【投稿】大政翼賛体制と北海道知事選をめぐって 統一戦線論(13) 

【投稿】大政翼賛体制と北海道知事選をめぐって 統一戦線論(13) 

<<知事選4連敗の可能性>>
 3月26日告示の北海道知事選がにわかに注目されだしている。
 現職・高橋はるみ知事は前回(2011年)、自民・公明推薦で1,848,504票(得票率69.44%)を獲得し、民主・社民・国民推薦の木村俊昭氏(544,319票、20.45%)、共産推薦の宮内聡氏(176,544票、6.63%)を大きく引き離し、次点とは130万票以上もの大差で勝利している。自民党道連は早々と高橋知事の推薦を決定し、今回も差は多少縮まってもほぼ圧勝と見られていた。
 ところが昨年11月、北海道放送アナウンサーで、知名度の高いフリーキャスターの佐藤のりゆき氏が「道民党」を掲げて立候補を表明。ただちに北海道内で強い影響力を持つ「新党大地」が支持を明らかにし、さらに佐藤氏が北海道電力・泊原発の再稼働に反対する立場を鮮明にしたことから、情勢が大きく転換。反自民・原発再稼動反対で野党が一本化、統一候補が実現すれば、逆転、驕り高ぶる安倍自民が滋賀、沖縄、佐賀に続いて4連敗する可能性が現実化しだしたのである。
 民主党道連内では、横路孝弘・道連代表などが「推薦に値する候補ではない」として佐藤氏支援に難色を示し、あくまでも独自候補を模索し、具体名も挙がっていたが、2/3の道議会民主党の議員総会では「高橋知事4選阻止が最優先」「独自候補にこだわる必要はない」などの意見が相次ぎ、2/15、ついに独自候補擁立の断念を発表、佐藤氏を支援する方針を確認。横路氏はその責任を取り、同日付で代表を辞任。2/21、民主党道連は佐藤氏支持を正式決定するに至った。
 続いて、当初、佐藤支援に消極的であった共産党道委員会も、2/18に至って佐藤氏支援を発表。これまでと同様に、独自候補を立てれば、有権者から見放されてしまうのは間違いない。自民を利するばかりで、落選はしたが善戦・前進したと言う例のセクト主義的で党利優先の唯我独尊的な「自共対決」路線はここに来ておろさざるを得なくなったのである。

<<「支援の形にこだわらず、一騎打ちに」>>
 事実上の野党統一候補となった佐藤氏は、2/6、札幌市の事務所で記者会見を開き、「高橋道政の4期目を良しとしない人は一致団結してほしい。ぜひとも高橋知事と一騎打ちして道民の意思を確認したい」、「私の政策を良しとしてくれる政党、団体があればありがたい」と強調、共産党の支援について佐藤氏は、「推薦、支持ではない。勝手連みたいな感じでしょう」と述べ、「支援の形にこだわらず、一騎打ちになるよう応援してほしい」と、柔軟な形の反自民統一戦線の形成を訴えている。
 慌てだしたのは自民陣営である。「最も恐れていた事態だ」、自民道連の柿木克弘幹事長は渋い表情を浮かべた。「佐藤氏に組織力はないが、道民に知らない人がいないほどの知名度を持つ。昨年の衆院選で善戦して勢いがある共産、民主、大地の組織力が加われば相当手ごわい相手になる」と危機感を隠さない。(毎日新聞2015/2/6)
 2/6、選対事務所開きを行った高橋知事は「今回は今までの中で最も厳しい戦いになる。決戦までの2カ月、全道をできる限り自分の足で駆け巡って頑張っていきたい」と決意を表明。
 経済産業省の官僚だった高橋氏にとって、原発再稼働は当然の帰結であろうし、その再稼動の先頭に立つ北電の当時の会長を、自らの政治資金管理団体の会長に据えて憚らなかった高橋氏であるが、自然・再生エネルギーの宝庫ともいえる北海道で、原発再稼動を争点にすることは墓穴を掘るに等しい。
 さらに、TPPや農協改革をめぐっては安部政権の方針は、農協に敵対的である。JA北海道の政治団体「北海道農協政治連盟」は「(知事選対応は)何も決まっていない」というが、JA北海道は、全国のJA組合数の実に4分の1を占める大所帯で、組合員数は約34万人に上るという(日刊ゲンダイ、2015/2/12)。当然、自民陣営は苦戦を強いられるであろう。

