【投稿】目前に迫る危機と原発再稼動
危機感を共有できない政治は即刻退陣すべき
<<4号機・使用済み燃料プールが危ない>>
重大な警告が発せられている。それは何よりも自然そのものからの警告である。ごく直近の地震活動をとっても、3/14夜には、千葉県と茨城県が千葉県東方沖を震源とする最大震度5強(同6・8)の激しい揺れに襲われ、再び液状化などの被害が発生、その約3時間前には三陸沖を震源とするM6・8の地震が発生、北海道釧路町などで最大震度4を記録し、北海道と青森の太平洋沿岸、岩手県に津波注意報が発せられ、3/16午前4時20分にも埼玉県南部を震源とする震度3(M5・2)の揺れが関東を襲い、その後も北海道、東日本から富士山、桜島にいたる日本列島の至るところで不気味な地震活動の活発化が相次いでいる。
3/7、文部科学省の特別プロジェクト研究チームは、首都直下地震が想定されている南関東の地震活動が東日本大震災後に活発化し、南関東で起きたM3以上の地震の数を大震災の前後半年間で比較したところ、大震災後は約7倍に増加、現在も地震の発生頻度は大震災前の約3倍と高い状態となっており、M7程度の首都直下地震について「いつ発生しても不思議ではない」としている。また、首都直下地震のひとつである東京湾北部地震の揺れは、沈み込むフィリピン海プレートと陸のプレートとの境界が従来想定より約10キロ浅く、従来想定の震度6強を上回る震度7との推定を正式に公表、震度7は東京23区湾岸部や多摩川河口付近と予想されている。
こうした地震活動の活発化は、54基もの原発を各地にかかえている日本列島において、いまだに原発即刻停止・廃炉への政策転換を行いえず、現状をずるずると放置するばかりか、停止中の原発の再稼動まで意図すれば、さらなる巨大な原発震災をいつ招き入れてもおかしくない事態にあることを警告しているのだと言えよう。
もう一つの重大な警告は、警鐘を発し続けてきた原子力専門家からの警告である。
京都大原子炉実験所・小出裕章助教は、この地震活動の活発化で、福島第一原発の「4号機が崩れたらもう終わりだ」と警告する。「4号機の使用済み燃料プールが崩れ落ちたらおしまいですから、とにかく一刻も早く、余震が来る前に取り出さなければいけない。」「使用済み燃料は発熱体でプールの水が抜けて冷やすことができなければ、温度が上がって溶けてしまう。そうなれば、ヨウ素、セシウム、さまざまな放射能がいきなり空気中に飛び出してくることになると思います。」「全体でおよそ300トンくらい入っていると思います。建屋の階はボロボロに壊れていてクレーンも使えない。その燃料を移す作業をしなければならない。大変な作業です。」(『週刊金曜日』2012/3/16号)と、一刻も早い、不安定極まりない燃料プールからの使用済み核燃料の取り出し作業の開始を訴えている。
3・11関西行動:労働組合の集会より
<<「本気で逃げる用意をしておいて下さい」>>
同じ警告が、広瀬隆氏からも発せられている。
「福島第一原発では、4基とも危ないが、とりわけ4号機の原子炉建屋は、昨年のプールから生じた水素の大爆発で、ほとんど骨組みしか残らないほど大崩壊してしまった。東京電力は、傾いて倒壊寸前のこの建屋のプールを補強するため、応急処置の工事をしたが、それは、何本かのつっかい棒を入れただけである。その支柱の下は、補強できないまま、実は軟弱な基礎の上に、つっかい棒が立っているという、いい加減な状態のままである可能性が高い。
この大気中にむき出しのプールには、不幸にして通常の運転で原子炉が抱える「数個分」の使用済み核燃料が入っているとされる。その量は、10~15年分の運転期間に相当するウラン・プルトニウム燃料が入っているということになる。元旦に東北地方・関東地方を襲った地震のあと、このプールの隣にあったタンクの水位が急激に低下したので、プールに異常が起こったことは容易に類推できる。さらにその後、1月12日と23日に、立て続けに、福島第一原発のある浜通りを激震が襲ったので、私は生きた心地がしなかった。
こうした中地震の続発がプールのコンクリートに与えてきた疲労は、相当なものに達している。したがって、大地震でなくとも、コンクリートの亀裂から水が漏れる可能性は高い。
4号機に何かあれば、もう手がつけられない。致死量を浴びる急性放射線障害によって、バタバタと人間が倒れてゆく事態である。東電も、真っ青になって震えながら、今度こそ「直ちに健康に影響が出ますから、すぐに遠くに逃げて下さい」と記者会見するはずだ。」(『週刊朝日』2012年3月9日号「福島第一原発に末期的事故の予感 人生最後の事態も」」)
