【投稿】「南京大虐殺展示撤去」に寄せて
2013年2月15日(金)毎日新聞に、次のような記事が載っていました。
『=南京大虐殺展示撤去へ=「ピースおおさか空襲などに特化」
大阪府は14日、戦争と平和に関する展示施設「大阪国際平和センター」(ピースおおさか)の内容について、南京大虐殺など日本軍の加害行為に関する展示を14年度に撤去し、大阪空襲などに特化することを明らかにした。政治主導で歴史教育の場を再構築するという。
ピース大阪の展示は<大阪大空襲・アジア侵略・平和への取り組み〉の三本柱。アジア侵略の展示では、く朝鮮人の強制連行や南京大虐殺の資料・写真〉を紹介している。しかし、大阪維新の会府議が「子供には残虐すぎる」と問題視。
松井一郎大阪府知事は記者会見で「自虐的な部分があったので新たなピースおおさかを作りたい」と述べた。
新たな展示では、大空襲・焦土からの復興・戦後の平和の取り組み・にテーマを絞り、内容も小中学生に理解しやすいように改めるという。
旧日本軍による侵略行為の展示については、橋下大阪市長が構想を掲げる「近現代史館」で、国内外での認識の違いを踏まえ紹介することも検討する。』
『=不十分な展示に=
立命大国際平和ミュージアムの安斎郁郎・名誉館長の話
大阪空襲に絞った展示だけでは不十分で、空襲に至る背景や経緯を伝えるのも重要な使命ではないか。広島市の原爆資料館でも、かつて「なぜ原爆投下に至ったのか、先立つ日本側の加害行為に触れていない」という批判があり、広島が重要な軍事拠点だった背景も紹介するよう展示内容が見直された。悲惨な空襲の「前史」を紹介しなければ来館者は戦争の本質に触れられないことになる。』
安斎氏の論述は全くその通りだと私も思います。最近では、慰安婦の強制連行はなかったとか、南京大虐殺も中国の虚言であるかのような事を論じている人たちが目につきます。
戦争は、戦う人の人間性を変えてしまいます。橋下大阪市長の言う「認識の違い」で片付けて済む問題ではありません。
1931年日本軍は、奉天郊外の柳条湖で南満州鉄道を破壊し、それを中国人の仕業と称し、武力行使に出たというのです。こうして15年戦争の幕が切って落とされ、太平洋戦争へとエスカレートしてゆきました。太平洋戦争は、中国本土、東南アジア、西太平洋と広域に渡っています。その残虐性については、戦後長らく語られることはありませんでした。しかし、細川首相は歴代首相の中で初めて、15年戦争を侵略戦争と公式に認めました。そして長い時間をかけてやっとその残虐性についても、当事者たちのロからぼちぼちと語られ始めました。また慰安婦問題でも、韓国女性たちの訴訟に対して政府は国の関与を否定し続けていましたが、国防庁防衛研究所図書館から旧陸軍の公文書が発見されもう言い逃れができない状態になり、当時の宮沢首相が訪韓の折、蘆泰愚大統領に謝罪を表明しました。こうした加害の歴史を踏まえることは「自虐」ではなく、再び過ちを繰り返さないために絶対必要な歴史認識であると思います。
大阪府議の言う「子供には残虐すぎる」という口実は、ピース大阪の展示からアジア侵略を外す理由にはならないでしょう。子供の年齢に応じて何段階かに分けた説明と、展示物を掲げることは可能だと思います。加害の展示を全面撤去してしまえば、なぜ主要都市が殲滅的な空襲でやられたのか、更には世界初の原爆がなぜ広島と長崎に落されたのか、その原因について理解はできないでしょう。真実を包み隠さず伝えることによって、子供たちが小さな心で「戦争は絶対にしてはならない」としっかり受け止められるチャンスを与えて下さい。またそのように展示内容を工夫してほしいものです。
大阪市長のコメントも非常に曖昧な表現で、今後どのような展示になるのか予断を許しません。
大阪府知事並びに大阪市長の再考を促したいのと同時に、私たち戦争体験者もしっかりと見守っていかなければならないと思います。
横田 ミサホ
【出典】 アサート No.424 2013年3月23日