<<「政府の足を引っ張るな」>>
 しかしいかに苦戦とはいえ、前回、自民陣営は、次点に3倍以上、130万票以上もの大差をつけて圧勝している。それにあぐらをかいてきた自民陣営のおごりが彼らの予期せぬ展開をもたらすであろう。
 その証左は、先月1月11日投開票の佐賀県知事選挙で、確認できる。投票日3日前、各紙がすでに自民候補者の樋渡氏「苦戦」と報じていた1/8、現地・佐賀市で自民党の茂木敏充選対委員長は、そのような報道を否定するかのように「ここ数日、樋渡氏がリードを広げつつあります。世論調査など3種のデータの傾向が一致、逃げ切り確実です」と、実質的な勝利宣言をしていたのである。ところが敗北である。
 さらにその前の12月14日投開票の衆院選挙でも、同じく自民党の茂木選対委員長は、自民単独300議席超えに自信をのぞかせていた。12月14日の選挙特番『ZERO×選挙』(日本テレビ系)で、安部首相は「300に届かないじゃないか。話が違っているのは、どういうことだ!」と“ブチ切れ”、「選挙を取り仕切っていた茂木選対委員長をはじめ、党幹部にすごい剣幕で怒鳴っていました」と報じられるほど、生放送とその舞台裏で怒りをあらわにするという異例の事態が展開されている。自民党が300議席を超えれば、次世代の党、維新、民主党の右派らで3分の2を超えると皮算用していた、その当てが外れて怒りも露わに、当たり散らしたわけである。
 とりわけ安倍首相のように思い上がった自己中心主義的な人間は、それに見合った取り巻きを配置し、冷静になることができない。それだけに一層危険でもある。
 安部政権はイスラム国人質事件を徹底的に利用して、安倍政権の対応を批判する者に「テロ擁護」のレッテルを貼り、“非国民”扱いする、大政翼賛的、ファシズム的政治状況をこの際一気に作り出そうとしていると言えよう。すでに憲法9条をないがしろにする新安全保障法制--自衛隊の海外恒久派遣を可能にする、出動範囲の地理的制約をとっぱらう、国連決議がなくても「テロとの戦い」を行う外国の軍隊を後方支援できる--に動き出している。もちろん、憲法9条改悪も具体的な視野に入れ始めた。

<<共産党の歴史的失態>>
 共産党の池内沙織代議士が人質事件での首相の対応に「こんなにも許せないと心の底から思った政権はない。『ゴンゴドウダン』などと、壊れたテープレコーダーの様に繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける安倍政権」などとツイートした。ごく当然な主張である。すると、「首相に責任を負わせるばかりでイスラム国批判がない」といった反論が殺到して炎上。批判におののき、共産党の志位和夫・委員長が「政府が全力を挙げて取り組んでいる最中だ。今あのような形で発信することは不適切だ」と池内氏を注意して全面謝罪させた、という(1/26志位委員長記者会見)。こうした事実経過は、共産党機関紙・しんぶん「赤旗」には一切報道されていない。都合の悪いことには触れないという、共産党の悪しき側面がまたしても露呈した。「自共対決」と喧伝していたはずの共産党、実に「情けない」事態である。看過できない歴史的失態と言えよう。民主党の岡田克也代表も「政府の足を引っ張るな」と党内に発言の自粛を指示したという。
 安部首相にとっては、「このような非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」という願ってもない、どころか思い通りの展開である。
 2月9日、参議院会館内で「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表する記者会見が行われた。
 声明は、「現政権を批判することを自粛する空気が国会議員、マスメディアから日本社会までをも支配しつつある」「『非常時』であることを理由に政権批判を自粛すべきだという理屈を認めてしまうなら、あらゆる『非常時』に政権批判ができなくなる」などと警鐘を鳴らし、「私たち言論・表現活動に携わる者は、政権批判の『自粛』という悪しき流れに身を委ねず、この流れを堰き止めようと考える。誰が、どの党が政権を担おうと、自身の良心にのみ従い、批判すべきだと感じ、考えることがあれば、今後も、臆さずに書き、話し、描くことを宣言する」と真正面から闘う姿勢を明らかにしている。
 いまあらためて、このような声明を生かした、多様で広範な統一戦線の形成と内実が問われていると言えよう。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 パーマリンク