【投稿】孤立化の道歩む安倍政権
すり寄る安倍、かわすオバマ
2月22日、オバマ大統領との初の日米首脳会談を終えた安倍総理大臣は、ワシントンのホテルで講演を行い「ジャパンイズバック」と大見得を切り、その後の日本政府主催の記者会見では「日米同盟は完全に復活した」と豪語した。
しかし、肝心のオバマ大統領からは首脳会談直後の非公式の共同インタビューでも、その後の様々なスピーチでも「日米同盟の完全復活」を肯定するような発言はなかった。またしても安倍総理の独りよがりが先走った格好となった。
安倍総理としては首脳会談のメインテーマを安全保障問題とし、とりわけ尖閣諸島問題に関して、首脳会談でオバマ大統領から「日米共同で中国に(軍事手段を含めて)対処する」旨の言質を引き出したかったのだろうが、その目論見は完全に外れ、逆に安倍総理は「日本は冷静に対処する」ことを表明せざるを得なかった。
オバマ大統領は会談では中国に関し、その伸長を是認したうえ「(国際的な)ルールに従うことが求められる」としか言及しなかったと言われている。これはゼロ回答に近いものである。
安倍訪米直前にアメリカ連邦議会調査局は、「アメリカが尖閣での日中軍事衝突に巻き込まれる恐れがある」との報告書を発表しており、アメリカ政府としては首脳会談を利用して、安倍総理に直接釘を刺しておきたかったのだろう。
北朝鮮も材料にならず
東アジアに於ける安全保障問題についてオバマ大統領の関心は、中国よりも北朝鮮にある。昨年末の「人工衛星」打ち上げに続き、2月12日には「3回目」となる核実験を強行し、「米本土を核ミサイルで狙う」などと、アメリカに対する対抗意識を露わにしている。
現実には、核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイルが米本土に向かう可能性はないし、アメリカとしてはイスラエルにプレッシャーをかけ、中東地域の緊張を高めるイランの核開発阻止が最優先なのは自明のことである。
しかし、度重なる北朝鮮の挑発に関しては、あまり無視することもできないとして、オバマ大統領は核実験直後の2月12日(米時間)、連邦議会上下両院合同会議で行った一般教書演説で「この種の挑発はさらなる孤立を招くだけである」と北朝鮮の核実験を厳しく非難した。
さらに「安全と繁栄は、国際的な義務を果たすことによってのみ成しえることを知るべきだ」と述べ、2年前の一般教書演説よりも強いトーンで、北朝鮮へのメッセージを送った。
こうした延長線上で行われた日米首脳会談で、スムーズに「北朝鮮に対する制裁強化を日米連携して進める」ことを確認するのは当たり前の話である。
アメリカは中韓と連携
ともかく安全保障分野での数少ない成果となった「対北朝鮮共闘」であるが、その後の展開を見れば、アメリカが実際に連携したのは中国、韓国であった。
中国は、北朝鮮が核実験強行の姿勢を見せて以降、これまでにない調子で再三にわたり、金正恩指導部に対し自制を求めてきた。そうした働きかけを無視して核実験が行われた結果、焦点は国連での北朝鮮制裁決議の内容となった。これまでは、中国の反対で実効ある決議は採択されず、国際社会の意思表示レベルに止まっていた。
しかし今回は3週間にわたりアメリカと中国が調整を重ねた結果、3月8日国連安保理に於いて全会一致で採択された決議は、制裁に法的拘束力を持たせる国連憲章7章の41条(非軍事措置)に基づくと明記されたものとなった。
その内容は、要人の海外渡航禁止などの対象を拡大し、違反が疑われる船舶等の検査や核・ミサイル開発に関わる金融取引の凍結・停止、さらに不法行為を行った北朝鮮外交官を国外退去させることも加盟国に義務付けるという、以前の「要請」どまりから一歩踏み出したものとなった。
決議採択以降、中国は大連経由で北朝鮮に向かう船舶の航行を制限し、貨物検査も強化しているという。また北朝鮮東北部羅先市の経済特区への送電線の工事を中断し、同区を通じての貿易にも制限を加えていることが伝えられた。
これらの動きが長期化すれば特権階層向けの「贅沢品」に加え、中国経由の一般輸入品にも禁輸が拡大することになり、平壌市在住の「核心階層」の生活にも影響を及ぼすことになるだろう。
