【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点

<<バイデン政権の「無謀、浅はかさ」>>
2/12のトランプ米大統領とプーチン露大統領の90分に及ぶ電話会談は、バイデン前大統領時代の米ロ緊張激化・軍事対決路線からの転換点を明示するものであったと言えよう。その後のトランプ氏の発言も踏まえて、要点を列挙すると、

1. トランプ氏は、バイデン氏のウクライナのNATOに加盟する可能性についての約束、発言、公言が、「ウクライナ紛争を引き起こした 」、「紛争に直接寄与した重大な挑発行為だった」、「それが戦争が始まった理由だと思う。」、「彼はそんなことを言うべきではなかった」と強調し、「より広範な国際的合意なしにそのような約束をすべきではなかった」として、バイデン氏の発言を「無謀」かつ「考えの浅はかさ」であったと評し、この紛争の原因は、モスクワが一貫して反対してきたウクライナのNATO加盟への野望を支持した前任者のジョー・バイデン氏にあると非難し、それをプーチン氏にあえて伝えたことであった。

2. そのことからの当然の結論として、ウクライナのNATO加盟はありえないし、「2014年以前の国境を取り戻し、NATOに加盟するという」ウクライナの目標は「非現実的」だと発言したヘグゼス米国防長官の発言をトランプ氏は擁護した。ドイツ・ミュンヘンで行われたEU諸国の安全保障当局とウクライナ指導部による高官級会合で、ヘグゼス氏は「明確に申し上げると、いかなる安全保障保証の一環としても、ウクライナに米軍を派遣することはない」と明言し、さらにヴァンス米副大統領も、「我々が常に言ってきたように、米軍は米国の利益と安全保障を促進できない危険な場所に派遣されるべきではない」と断言している。

3. ロシアと米国が直接の「高官級」会談を開催することで合意し、サウジアラビアでプーチン大統領と直接会談する可能性もあることを確認した。2/14、「サウジアラビアは自国での首脳会談開催を歓迎し、ウクライナ危機勃発以来始まったロシアとウクライナの永続的な平和を実現するための継続的な努力を表明する」とサウジ政府は発表している。

4. トランプ氏はプーチン大統領を「信頼」しており、「この問題に関しては、彼は何かが起きることを望んでいると思う」と述べ、「これはバイデン氏が何年も前にやるべきだった」ことであり、そもそもこの紛争が「起こるべきではなかった」ことを強調した。

5. さらに、ロシアがG7に復帰し、グループが以前のG8構成に戻ることを「とても楽しみにしている」とまで述べ、「彼らを追い出すのは間違いだったと思う。ほら、これはロシアが好きか嫌いかの問題ではなく、G8の問題だ。そして、私はこう言った。何をしているんだ? 君たちはロシアのことばかり話しているのに、彼らはテーブルに着くべきだ」と。トランプ氏は、ロシアを除外したことはウクライナ紛争の一因となったかもしれない戦略的な失策だったと示唆し、「もしそれがG8だったら、ウクライナの問題はなかった可能性が高い」と述べたのであった。

<<「軍事予算を半分に減らそう」>>
引き続いて行われたロシアのラブロフ外相と米国のルビオ外相が電話会談では、
* ロシアと米国の関係に蓄積された問題に対処するため、コミュニケーションチャネルを維持することで合意。相互に利益のある貿易、経済、投資協力を妨げてきた一方的な障壁を取り除くことを目指す。
* ウクライナ情勢の解決、パレスチナをめぐる動き、中東やその他の地域問題におけるより広範な問題など、差し迫った国際問題に取り組むという相互のコミットメントを表明。
* 2016年にオバマ政権が開始した、米国におけるロシア外交使節団の活動条件を大幅に厳しく政策を速やかに終了させる方法について意見を交換。
* 近い将来、ロシアと米国の外交使節団の海外での活動に対する障害を相互に排除するための具体的な措置を調整する専門家会議を開催することで合意。
* 両大統領が示した方針に沿って、敬意ある政府間対話の回復に向けて協力する用意があることを再確認。
* ロシアと米国の高官級会談の準備を含め、定期的な連絡を維持することに合意。

こうした合意が軌道に乗れば、画期的な前進であろう。その前進は、トランプ政権の姿勢転換が、より広範な戦略のさらなる転換への移行をも浮き彫りにしている。
2/13のホワイトハウス記者会見で、トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席と防衛予算の削減の可能性について話し合う予定であると述べたばかりか、「いつか事態が落ち着いたら、中国とロシアと会談し、軍事費に1兆ドル近くを費やす理由はないと言おう。そして軍事予算を半分に減らそうと言うつもりだ」とトランプ氏は述べたのである。大いに推進されるべき提言である。この発言を受けて、米防衛関連株は、ロッキード・マーティン(-4.86%)、ノースロップ・グラマン(-6.58%)、ゼネラル・ダイナミクス(-5.30%)など急落している(2/14)。

 そしてこうしたトランプ政権の政策転換に最も強く抵抗しているのは、ウクライナのゼレンスキー氏である。サウジアラビアで行われるとされるワシントンとモスクワの代表団による協議に「キエフは招待されなかったこと」にあからさまな不満を表明し、なおかつ、トランプ氏にプーチン氏との電話会談前に直接会うよう何度も促したが、トランプ氏は同意しなかったことまで暴露している。
さらに、自らの大統領としての任期が2024年5月に終了しているが、戒厳令を理由に選挙の実施を拒否していることについて、トランプ氏が、キエフはいずれ選挙を実施しなければならない、国内世論調査でのゼレンスキー大統領の支持率は「控えめに言っても特に良いわけではない」と発言。この発言に対して、ゼレンスキー氏は「ウクライナでの選挙を望んでいるのはプーチンと米国の少数派だけだ」と開き直っている。
ゼレンスキー氏と同調して、英国のデービッド・ラミー外相は、欧州諸国による共同声明を発表し、「我々の共通の目的は、ウクライナを強力な立場に置くことであるべきだ。ウクライナと欧州は、いかなる交渉にも参加しなければならない」と不満を表明している。。

しばしば、独裁者気取りの制御不能な大統領として、トランプ氏の発言は、一貫性がなく、不確実、場当たり的であると指摘されているところであるが、否定しがたい客観的な現実を忠実に反映しているとも言えよう。
バイデン前政権の「無謀かつ浅はかな」軍事対決路線が行き詰まってしまったからこそ、トランプ政権の登場がもたらされたのであり、これを真の転換点にできるかどうか、トランプ氏がそれを貫けるかどうか、こうした事態の進行に抵抗するEU、NATO諸国が転換をはかれるかどうか、それこそが問われている。
(生駒 敬)

 

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