【投稿】原発再稼働反対・「紫陽花革命」の地鳴り
7/16さよなら原発10万人集会の会場
<<「音」から「声」へ>>
首相官邸前で毎週金曜日、夕刻、18:00~20:00に行われている原発再稼働への抗議行動は、確実に民主党・野田政権を追い詰めている。首相が記者会見で関西電力・大飯原発再稼働を宣言した6/8以降、この首相官邸前抗議行動は飛躍的に拡大し始め、6/29には20万人を記録し、それ以降も10万~15万人と空前の規模の抗議行動とデモが繰り広げられている。そして7/16の東京・代々木公園で開かれた「さようなら原発10万人集会」には17万人もの人々が結集した。とりわけ首相官邸前のこの抗議行動は、1960年の日米安保条約反対闘争以降、国会と首相官邸を取り巻く最大規模に達しており、歴史的記録をさえ塗り替えかねない、新たな歴史的事態を招いている。
当初、野田首相は、「計画停電」の脅しと大飯原発再稼働さえ実行に移してしまえば、抗議デモなんて沈静化し、雲散霧消すると踏んでいたのであろう、6/29、野田首相は官邸から公邸に戻る際、抗議デモを「大きな音だね」と、傍らの警護官に語り掛け、内心ビクビクしながらも、まるで単なる雑音、頭から無視する姿勢を露骨に示していた。このことが報じられると、「音」ではなく「声」を聞けと官邸や衆院議員会館の野田事務所に抗議が殺到し、首相側近は「毎週金曜夜は首相日程に外食を入れづらくなった」とこぼす事態である。
野田首相は慌てて軌道修正をし始め、国会答弁で「(音と)言った記憶がない」と釈明。また、毎週金曜のデモのたびに記者団に「さまざまな声が届いている」(7/6)、「多くの声を受け止めていく」(7/13)、7/16の民放番組では、全国に広がる抗議活動の感想を聞かれ、「国論を二分するテーマになっていると考える。さまざまな声に耳をしっかり傾けていきたい」と、聞く気もないのに姿勢だけは改めざるを得なくなった。
民主党内からさえも「再稼働が決まり、原子炉が動き出してもデモは鎮静化しない。官邸前(の行動)もふくれあがり、さらに中部電力前、関西電力前など全国に広がっている。すさまじい」、「次の選挙に響く」との声が上がり始める事態である。
<<「五感をもって触れる必要」>>
その極めつけは、この首相官邸前抗議行動に、民主党政権への政権交代を成し遂げ、首相官邸の主であった当の鳩山元首相自身が直接参加し、首相官邸に向かって再稼働反対を訴えたことである。まったく前代未聞の異例な事態の招来である。一番驚いたのは野田首相であろう。
鳩山氏は、「毎週金曜日に行われている首相官邸前での再稼働反対の大規模行動に行きました。・・・私がこの集会に行かなければと思ったのは、私自身が、一衆議院議員として、また内閣総理大臣を務めた者として、毎回増えていく国民の声、民意のエネルギーに五感をもって触れる必要があるという一念と同時に、この思いを直接官邸に伝えなければなければならないということです。特定のイデオロギーや政治的な集会だけではこのようなパワーは生まれません。・・・今我々は、『大きな声だな』と言うだけでなく、今、国民が何に苦しみ、何を考え、何を求めているか、を真剣に考え、行動しなければなりません。私個人としては、原発の再稼働については、福島原発事故の原因が完全に究明されておらず、国会事故調査委員会の調査により、その原因が津波だけでなく地震による可能性が指摘されているにも拘わらず、再稼働に踏み切るということについては、どう考えても賛成できません。」と、その態度、政治姿勢を鮮明にしている。
鳩山氏にとっては「国民の声、民意のエネルギーに五感をもって触れる必要」があったが、野田首相にとっては「自民党、財界、原子力村の声」に「五感をもって触れる必要」あった、というその決定的相違がここに浮き彫りになっている。鳩山氏自身にはいくつもの問題点があり、辞任に追い込まれたのであるが、今回のこうした行動、政治姿勢こそが全民主党議員に求められていることを明らかにしたことにおいてその意義は大きいといえよう。野田首相にとっては、政権崩壊への重要な一撃である。
<<「新しい政治参加のうねり」>>
さらには、鳩山元首相に引き続き、あの菅前首相までもが7/21、原発再稼働反対を訴える首相官邸前の抗議活動について、「新しい政治参加のうねりが起きている」と評価したうえで、「首相がいろいろな意見を聞くのは望ましいと思うし、そうアドバイスしている」と述べ、野田首相に対し、主催者との面会を助言したことを明らかにした。小沢氏や鳩山氏、羽田元首相、江田党最高顧問をはじめ、民主党議員の3分の1に当たる119人が賛同した大飯原発の再稼働の再考を求める署名にさえ参加、賛同しなかった菅前首相が、いまさら何が「新しい政治参加のうねりが起きている」などと言えた代物ではないが、これまた野田政権が求心力を全く失ってしまっている証左でもある。
