自ら進んで、バイデン氏との違いは何もないと明言し、バイデン大統領の単なる延長にしか過ぎない立ち位置を告白し、自滅してしまったのである。
ハリス氏は、バイデン氏の緊張激化・戦争政策の継続を明言し、より悪いことに元共和党の戦争犯罪者のディック・チェイニーとリズ・チェイニーと一緒に選挙運動をする、つまりは戦争政策の継続に意義を見出し、パレスチナの民間人の犠牲者を最小限に抑えたいと語りながら、「犠牲者を最大化する」政策を支持し続け、さらにはイランとの戦争拡大への道につながる行動を選んだのである。そして、ロシア・ウクライナ戦争について、泥沼の戦争に膨大な援助を行いながら、即時の和平交渉を提案することさえできない、むしろ核戦争の危機に限りなく近づく路線の続行に組みしたのである。
さらに、労働組合や進歩的な市民団体と連携を強化・拡大する代わりに、大企業・大資本の支援に期待し、媚びへつらう政策に同調し、トランプ氏を上回る選挙運動資金確保に精力を傾けたのであった。
<<「鼻をつまんで投票」>>
対してトランプ氏は、「外国での戦争はもうしない」と明言し、「カマラ氏があと4年間大統領を務めれば、中東は次の40年間炎上し、あなた方の子供たちは戦争に行くことになるだろう」と、ハリス氏批判の論点を突き付け、ハリス氏は「他国の戦争」を支援し資金援助し続けたいと考えているため、投票すべきタイプではないと批判し、これにハリス氏は具体的で有効な反論を何一つ行えなかった、行おうとしなかったのである。
トランプ氏の「外国での戦争はもうしない」との発言は、眉唾ものであることは間違いないであろうが、選挙戦においては、一つの重要な判断材料ではある。
重要な激戦州の一つで、住民の54%強が中東または北アフリカ系であるミシガン州のディアボーン市のアブドラ・ハムード市長(Dearborn Mayor Abdullah Hammoud)は、11/4、米デモクラシー・ナウの番組で、トランプ氏との会談を拒否し、ハリス氏を支持しない理由を次のように語っている。
「私はトランプ大統領に騙されるような人間ではありません。ドナルド・トランプが問題に対してどのような立場を取っているかは、私たちは非常によく理解しています。彼はイスラム教徒入国禁止令を導入した大統領であり、ゴラン高原を併合した人物であり、議会予算からパレスチナの人道的活動と問題への資金提供をすべて排除した人物です。サウジアラビアに武器を提供し、イエメンで3万人以上の罪のない民間人を殺害した人物です。ですから、私はドナルド・トランプ大統領に騙されるためにここにいるわけではありません。ですから、私は原則としてドナルド・トランプとの会談を拒否しました。」
ハリス氏については、「ここ1年以上、私たちは停戦と適切な手段による停戦の実現を求めてきました。これまでの話し合いや停戦の実現方法に関する歴史的知識を踏まえると、大統領が電話を取り、戦争犯罪人ベンヤミン・ネタニヤフとその内閣に停戦の実現を要求する意志がなければなりません。また、武器禁輸措置を講じる意志もなければなりません。」「ハリス副大統領が打ち出した政策から私たちが見ていないのは、彼女がこれを達成するつもりがあるかどうか、あるいはどのようにそれを実行するのかということです。」「ガザ全域で行われ、今やレバノンにまで及んでいるこの大量虐殺を可能にし、資金提供することから目をそらすことを望まないのであれば、私たちが前に出てどの候補者を支持することも望まないでしょう。」と明確に答えている。
また、やはり激戦州のひとつであるペンシルベニア州の、No Ceasefire No Vote PA の主催者、リーム・アブエルハジ氏は、「私はパレスチナ系アメリカ人です。生まれてからずっとフィラデルフィアに住んでいます。18 歳になってからペンシルバニア州の選挙では毎回民主党に投票してきましたが、ガザでの大量虐殺を続けるイスラエルを継続的に支持している民主党候補に投票できないという立場に初めて陥っています。私たちは、ハリス副大統領と民主党、そしてバイデン・ハリス政権が有権者の間で極めて不人気な政策を継続的に支持していることを懸念する有権者の運動を代表しています。」とインタビュー(インターセプト 11/1 苦悩する未決定者The Anguished Undecided)で述べている。
アリゾナ州フェニックスのイスラムコミュニティセンター代表、ウサマ・シャミ氏は、同上のインタビューで、それでもハリス氏に投票するとして、「これは非常に困難でした。私は鼻をつまんでハリスに投票するつもりです。結局のところ、第三党の候補者に投票すると、ハリスは負けてトランプが勝つことになるとわかっているからです。それは起こってほしくないことです。」と述べている。
トランプ氏への投票と、その勝利も、おなじく、「鼻をつまんでの投票」であったと言えよう。こうした事態に追い込んだのは、まさにバイデン/ハリス政権であり、敗北をもたらしたものであろう。「よりましな悪」の選択しか提示しえないアメリカ政治の危機の表現でもある。
(生駒 敬)