【投稿】アジアにおける真の脅威 

【投稿】アジアにおける真の脅威 

北朝鮮のミサイルを利用
 4月13日午前7時39分、北朝鮮は通告通り中国国境に近い北西部の東倉里射場から「科学衛星『光明星3号』」を搭載した「ロケット『銀河3号』」を打ち上げた。
 しかし「銀河3号」は発射数分後で機体に生じたトラブルにより空中爆発し、その破片は黄海に落下した。
 過去3回の失敗時には「成功」と強弁してきた北朝鮮当局は、今回いち早く失敗を公表せざるを得なかった。事前の海外メディアや専門家への過剰なまでの公開姿勢が裏目に出たといえる。
 打ち上げ失敗の要因については、さまざまな分析がなされているが、今回も多段式機体の分離に失敗していることから、一言でいえばロケット工学分野における基本技術の欠如という見方が一般的となっている。
 そもそも、北朝鮮のミサイル、ロケット技術のルーツは旧ソ連にあるが、オリジナルからコピーを繰り返し、弄繰り回すにつれ劣化していったと思われる。
 金正恩政権の門出を祝うはずの打ち上げが、国際的な注目の中失敗したのは北朝鮮にとって痛手であるが、一連の騒動を利用し、一層の緊張政策を進めようとしているのが日本政府である。

小躍りする野田政権
 北朝鮮が打ち上げを予告するや否や、野田政権は勇み立つかのように「迎撃」を決定、弾道弾迎撃ミサイル「SM3」を搭載するイージス艦3隻を基幹とする任務部隊を編制、日本海及び南西諸島海域に出動させ、さらに「中国、ロシアの偵察機の接近を阻止」するため、艦隊にF15戦闘機の直援をつけることも決定した。
 さらに「SM3」が「撃ち漏らした場合」に備え、パトリオット「PAC3」を首都圏に加え沖縄本島、石垣島、宮古島に展開し、「ロケットに積載されている有害燃料(ヒドラジン)が飛散した場合」に備え、特殊武器(化学兵器)対応部隊も派遣するという、陸海空それぞれに出番を与えるという大がかりなパフォーマンスとなった。
 このため、当初は陸自だけで750人という、カンボジアやイラク派兵を上回る規模の派遣が計画されていたが、沖縄の関係自治体はもちろん防衛省内部からも「調子に乗りすぎ」との疑念の声が出されたという。仲井間沖縄県知事も田中防衛大臣に対し「適正規模の派遣」を要請、結果として派遣兵員は半減された。
 そもそも、今回「日本領土に落下する弾道ミサイルを迎撃する」という想定自体、砂上の楼閣と言っても過言ではない。北朝鮮の「ロケット」が正常に飛行すれば南西諸島の日本領土、領海上空を通過する時点で大気圏外=領空外にあり、これを打ち落とすのは技術的に可能であっても国際法上問題があり、見過ごす他はない。
 逆に領土、領海に落下する場合は、トラブル制御不能となった機体、もしくは破片となっているであろうし、こうした自由落下する物体に対して迎撃ミサイルを命中させるのは不可能で、それ以前に大気圏再突入の際にほとんど燃え尽きているだろう。

真の狙いは対中国
 自衛隊も本気で「弾道ミサイル」を打ち落とせるとは考えてはいなかっただろうし、それ以前に日本に危害を及ぼすような可能性はないと判断していたと思われる。実際、海自のイージス艦は打ち上げを探知できなかったし、直後の政府部内の混乱は周知のとおりである。
 すなわち、この間の自衛隊各部隊の動きは、「北朝鮮の弾道ミサイル対処」を口実とした、中国を念頭に置いた南西諸島および同海域への展開演習及び示威行動であった。
 昨年11月には九州を拠点とした大規模な「協同転地演習」が行われたが(408号参照)、今次はさらに一歩も二歩も中国側に踏み込んだ「前方展開演習」ともいうべきものである。
このように波状的に進められる実動演習は、中国から見れば挑発以外の何物でもないだろう。特に今回は「北朝鮮の弾道ミサイル発射」に対応するための措置であると言われれば、中国としても文句のつけようが無かったのである。中国指導部としては、日本に軍拡の口実を与えた北朝鮮を苦々しく思っているだろう。
 ミサイル騒動の余韻を残した4月22日、中国、ロシア海軍の合同演習「海洋協同-2012」が開始された。中国からはミサイル駆逐艦、フリゲートなど水上艦艇16隻、潜水艦2隻、ロシアからは太平洋艦隊のミサイル巡洋艦、駆逐艦など水上艦艇7隻などが参加する大規模なものとなった。