広瀬氏は福島県・郡山市での講演(2/5)で、福島第一原発の現地の現場の幹部の話として、「4基すべての原子炉で崩壊が起こりうる」と警告し、「内部が腐食しているし、爆発によって打撃を受けている。格納容器と配管がいつまで持つか心配だ。早く燃料を取り出さないと危ない。(東電本社の2号機内視鏡調査についての松本純一氏の記者会見について)配管は大丈夫だなんて、本社はよく言えたもんだ。現場では笑いもんだ。」という実態を紹介し、「4号機はいつドサッと崩れるか分からない。本気で逃げる用意をしておいて下さい」、そして次の原発事故に備えての必需品としてしかっりとした防護マスクをご家族一人ずつポケットに入れておいて下さい、私もかばんの中に持ち歩いています。冗談で言っているのではないのです、と訴えている。
<<「私も先頭に立たなければならない」>>
ところがこうした真剣な警告を受け止め、危険な事態を打開すべき政府は、東京電力と同様、その対応は無責任極まりない状況である。3/14夜、茨城県南部と千葉県北東部で震度5強の地震があった際でも、野田首相は、民主党の衆院当選1回議員らと会食のため都内の日本料理店に入った直後であったが、情報を聞きながらそのまま1時間半にわたって会食を続けたという。会食終了後に記者団から「地震対応で、どのような判断を」と問われると、首相は「情勢は常に聞いています」と平然と釈明した。たとえ巨大な地震活動でなくても、倒壊寸前の福島第一原発に及ぼす影響からして直ちに官邸に戻り、危機対応に当たるべき本人が、これほどまでに鈍感極まりないのである。ウソ、偽りに満ち溢れた昨年12月16日の原発事故「収束」宣言で、事態は「収束」したとでも思っているのであろう、情勢を聞いているだけで何の対処もできない、そもそも何の危機感も持ち合わせてはいないのである。
そのような危機感のなさは、原発再稼動路線にもくっきりと現れている。野田首相は東日本大震災から一年の記者会見で再稼働を判断する手順について、まず首相と藤村官房長官、枝野経産相、細野原発事故担当相の四人が原子力安全委員会が実施する安全評価(ストレステスト)の妥当性と地元の理解をどう進めていくかを確認し、そのうえで「政府を挙げて地元に説明し理解を得なければならず、私も先頭に立たなければならない」と述べている。
つまりは、テストの結果を客観的科学的に判断する、あるいは尊重するつもりなどさらさらなく、原子力安全・保安院が電力会社の報告を検証する能力など持ち合わせていない以上、そのまま追認し、原子力安全委員会は「保安院と打ち合わせして長引かないような努力をしている」(班目委員長)、つまりはあらかじめ談合をしておいて、その保安院の報告をこれまた追認する。そして首相たち、談合政治を得意とする政治家たちが適当に妥当と政治的に判断して、それを根拠に「政府を挙げて地元に説明し理解を」得るために自ら先頭に立つと宣言したわけである。「先頭に立つ」のは、原発再稼動を断念するためではなく、初めから既定路線として再稼動を決めておきながら、何かもっともらしく慎重に検討するふりを装い、実は先に結論ありきで、原発再稼動は何が何でも実現したいという意図が露骨に示されているのである。増税路線しかり、辺野古新基地建設路線しかり、この政権の見え透いた、誠実さそのものが欠落した、ウソ、偽り、詭弁で塗り固められた手続きだけが空虚に並べられているのである。長年にわたって積み重ねられてきた、こうした日本政治の無責任な悪弊こそが原発震災を招いたものであり、さらなる巨大な危機を招き入れようとするものと言えよう。
3月末までに関西電力の大飯原発再稼働の結論を目指すというのが、現政権にとって最初の突破口であり、続いて伊方原発から順次拡大していく意図が透けて見える。
もはや政権交代の意義さえも捨て去ってしまった野田政権には、自然そのものからの、度重なる、ますます強まる地震活動の活発化がもたらす重大な警告も、原子力専門家や原発従事者や被災者自身からの悲痛に満ちた危機感や警告さえも耳に入らない、危機感の共有すらできない、こんな政権に成り果ててしまっており、もはやその存在価値はゼロ、あるいは有害とさえいえる段階に来ているといえよう。早晩崩壊せざるを得ない政権であるが、一刻も早く退陣させるべきことを自然現象そのものが地震活動のこれまでにない活発化を通じて、警鐘を乱打しているのではないだろうか。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.412 2012年3月24日