中国の制裁強化に呼応するかのように、アメリカ政府は3月11日北朝鮮に対する単独追加制裁として、「朝鮮貿易銀行」の米国内資産の凍結と米銀行との取引を禁止すると明らかにした。
そして同日、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」が開始された。同演習は毎年行われているものだが、朴槿恵政権成立後初となる今回は、米韓1万4千人の兵員、原潜などが参加し、北朝鮮に対し圧力をかけた。
アメリカの対中配慮
日本では「キー・リゾルブ」が大々的に報じられているが、国連決議採択直前の3月4日~8日、インド洋でパキスタン海軍が主催する多国間海上演習「AMAN(平和)2013」が行われた。
主要な参加国はアメリカ、中国、オーストラリア、イギリス、インドネシア、スリランカ、アラブ首長国連邦などであり、欧州から中東、アジアまで幅広い国が参加した。
演習内容は補給、救難から攻撃、防御と多岐に及び、そのなかで中国海軍は、アメリカ、オーストラリア海軍と艦隊を編成し指揮を執ることもあったという。これに対し日本政府は、艦艇が中心の同演習に海自の哨戒機2機を派遣したのみであった。安倍政権が夢想する「対中包囲網」などどこにあるのか。
「キー・リゾルブ」演習でも、昨年に引き続き空母は参加しなかったし、参加人員も09年の初回以来、最低レベルとなっている。これは連邦予算の執行強制停止という緊急事態もあるが、様々な配慮が働いたのだろう。
さらに日本の国内世論を無視して行われた、本土でのオスプレイ飛行訓練でも、飛行コースが急遽、九州から四国に変更された。これについても中国に配慮したのではないかとの指摘が出されている。
この間、アメリカがインドネシアへの「沿岸域戦闘艦」長期寄港及び、アラスカへの弾道弾迎撃ミサイル追加配備をもって、対中、対北朝鮮シフトが強化されたと報じられているが、実際はそれぞれ対イスラム武装勢力、海賊、対ロシアであろう。
オバマ大統領は3月14日、中国新指導部発足を受け、習近平国家主席と電話会談を行い、主席就任に祝意を述べるとともに、北朝鮮に対し米中が協調して対応していくことなどを要請。一方サイバー攻撃問題については米中共通の懸念と述べるにとどめた。
来月にはケリー国務長官が訪中する予定であり、アメリカ政府は硬軟織り交ぜ、韓国に配慮しながら、北朝鮮の「悪行」を巧みに利用し、中国との協調を進めているように見える。
日本は邪魔ものに?
そうなれば安倍政権の緊張激化政策は邪魔になるだけだろう。
安倍総理は日本を取り巻く状況の変化を的確に把握することができず、3月12日の衆議院予算委員会で東京裁判について「勝者の手で断罪がなされた」と自らの歴史認識を開陳した。
中国は日本政府を「第2次大戦後の秩序を崩壊させようとしている」と批判しているが、日本の総理自らが国会の答弁でそれを肯定しているようなものである。さらに4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を行うことを表明した。サンフランシスコ講和条約の調印国はいいとしても、中国、韓国、ロシアという未調印国との間の領土問題が惹起している時期に、式典挙行がどのようなメッセージになるのか分かっていないのではないか。
これにはアメリカ政府もあきれただろう。安倍総理はオバマ政権の意思決定と無関係なアメリカ人に吹き込まれ、辺野古基地建設を強行さえすればアメリカが喜ぶと思い込んでいるのではないか。
5月には米韓首脳会談が予定されており、近いうちに米中首脳会談も開かれるだろう。今後、米中韓を軸として日本を考慮に入れない東アジアの地域安定システム構想が浮上する可能性がある。
参議院選挙までは、タカ派的主張を封印するのではないかと見られていた安倍総理であるが、高支持率に浮かれて爪を露わにしている。自民党の一人勝ちと民主党の消滅が取り沙汰されるなか、平和勢力の再構築が急務となっている。(大阪O)
【出典】 アサート No.424 2013年3月23日