【コラム】トランプ大統領就任に思う  

【コラム】トランプ大統領就任に思う  

○これだけ混乱の中で就任したアメリカ大統領はいないだろう。就任を前後して、世界中で500万を超える人々が反トランプデモに参加したと報道された。まさに評判の悪い大統領の誕生である。○1月20日の就任演説を読んだ。トランプ大統領は、新政権の意味について政党から政党への権力の移行ではなく、「首都ワシントン(の支配層)から、権力を取り戻し、あなた方米国民に戻した」、「あまりにも長い間我が国の首都の一握りの集団が統治の恩恵にあずかる一方で、国民は犠牲を払ってきた。ワシントンは繁栄したが国民はその富を共有できませんでした。政治家は豊かになったが、職は失われ工場は閉鎖された。」と語る。彼を大統領に押し上げた「アメリカ衰退」論だ。○そして、「工場が一つずつ閉鎖され、海外に流失していくのに、取り残された何百万人もの米国人労働者は顧みられることもありませんでした。中間層の富は彼らの家から奪われ、世界中にばらまかれたのです。」「私たちは二つの原則に戻っていきます、それは、米国製品を購入し、米国人を雇うということです。・・・私たちは一緒になって米国を再び強くします。」これが就任演説のエッセンスだろうと思う。○このように就任演説では、「アメリカ第一主義」以外の「理念」は、ほとんど語られなかった。8年前のオバマ就任の際の「多様性と寛容」や「平和の意義」表明とは大違いで、まさに「品格」の相違というところか。○果たしてトランプ大統領は、アメリカを再び豊かにできるのか。国民に雇用を取り戻せるのだろうか。おそらく、「アメリカ製品をアメリカ国民が買う」だけで豊かにはなれないだろう。アメリカ企業が中国に工場を作り、安いコストの製品を世界で売っている。ウォール街は世界中の金融資産を運用し、莫大な利益を上げている。この経済構造をどう変えるのか、何も語られていないし、政策もない。唯一の具体的メッセージは、今後国内工場の国外移転にNOと言うだけである。具体的に国内に雇用を増やせない限り、トランプ大統領への期待が失望に変わるのは時間の問題だろう。○何より、政府閣僚の人事が就任演説とは裏腹に、ウォール街の成功者と軍人強硬派が多数を占めている。富の再配分にも触れなかった。既得権益は維持されるのではないか。○一方、大統領選挙ではウォール街と軍産複合体は、ヒラリーに就いた。CIAもそうだ。アメリカの「支配層」はヒラリー支持だった。そういう意味では、トランプ大統領誕生は、アメリカ支配層に衝撃を与えた。どの方向に修復されるのか、新大統領の動向に注目だ。○そして、大きな変化は国際関係にある。ロシアへの対応、そしてEU、イギリスとの対応であろう。ロシアとの関係を対立から協調に外交基調を変更するだろうと伝ええられている。これは国際関係における根本的変化を生み出すことになる。当然、EU・NATOの位置づけも変わる。従来は、対ロシアへの緩衝機構、対抗機構としてNATOという軍事同盟が維持されてきた。米欧の協調体制である。これが対ロシア協調となれば、NATOの存在意義は薄れ、アメリカのヨーロッパ政策も変化せざるをえない。トランプ大統領が最初の首脳会談の相手にイギリスのメイ首相を選んだのは、EUからの完全離脱(ハードランディング)を決めた国との協調を鮮明にしEU分断介入意志の現れだろう。そして、欧州各国の移民反対派との連携を図ろうとしている。これは危険な動きである。この流れが確実なものになるかどうか、不透明だが、トランプ大統領は明らかにこの方向を進めようとしていると言える。○新政権はまだスタートラインに立ったばかりで、まだまだ不透明な部分が多い。差別主義。排外主義、保護主義の新大統領が誕生したという事だけで評価するのは、一面的なのかもしれない。アメリカの新政権がどんな具体的政策を実行するのか、それをアメリカ国民がどう評価するのか。今後も注目する必要があろう。ただただ、「日米同盟が基本」というだけの安倍従属政権に十分な対応ができると期待できないことだけは確かであろうが。(2017-01-23佐野)

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日

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