【投稿】橋下・維新、崩壊へ
日本維新の会共同代表、そして大阪維新の会代表である橋下徹・大阪市長が、さる2月7日、市議会に対して市長辞職を届け出た。
橋下・維新の看板政策である「大阪都構想」において、特別区の区割りを強引に絞り込もうとする中で、それを審議する法定協議会で他会派の反対に遭い、「このまま4つの案で議論していたら、5年かかってもまとまらない。法定協議会、議員の意思表示に反して1案に絞った設計図づくりを進めようと思えば、今回の(出直し)市長選で市民の後押しを受けなければならない」として、辞職を表明したのである。
しかし、再選を果たしたところで、大阪市議会、大阪府議会の会派構成が現状のままでは、仮に橋下市長の主張する「法定協議会の議員メンバーの総入れ替え」が実現したとしても、住民投票に必要な議決段階において反対される可能性は高く、手続き面で大いに疑問の残る戦術である。(なお、両議会とも維新の会は過半数を占めておらず、議会選出メンバーの総入れ替えも現実味はない。)
橋下市長が唯一頼みにしている「民意」にしても、2月8日・9日に行われた大阪市民に対する世論調査(朝日新聞社)によると、出直し市長選の実施に反対が56%、賛成が34%と惨憺たる結果となっている。まさに「大義なき選挙」を市民はしっかりと見抜いているといえる。
さらに、橋下市長への支持率も支持46%、不支持41%と、大阪市民に限った数字では、初めて5割を切ったのである。
選挙戦そのものも、自民、民主、公明は早々に候補擁立見送りを決定し、共産党も「野党統一候補の擁立を引き続き模索する」としながらも「独自候補は擁立しない」として、事実上の擁立見送りを決定したことによって、「独り相撲」になる公算が大きく、「民意」に直接訴える機会すら得ることができなくなっている。
これら橋下・維新の迷走は、今に始まったことではない。
2011年春の統一地方選挙で維新が大阪府議会の過半数を握り、大阪市議会・堺市議会で第一党を占め、その年の11月に、大阪市長・大阪府知事のダブル選挙を仕掛けて圧勝したころがピークだった。
その後、石原・太陽との日本維新の会結成の時点から、徐々に「民意」は離れ始めており、昨夏の参議院選挙においても、橋下代表の従軍慰安婦を巡る発言の影響もあってか、大阪選挙区の「大勝」以外はさほどの伸びは得られなかった。
その大阪においても、昨秋の堺市長選挙では、1期目は橋下の全面的な支援で当選した現職が、大阪都構想に反対を表明して橋下に反旗を翻し、維新公認候補が大敗を喫したのである。
さらに、大阪南部のニュータウンを貫く優良路線・泉北高速鉄道の売却を巡り、沿線住民の悲願である「高額運賃の値下げ」ではなく、米投資ファンドへの高値売却を優先した維新・松井知事の提案に対し、沿線選出など4人の維新府議が造反したことにより、議案は否決された。維新は造反府議を除名処分としたが、その結果、府議会でも過半数を割ることとなったのである。
やはり、個人のカリスマ性に依拠した政治勢力は脆い。
小泉チルドレンの悲惨な末路と同様、来春の統一地方選では、橋下バブルの1期生議員らは次々と落選するであろう。また、元自民系の地盤が確立された議員らが、維新を見放して「実家」に続々と帰ることであろうことも容易に想像できる。
国政レベルでは、原発政策や野党再編の方向性で路線が違い、今回の橋下辞職戦術にも批判的な石原の勢力との東西分裂は避けられない。
まさに「死に体」への坂道を急激に転げ落ちているといえよう。
気になる点が一つある。
2月9日に行われた東京都知事選において、田母神俊雄・元航空幕僚長が、予想を上回る60万票を獲得したが、その支持層は20~30代の若者であると分析されている。
先の橋下市長を巡る朝日の世論調査では、年代別の分析までは発表されていないが、恐らく同様の傾向があるのではないだろうか。
彼らの支持基盤は、「ネトウヨ」と呼ばれる、インターネットを通じて右翼的な発言を匿名で繰り返す若者達である。格差の拡がりや将来への不安感などを背景とした、これらの危険な兆候に対して、我々は十分な注意を払わなければならない。
一方、この間の動きで特筆すべきは、共産党の統一戦線戦術である。
負けこそはしたものの、2011年の大阪市長選では、一旦運動を始めた候補者を降ろしてまで、「反ハシズム」統一戦線を形成した。昨秋の堺市長選でも同様に、勝てる見込みのない独自の「赤旗」候補を立てるのではなく、現職を全面的に支援し、維新への勝利に大きく貢献した。「出直し」大阪市長選挙においても、前述のとおり他の野党と足並みを揃えて独自候補の擁立を見送ったのである。
党勢衰退の結果であるとも言えるが、解放運動や労働運動、学生運動を巡る「分裂」の怨念が渦巻く大阪の地において、限定的であるにしろ統一戦線戦術がとられていることは、意義深く、そして感慨深いものがある。
橋下・維新の崩壊は近い。いよいよ反撃の時が来たのである。
(大阪 江川 明)
【出典】 アサート No.435 2014年2月22日