【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷

<<「平和への道筋を付ける第一歩」>>
トランプ政権の下で、米国は明らかに、ウクライナをめぐるバイデン政権の緊張激化路線から、実利取引と外交を優先する路線に転換している、と言えよう。
その象徴となるのが、ロシアによる対ウクライナ特別軍事作戦開始から3年となる節目の2/24、国連安全保障理事会が採択した「ロシアとウクライナの紛争の迅速な終結」を求める決議であった。紛争開始後、安保理がウクライナの戦闘終結を求める決議を採択するのは、初めてのことである。
米国が提出した決議は、米、ロシアなど10カ国の賛成多数で採択された。同決議は、ロシアによる「侵攻」などのロシア批判の表現を一切使わず、またEU諸国などが求めていた「ウクライナ領土の保全」にも言及しない、「紛争の早期終結」を求める決議であった。これに対し、英、仏、ギリシャ、デンマーク、スロベニアの欧州5カ国は棄権をしたが、安保理の決議には法的拘束力が発生する。
米国のシェイ国連臨時代理大使は採択後、「この決議は平和への道筋を付ける第一歩であり、私たち全員が誇りに思うべきだ」と強調している。

一方、安保理に先立ち開催された国連総会では、法的拘束力はないが、EU加盟国とウクライナが主導した「ウクライナ領土の保全」などを求める決議を、全193加盟国のうち日本を含む93カ国の賛成多数で採択した。しかし、米国やロシアなど18カ国が反対し、中国など65カ国が棄権している。23年2月の同様の決議は、141カ国の賛成であったが、約50カ国もの減少である。

 こうした事態の進行には、前バイデン政権による、NATO拡大政策、ロシアとの緊張激化政策、ウクライナへの膨大な軍事援助、無謀な軍事挑発政策、ロシアへの無限大の制裁政策、等々からの、明らかな転換が反映されている。
そして、すでにルビオ米国務長官は「ウクライナ戦争が解決した場合、西側諸国はロシア連邦に対する制裁を解除しなければならないだろう」と述べている。

トランプ政権は、対ロシアに関する限り、外交と実利追求の路線を優先し、緊張を緩和し、相互の経済協力を促進する路線に実際に踏み出しており、それが同時に、対ロシアを超えた、対中国を含む「軍事予算の50%削減」にまで及び始めている。
プーチン大統領はこの提案に前向きに反応し、「我々は反対していない。その考えは良いものだ。米国が50%削減し、我々も50%削減し、中国が望むなら中国も参加できる。」と応じる事態の展開である。さらに、プーチン大統領は、「主要な」共同経済プロジェクトでの協力について、米国と協議中であることまで明らかにしている(2/24)。

<<バイデン路線継承する英・仏・独の軍事対決路線>>
一方、バイデン路線に追随してきたEU諸国は、事態の進行から取り残され、逆に、こうしたトランプ路線を拒否し、バイデン路線を継承する混迷に陥り、方向を見失いつつある。

 2/17、パリで開かれた緊急首脳会議では、ウクライナに軍隊を派遣するかどうかをめぐって欧州諸国の間で意見の相違があらわとなり、英国のスターマー首相は、英国は「必要であれば自国の軍隊を地上に派遣することで、ウクライナの安全保障に貢献する用意と意志がある」と述べたが、スペインの外務大臣に「現在、ウクライナに軍隊を派遣することを検討している国はない」と断言されている。フランスは、ウクライナに「再保証部隊」なる軍事部隊配置を提案したが、ただちにドイツ、イタリア、ポーランド、スペインに反対されている。

2/23、英国は、ロシアに対する「過去最大」の制裁パッケージを導入する準備を進めていると、ラミー外務大臣が発表し、スターマー政権は、ウクライナでの戦争継続の主唱者としての地位をバイデンから引き継いだ、と言えよう。さらに英国は、ウクライナ紛争とロシアの侵略に関する安全保障上の懸念が高まっているとして、徴兵制の復活をさえ検討していることが明らかにされている。

そして、先のドイツ総選挙で、かろうじて第一党を確保したCDU/CSU(キリスト教民主同盟)のメルツ党首は、元ブラックロックのグローバリストで極右の大西洋主義者、そして熱狂的な親シオニストである。そのメルツ氏は、「外部からの干渉に対抗するためには欧州の団結が必要だ」と強調し、「ワシントンからの介入は、モスクワからの介入に劣らず劇的で過激で、最終的にはとんでもないものだ」と選挙後のパネルで述べて、反トランプ路線を鮮明にしている。大躍進したAfD(ドイツのための選択肢)との連立を拒否し、バイデン路線に追随して大敗した前ショルツ首相・社会民主党SPDとの「大連立」を画策している。メルツ氏は、すでにショルツ連立政権よりもさらに好戦的な反ロシア路線を示唆している。

かくして、英、独、仏は、明らかに対ロシア・ウクライナ戦争が続くことを望んでいるのだ、と言えよう。しかし、もはや、その土台が崩れつつあり、次第に孤立せざるを得ない事態の進行である。
(生駒 敬)

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