中国の「反撃」
 この演習は北朝鮮のロケット発射計画以前から決まっていたものであるが、タイミング的に中露軍事同盟による対日反撃と解釈される向きもあった。中国の一部メディアでは日本海でも、合同演習が行われるかのような報道がされた。これが事実なら相当刺激的な問題になったが、それは誤りで演習区域は山東省沖の黄海に限られていた。ロシア艦隊はウラジオストック地域から対馬海峡(西水道)を通過、青島で中国艦隊と合流した後、演習が開始されたのである。
 この演習の目的は「中露の関係強化、戦略的パートナーシップ及び両国軍の連携の発展」とされ、演習内容も対テロ、海賊対処訓練、洋上補給、救難など多様なものであった。
また同演習の指揮、連絡はロシア語で行われており、練度の面からも外洋型海軍を目指す中国海軍がロシア海軍の教導を受けるという性格が強かったとみられる。(ロシア海軍は中露一辺倒ではなく、6月下旬からハワイ近海で行われるアメリカ主導の環太平洋合同演習「リムパック」にも今年初めて参加する予定である)
 中国海軍の太平洋での活動が活発化しているのは事実で、同演習終了後の4月29日、東海艦隊のフリゲートなど3隻が大隅海峡を通過、太平洋に出た。さらに5月8日には南海艦隊の揚陸艦など5隻が南西諸島沖を通過、南東に向かったのが自衛隊により確認されている。
 中国は外洋型海軍化に伴い、尖閣諸島、スプラトリー諸島、パラセル諸島など日、フィリピン、ベトナムなどと領有権を争う海域で攻勢に出るとされているが、単純に冒険主義的な動きをとると見るのは誤りであろう。

対立煽る日本政府
 現在中国は南シナ海のスカボロー礁(中国側呼称「黄岩島」)近辺の水産資源を巡りフィリピンと対立しており、一時は武力衝突の懸念もあったが、中国は5月16日から2か月間の休魚期間を設定、フィリピンも同様の措置を取りアキノ大統領も外交手段での解決を明言している。
 こうした動きに対し、日本政府は武器輸出3原則の緩和を踏まえフィリピン、マレーシア、ベトナムにODA戦略的活用の一環との位置づけで巡視船の供与を行おうとしている。
 その意図について玄葉外務大臣は4月27日の記者会見で「アメリカの戦略の補完的な役割を果たすことができれば、相当の相乗効果が期待できるのではないか」と明け透けに語っている。
 日本の造船会社は戦前、タイ王国からの受注で軍艦を建造したことがあるが、戦後において巡視船とはいえ武装可能な船舶を、政府ベースでアジアの潜在的な紛争当事国へ供与するのは、外交政策の一大転換である。これはアジア重視と言いながら実効的措置に逡巡するアメリカに対し、日本がその肩代わりに踏み込む第一歩でもある。
 また海上自衛隊は近々、インド海軍との初の2国間合同演習を行う予定となっており、対中包囲網のヘゲモニー掌握へ突き進もうとしている。しかしインド海軍はロシアが「リムパック」に参加するのと同様、中国海軍とも演習を行うという柔軟な対応をとっている。
事あるごとに「自衛隊員の息子」をアピールする野田総理であるが、石原東京都知事や河村名古屋市長のような排外主義を放置し、強硬姿勢以外の選択肢を放棄すれば、日本をアジアにおける真の脅威として浮かび上がらす結果となろう。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.414 2012年5月26日

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