ともあれ、首相官邸前と国会周辺、霞ヶ関が52年ぶりというほどの人々で埋め尽くされ、「再稼働反対!」「原発いらない!」というただ一点に絞られ、集約された必死の叫び、怒りの声が、民主党・野田政権に押し寄せ、根底から突き崩す勢い、まだ端緒にしかすぎないかもしれないが、「紫陽花(あじさい)革命」と呼ばれるほどの実体を持ち始めたとも言えよう。
この官邸前抗議行動を主催する「首都圏反原発連合」は、13のグルーや個人が力を合わせようと、2011年9月に立ち上げたネットワークで、7/6官邸前抗議行動の「よびかけ」では、「私たち、首都圏反原発連合は、3月29日より毎週、大飯原発再稼動反対の首相官邸前抗議を行ってまいりました。当初300人程度だった参加者は、1000人→2700人→4000人→12000人→45000人→200000人と、回を追うごとに劇的に増加しています。福島第一原発事故の収束もままならないまま、そこから何の教訓を得る事もなく、再稼動ありきで物事を進めていった野田政権に対しての怒りがいよいよ噴出する形で、この抗議行動の規模は拡大を続けています。野田政権は、世論の大半を占める市民の声を無視し、この再稼働を進めました。したがって、私たちもまた、今回の決定を黙って受け容れる必要は一切ありません。7月6日(金)18時より、首相官邸前にて原発再稼動反対の抗議行動を行います。前回をはるかに凌ぐ、空前の規模の抗議行動で、大飯原発3号機の即時停止と、再稼動決定をただちに撤回、そして、私たちが一切諦めていないことを、野田政権に対して突きつけましょう。」と訴えている。
<<無党派・非暴力直接行動>>
7/13の官邸前抗議行動に筆者自身も参加したが、午後6時からだというのに、午後2時過ぎには首相官邸に通じるほとんどの道路が警察車両で歩道脇にびっしりと連ねられてブロックされ、警察官が要所要所に多数配置され、歩行者を強制的に誘導する事態であった。回りまわって3時過ぎに官邸前に着いたがもう多くの人々や報道関係者が詰めかけ、5時前にはもはや身動き出来ぬ程の人の波で、再稼働に抗議するプラカードや風船、うちわ、のぼり、ゼッケン、大画板、旗指物が所狭しと揺れ動き、開会を今や遅しと待ち構える熱気が充満。6時になるやすぐさま主催者挨拶が始まり、注意事項として、「1.反原発・脱原発というテーマと関係のない特定の政治団体や政治的テーマに関する旗やのぼり、プラカード等はなるべくご遠慮ください。2.現場が混雑しているため、ビラ配布や署名集め等は抗議終了後の20:00以降にお願いします。3.この首相官邸前抗議は、あくまで非暴力直接行動として呼びかけられたものです。その趣旨を十分にご理解頂きご参加いただきますよう、宜しくお願い致します。」と言い終わるや、すぐさま官邸に向かってシュピレッヒコールが始まり、「再稼働反対!」「原発いらない!」が繰り返し繰り返し、声が枯れる勢いで、あくことなく続けられた。その間何人かのスピーチがあったが、これまた注意事項として「1.一人あたり 「1分以内」 でお願いします。2.反原発・脱原発テーマに関係のないテーマでのスピーチはご遠慮ください。3.特定の団体のアピールにつながるスピーチはご遠慮ください。個人としてアピールをお願いします。4.主催者側の意向に沿わない内容であると判断した場合、中断をお願いすることもあります。あらかじめご了承ください。」が明らかにされ、これもしっかりと守られ、一人が終わると次から次へとスピーチが続くのではなく、必ず官邸に向かって「再稼働反対!」「原発いらない!」のシュプレッヒコールが行われる。
ウォール街占拠運動と相通じる、こうした至極明瞭な原則の徹底こそが、これまでの運動を包摂しつつも、なおかつこれまでの組織動員主義的な運動を乗り越えさせているものではないかと実感させるものであった。個人個人の意識に基づいた一過性ではない粘り強さと継続性もそうした原則の徹底によってこそ保証されるものであろう。そしてこの運動は全国各地に急速に拡大し始めている。
首都圏反原発連合は、7/29には国会議事堂をデモ行進とキャンドル・チェーンが取り囲む「脱原発国会大包囲」行動を呼びかけている。(日比谷公園中幸門で集会開始15:30、デモ出発16:30、国会包囲19:00(集会/キャンドル・チェーン))
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.416 2012年7月28日