【投稿】西洋の敗北

【投稿】西洋の敗北

                        福井 杉本達也

1 米ロ首脳電話会談と外相会談は歴史的な転換点

2月12日にトランプ氏とプーチン氏は電話会談を行った。ロシアのペスコフ報道官は「長く、非常に生産的だった」とし、トランプ氏は自身のSNSに投稿し、その中で「我々は、ウクライナ、中東、エネルギー、人工知能、ドルの力、その他様々な話題について話し合った」と書いた。トランプ氏は、両首脳は「ロシア/ウクライナとの戦争で起きている何百万人もの死者を止めたい」ことで合意したと述べ、ウクライナ紛争を解決するための交渉を「即時」開始すると発表した(RT:2025.2.12)。これは歴史的な転換点である。これに続いて、2月18日には、サウジアラビアのリヤドにおいて、ロシアとアメリカの代表団による数年ぶりの協議が行われた。ロシアのラブロフ外相は協議結果を①露米は、両国ができるだけ早期に互いの大使を任命することで合意した。②米国の代表との討議は非常に有意義だった。米国側がロシアの立場をよりよく理解するようになった。③近い将来、ウクライナ和平のプロセスが形成され、交渉担当者が任命されることで合意に至った。露米はウクライナに関する協議を定期的に行う。④露米は、地政学的領域と経済問題で力を結集するために全力を尽くす必要性で合意した。⑤ロシア代表団は米国側に、NATO軍のウクライナ駐留は容認できないと説明した(Sputnik日本:2025.2.19)。ロシアのウクライナ侵攻を巡って2022年2月にバイデン政権が世界の舞台からロシアを「孤立化」させる戦略の一環として事実上凍結したロシアと米国の関係正常化についても話しあった。大使の交換ばかりでなく、両国の経済問題についても協議するすることとなったのである。

2 西洋の敗北

ウクライナ戦争はロシアとウクライナのゼレンスキー傀儡政権との表面上の戦争ではなく、ロシアと米国・NATOとの直接対決の舞台であった。米国・NATOは当初、経済的にも軍事的にも、科学技術力においても簡単にロシアを打ち破れると考えていたが、そのロシアに対し、すべての軍事的能力を出し切り、ウクライナで戦ったが、既に財政的にも、兵器においてもこれ以上戦うことができない状況に追い込まれた。『後漢書』の表現では「刀折れ矢尽きる」状態である。トランプ氏はこのままではドル基軸体制が揺らぎ、米国が崩壊するとして、就任直後であるにもかかわらず、プーチン氏に会談を申し込んだのである。完全なる『西洋の敗北』である。『西洋の敗北』(文藝春秋、2024年)とは人類学者:エマニュエル・トッドの著書であるが、宗教的・社会的規範の喪失により西洋社会が内部崩壊してきているとする。「近代」という西洋の原理が衰弱し、ニヒリズムに覆われ、ロシアとの戦いが起こる以前にすでに、西欧は内部崩壊しつつあり、ロシアとの戦いとそこにおいて、それが表面化したすぎないとする。

3 過去にしがみつく西欧

パンス副大統領は2月14日、ドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議に登壇し「欧州で最も懸念している脅威はロシアでも中国でもない。(欧州の)内側にある脅威だ」と、世界各国の首脳らを前にこう言い放った。「米国と共有するはずの最も基本的な価値観が後退している」とし、SNSへの規制を「検閲」・「民主主義の破壊」などと厳しい言葉で非難した。「反体制派を検閲し、教会を閉鎖し、選挙を中止した側について考えてほしい」とし、根拠に乏しいネット上の主張を制限する欧州の姿勢をかつての共産主義体制に比し、欧州の指導者に向け「自国の有権者を恐れるような政治をするのなら、米国はあなた方のために何もできない」と批判する演説を行った(日経:2025.2.16)。この演説に対し英=米軍産複合体の代弁者:チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターのギデオン・ラックマンは『FINANCIAL TIMES』紙上において「パンス氏は、西側同盟をこの80年間支えてきた自由と民主主義、共通の価値観という理念を否定した」、「もはや欧州諸国にとって米国を信頼できる同盟国とみなせないのは明らかだ。むしろトランプ政権が欧州に対し抱いている政治的野心を考えると、米国は今や欧州の民主主聾を脅か…す敵対国だ」と書いた(FT=日経:2025.2.21)。西欧はまだ、冷戦のイデオロギー的、地政学的な枠組みを維持することに専念しているように見える。西欧がウクライナに支援。経済制裁でロシアと対峙する。そこには冷戦時代と同様のイデオロギー戦争がある。ロシアは専制主義の「悪の帝国」である。民 主主義国家は専制国家と戦わなければならないという論理である。

4 ゼレンスキーは「独裁者」―その独裁者を支援する西欧

2月19日にはトランプ氏は、ウクライナ停戦に否定的なゼレンスキー氏を「独裁者」と呼「ゼレンスキーはひどい仕事をし、彼の国は打ちのめされ何百万人も死んだ」。「コメディアンのゼレンスキーが米国に3500億ドル(53兆円)も支出させ、始める必要もなかった勝てない戦争に関与させた」と非難した(日経:205.2.21)。未ロ主導による停戦交渉がウクライナ抜きて進む協議に耐えかねたゼレンスキー氏は焦っているが、これを裏で煽り・支えるのがスターマー首相の英であり、マクロン大統領の仏である。また、まだ懲りずにウクライナを応援する日本のマスコミも同罪である。トランプ米大統領は、ロシアとの紛争を終わらせるための交渉にウクライナのゼレンスキー大統領が参加する必要はないと述べた。トランプ氏はFOXニュースラジオに対し、ゼレンスキー氏は2022年2月のロシア侵攻開始以来、3年間会議の場にいたが、これまで紛争の終結に失敗してきたと主張した(Bloomberg:2025.2.22)。最後の脅しの決定打は、イーロン・マスク氏が2022年以降、4万台以上のインターネット端末を寄付し、戦場ではウクライナ軍はスターリンク衛星を広く使用しているが、米国当局はウクライナがイーロンマスクのスターリンクインターネット端末を使用するのをブロックする可能性があるとの警告を出した(ロイター:2025.2.22)。スターリンクが戦場で使えなければ、ウクライナ軍の全ての兵器は目を失ったようなもので、その時点で全滅である。ウクライナ戦争は米ロの当事者同士で早急に終わらせなければならない。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 杉本執筆 パーマリンク

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