【投稿】野党共闘で「信任投票」化を阻止せよ
消費増税再延期で衆参同日選挙目論む安倍政権
<偽りの辺野古「和解」>
3月4日、辺野古新基地建設を巡り、沖縄県と政府との和解が成立した。安倍政権はこれまで福岡高裁那覇支部が示した和解案に対し、受け入れを拒否し基地建設を進めるという強硬姿勢をとってきたが、急転直下の和解受け入れとなった。
その内容は前号で述べた「根本案」「暫定案」のうち後者となっている。
これにより国は代執行訴訟、県が行った「埋め立て承認取り消し」執行停止申し立てなどを取り下げ、ボーリング工事を中断することとなった。
そして今後は県と政府が「円満解決」に向けた協議を行い、不調の場合は改めて政府が「埋め立て承認取り消し」に関して是正指示や違法確認訴訟を行うこととなる。
安倍政権は裁判所の和解勧告で、このまま強権的な代執行裁判が進んだ場合、国が敗訴する可能性が高いことを示唆され激しく動揺、さらに6月の沖縄県議会選挙や7月の参議院沖縄選挙区での与党敗北への恐怖から、一時休戦の判断をしたと考えられる。
しかし政府はあくまで辺野古新基地建設に拘泥し、根本的な姿勢は何ら転換していない。和解から3日後の7日には翁長知事に対し「埋め立て承認取り消し処分」の是正を求める、国交相名の指示文を送りつけた。
和解成立から間髪を入れずに、こうした行為に及んだことは沖縄県の是正拒否を引出し、政府勝訴の可能性が見込まれる違法確認訴訟に早期に持ち込みたいという、政権の思惑を露骨に現していると言えよう。
安倍政権は違法性確認訴訟が決着すれば、基地建設に向けたあらゆる「障害」が排除されると、一方的に思い込んでいる。
これに対して翁長知事は8日の県議会で、違法性確認訴訟で敗訴しても、新基地建設阻止に向け、あらゆる権限を行使していくことを表明した。
県は基地建設に関して、和解内容に含まれない問題が惹起すれば、新たな訴訟などを提起していく構えである。現地の闘い、これと連帯する全国の運動も粘り強く取り組まれおり、今後も安倍政権の思惑通りには進まないであろう。
<一人芝居の安倍>
沖縄、南西諸島を対中軍拡の最前線にと目論む安倍政権は、沖縄の抵抗をよそに着々と既成事実を積み重ねている。
3月12日発表された内閣府の「外交に関する世論調査」(1月実施3千人対象回答率6割)では、中国に親しみを感じる人が14,8%だったのに対し、感じないと回答した人が83,2%と過去最高となった。一方同調査では日中関係が重要と答えた人も73,2%にのぼり、この結果を踏まえるならば関係改善が求められていることは明らかである。
しかし安倍政権は真逆を志向している。文科省は17年度から使用される高校1年向け教科書に対し、尖閣諸島など領土問題や南京虐殺事件など歴史問題で多くの検定意見をつけ、「国定教科書化」を一層推し進め若者に民族排外主義を植え付けようとしている。
日本の右派は中国の反日感情は、90年代の江沢民政権による「愛国教育」が原因と非難しているが、日本も同じことをしようとしているのである。領土問題については高校生より先に担当大臣を教育すべきであろう。
さらに防衛省は自衛隊部隊の運用に関し、制服組の権限を拡大し、統合幕僚監部の意向に沿った防衛大臣の決裁が可能なように改めた。戦争法施行を踏まえ、安倍政権の意向に沿ったより効率的な作戦遂行体制が今後作られていくものと考えられる。
これらの動きに合わせ実際の部隊行動も活発化している。3月15日海上幕僚監部は護衛艦2隻、練習用潜水艦1隻が3月19日~4月27日にかけての練習航海中、フィリピン(スービック)、ベトナム(カムラン湾)に寄港すると発表した。フィリピンへの海自潜水艦の寄港は15年ぶり、ベトナムへの海自艦の派遣は初となる。
フィリピンに対しては南沙諸島監視用に海自の練習機を貸与することが決まっているが、今回の艦隊派遣はより直接的に南シナ海情勢への介入を企図したものと言えよう。1月下旬天皇、皇后はフィリピンを訪問し戦没者、犠牲者の慰霊を行ったが、これが対中軍拡の露払いとして利用された形となった。
さらに、政府は戦時の輸送手段を確保するため国策海運会社「高速マリン・トランスポート」を設立、同社が所有する高速フェリー2隻を輸送船として使用することとなった。しかし海自にはこれらに配属できる人員がいないため、自衛隊在職歴のない船員を運航に携わらせる計画がある。これは事実上「軍属」としての徴用であり、海員組合は強く反発している。
このような挑発に中国は警戒を強めている。李克強は第12期全人代の議論を踏まえ、「中日関係はまだぜい弱であり、歴史認識を後退させるべきではない」と安倍政権を牽制した。
これに対して安倍は3月19日、総理としては初めて(これまでは国交相が出席)海上保安学校の卒業式に出席、東シナ海で中国と対峙することになる学生を鼓舞するなど、一層肩に力を込めている。しかし、もう一方の要の防衛大学校では卒業生の任官拒否が昨年の2倍に上り、士官レベルにも厭戦気分と動揺が広がりつつあることが明らかとなった。
