【投稿】鳩山内閣のアキレス腱
<<「日本解体阻止!」>>
産経新聞報道によると、10/17に衆院選での自民党大敗と民主党政権発足を受け、日本の保守勢力の結束を図るシンポジウム「10・17 日本解体阻止!! 守るぞ日本!国民総決起集会」(草莽全国地方議員の会など主催)なるものが、東京で開かれ、集会には約1400人が参加、鳩山首相が掲げる温室効果化ガス25%削減や、国防・安全保障の軽視、選択的夫婦別姓の導入などへの懸念の声が相次ぎ、集会後、参加者は国会付近をデモ行進した、という。
集会では、平沼赳夫元経済産業相が、鳩山首相ら民主党幹部が在日外国人地方参政権付与に意欲を示していることについて「どこの国の政党か、慄然とした」と批判。「自民党にも変な議員はいる。自民党を含め、保守が再結集し、真の保守政党をつくることが必要だ」と訴え、また山谷えり子参院議員は、政権への日教組の影響に強い懸念を表明、自公政権で推し進めた道徳教育や教員免許更新制度が次々に否定される現状を憂い、「来夏の参院選で自民党が勝ち、逆ねじれを起こさなければ大変なことになる」と訴え、政権への批判が続出したという。
しかし、こうした主張を含め、彼らが執拗に追求し、安倍元首相が唱えていた「戦後レジームからの脱却」路線、それはつまるところは、憲法に集約される平和主義、民主主義、基本的人権、地方自治等々に対する、アンチテーゼ、すなわち、九条改悪、軍事力強化と海外派兵、核武装論や先制攻撃論、日の丸・君が代の復活と愛国心や道徳教育の強制、民主的諸権利の規制と統制の復活、地方自治の形骸化と国家統制の強化、等々であったが、こうした路線こそが先の衆議院解散・総選挙の結果として基本的に否定されたのである。またこうした路線と連動して追求されてきた弱肉強食の市場原理主義も同時に、基本的には拒否されたのである。また、言い換えれば彼らがこのような市場原理主義路線と唱和していたからこそ大量落選の結果を招いたともいえよう。したがって、いまさらこのような路線での保守再結集を試みても、それは成功するはずもなく、孤立するばかりであろう。このことはもちろん、民主党内に根強く存在するこのような勢力と同調する改憲派議員についても言えることである。
<<歓迎されるべき変化>>
内外の情勢は明らかに転換、チェンジしているのである。鳩山氏が首相就任四日目にして国連の舞台に登場し、9/24の国連総会では「日本は核保有国と非核保有国の「架け橋」となって核軍縮の促進役になれる可能性があります。すなわち、核保有国に核軍縮を促し、非核保有国に核兵器保有の誘惑を断つよう、最も説得力をもって主張できるのは、唯一の被爆国としてノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキと訴え続けてきた日本、そして、核保有の潜在的能力を持ちながら非核三原則を掲げ続けている日本です。」と訴え、また9/25の国連安保理首脳会合では【唯一の被爆国としての道義的責任】と題して演説し、「なぜ日本は、核兵器開発の潜在能力があるにもかかわらず、非核の道を歩んできたのでしょうか。日本は核兵器による攻撃を受けた唯一の国家であります。しかし、我々は核軍拡の連鎖を断ち切る道を選びました。それこそが、唯一の被爆国として我が国が果たすべき道義的な責任だと信じたからであります。近隣の国家が核開発を進めるたびに「日本の核保有」を疑う声が出ると言います。だがそれは、被爆国としての責任を果たすため、核を持たないのだという我々の強い意志を知らないが故の話です。私は今日、日本が非核三原則を堅持することを改めて誓います。」と述べ、同時に「世界の指導者のみなさんにも、ぜひ広島・長崎を訪れて核兵器の悲惨さを心に刻んでいただければと思います。」と訴え、さらにまた9/22の国連気候変動サミットの開会式で鳩山氏は温室効果ガスの「25%削減」を宣言し、そうした日本の政策転換が大きく評価され、歓呼の声で迎えられたのである。鳩山氏の演説には、改憲論者としての鳩山氏の立場からすれば当然でもあろうが、非核三原則の元となりそれを支えてきた、世界に誇るべき憲法九条の評価は欠落し、現実の政策との整合性や裏づけが欠落しているとはいえ、内外情勢の転換を反映した積極的な評価を得たのである。
そして現実に、核兵器の削減・廃絶については、オバマ米大統領が、2012年には2001年比半減することを明らかにし、10/15にはこれまで一貫して反対し続けてきた核兵器廃絶決議案について賛成するのみならず、さらに共同提案国になることまでを明らかにする事態となっている。こうした前向きな変化が定着し成功するかどうかはまだまだ不確かなものであるが、歓迎されるべき変化だといえよう。
<<変わらない縮小均衡路線>>
鳩山政権が抱える問題は、こうした前向きで積極的な変化をいかに現実のものと化し、定着させるかにあるが、より短期的には、あるいはより決定的には、現実に進行している経済不況の進化に対する経済政策が極めて無策に近く、むしろ縮小均衡路線に重心をおいている。これが鳩山内閣のアキレス腱といえよう。
現実の経済情勢は、経済恐慌の進化によって行き場を失った投機資本が再び金融市場、投機市場、マネーゲームに戻り、これらを再活性化させてはいるが、実体経済への恐慌の進化は、さらなる失業率の悪化、格差と貧困の拡大をもたらそうとしている。こうした経済面での情勢の悪化は悲観的で、展望の持てない、諦観と無力感を蔓延させる、ファシズム的傾向を助長させかねない経済情勢をもたらしかねないものである。現実に、在特会(在日特権を許さない市民の会)といった外国人排斥運動が暴力的な全国リレーデモを展開する事態まで生まれている。右翼的保守再編はむしろこうした経済の現実から提起されてくるものといえよう。
鳩山政権は、こうした現実に対する、そしてこれまでの自由競争原理主義の行き詰まりに対する経済政策の転換の根本的政策を出しえていないことに決定的な問題があるといえよう。現実に出されているものは、拡大する予算をいかに減額するかにばかり焦点が当てられ、積極的な経済政策の転換はすべて後回しにされている。そもそも積極的な経済政策そのものの姿を描きえていないのである。結果として不況をより深化させることに寄与しかねない、このような鳩山内閣の姿勢は、自らの崩壊の序曲ともなりかねないものといえよう。
不況対策の要として、大規模なニューディール政策を提起することこそが要請されている。その予算的裏づけとして、特別会計の可処分積立金が47.4兆円(08年3月時点)あり、さらに可処分剰余金が28.5兆円(09年3月時点)存在することからすれば、50兆円規模の「経済危機・国民生活支援」を目的とした基金を作れという提案は鳩山政権こそが現実化すべきであろう。しかし現実には、藤井財務大臣は、特別会計の活用についても財政投融資特会と外国為替特会の運用益5兆円分の活用しか考えておらず、各省の概算要求についても「平成21年度予算を下回るような形で要求をしてもらいたい」、「新規の話があり得るだろうが、その時はその既存の予算の削減の中でやってもらいたい」の一点張りである。鳩山内閣の中で、失業を食い止め、さらなる倒産を防止するために積極的政策、具体的政策を提起しているのは緊急雇用対策や「3兆円以上の二次補正予算」を提起している亀井静香郵政改革・金融担当大臣ぐらいしか存在しない、それほどお寒い状況というのは言い過ぎであろうか。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.383 2009年10月24日