さらに戦争法で強固になったはずの日米同盟もおぼつかないものがある。昨年9月、まさに同法の審議中に行われた日米合同演習「ドーン・ブリッツ」の期間中、米海軍司令官が艦内のパソコンで、アダルトサイトを9時間にわたり閲覧していたことが発覚、今年初めに解任されていたことが判明した。アメリカの本気度が推し量れるというものであり、一人熱くなる安倍は滑稽でさえあるが、対中挑発、反対論封殺の動きを加速させている。
<「死ぬ」べきは安倍政権>
国内外に於いて暴政を進める安倍政権に対し、国際社会は痛打を放った。3月7日、国連女性差別撤廃委員会は対日定期審査の最終見解を公表した。
委員会は慰安婦問題に関する日韓「最終合意」、婚姻における夫姓強制などを、指弾、さらに当初は、天皇位の男系継承を規定した皇室典範も是正の対象となっていたことが明らかとなった。
とりわけ慰安婦問題に関しては「依然として課題は多い」として、合意が当事者抜きで進められたことを指摘、さらにこれまでの委員会の勧告を日本政府が軽視してきたとして、今後合意内容の実現に当たっては元慰安婦の思いに十分配慮するよう日本政府に求めた。
21世紀の「リットン調査団報告」ともいえる厳しい内容に安倍政権は逆切れし、菅は8日の記者会見で「極めて遺憾で受け入れられない」「国際社会の考えと大きく乖離している」と述べ、ジュネーブの国連代表部を通じ同委員会に抗議したことを明らかにした。
安倍政権は、国連人権委員会で北朝鮮に対する勧告が発せられると、鬼の首を獲ったかのように大喜びしたが、今回は大ブーメランとして跳ね返った形となった。本来なら日本政府は北朝鮮に求めたのと同様、粛々として見解を受け入れるべきであるが、逆に国連を批判するようでは同一レベルと見られても致し方ないと言える。
安倍政権は「女性が活躍する社会」を掲げながら女性差別を放置している実態が国際的に明らかになったわけであるが、国内からも女性労働者を中心に批判の声が噴出している。
「保育園落ちた日本死ね・・・活躍できないじゃん」と訴えたブログに関し民主党から追及されると、安倍は2月29日の衆議院予算委員会で「匿名なので本当のことか確かめようが無い」と詭弁を呈してかわそうとした。
しかし待機児童問題が存在しないかのような見解に、当事者たちが国会前に登場し怒りの声を上げると、安倍は答弁で「保育所」を「保健所」と言い間違えるなど狼狽を隠せなくなった。
政府は緊急の待機児童対策取りまとめを急いでいるが弥縫策でしかない。今回の待機児童問題は「一億総活躍社会」の欺瞞性をも暴き出したが、いまだ財源が定まらない軽減税率、高齢者への福祉給付金が選挙目当てでしかないことが明らかとなった。
マイナス金利など常軌を逸した金融政策が功を奏さず、日銀は3月15日の金融政策決定会合で景気判断を下方修正するなど、経済状況は深刻化する一方である。今春闘も、マイナス金利の影響で金融関係労組がベア要求を取り下げ、電機連合や自動車総連も苦戦を強いられた。
賃金が改善されない中で国民の負担は増大しており、昨年の戦争法に対する怒りとはまた別の、怨嗟とも言うべき怒りが湧きあがりつつある。「保育所落ちた」はまさにその端緒とも言うべきものであろう。
こうした状況に危機感を募らせる安倍は「改憲」のトーンを落とし、消費増税の再延期という「離れ業」を持って「信任投票」としての衆参W選挙を画策している。そのお膳立てとして、この間国内外の経済学者に増税延期をアピールさせているが、戦争法案審議の際、憲法学者の意見を無視したのとは大違いである。
3月13日の自民党大会で安倍は「選挙のためなら何でもする無責任な勢力に負けるわけにはいかない」とボルテージを上げた。ところが、同日この様子を伝える日本テレビのニュースで『安倍総理「選挙のためなら何でもする」』とテロップが流れた。自民党、官邸は激怒したがあながち誤りではないだろう。
同じころ中国では「習近平は中国共産党最後の指導者」という「誤報事件」があったが、安倍と習に「報道統制強化」という点では大いに一致するだろう。
安倍が一人ヒートアップする中、内閣閣僚、党幹部は相変わらず弛緩している。3月15日の衆院別委で石破地方相は、昨年成立している法案を延々と読み上げるという大失態を犯した。さらに同日の参院予算委で林経産相は放射性廃棄物処理問題を問われ答弁に窮し、「勉強不足です」とあっさりと認めた。
これらに加え島尻、丸川両大臣や丸山の居直りを許しているのは、野党の脆弱さのためである。民主、維新の新党名は迷走の結果「民進党」となったが、まだまだ未知数な部分が多く不安定さは否めない。
しかしながら参議院選挙、あるいはW選挙まで残された時間はわずかであることから、消費増税の再延期というシングルイシューに引きずり込まれることなく、隠された争点を暴き出し政権を追い詰めていくことが求められている。(大阪O)
【出典】 アサート No.460 2016年3月26日