【新春訪問】吉村励先生と語る(2009-01-10)
—-100年に1度の金融恐慌への対応について—-
恒例の新春訪問ということで、1月10日に生駒・佐野・T君の3人で吉村先生宅をお尋ねしました。先生は今年87歳ということですが、現下の金融恐慌について、お話を伺いました。
【吉村】生駒君ね、1929年の恐慌というと僕はまだ小学校でね、七つだよ。ただ家が地主で何となくね、小作の方がね景気が悪くて年貢を下げてくれという話し合いをね、おやじとやっていたのを覚えているよ。しかし、後でバルガの世界恐慌史を読んでね、あれが恐慌だったのかと思ったわけだ。だから、記憶としては何となく不景気だったということは覚えているんだ。しかし、それから80年ぶりの今の恐慌だ。君らは客観的にちゃんと見ておいて欲しいわけだね。
【生駒】だってこういう経験はまずありえないですからね。
【吉村】100年に一度というからね。
【生駒】当事者、記録者でないとだめなんですね。ちょうど80年ですね。
【吉村】しかしびっくりしたね。世界があれほど結びついているとはね。
【生駒】しかも早いですね、展開が。去年の9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻からの事態の進行は予想以上でした。
【吉村】日本の企業が海外の株をあれほど持っているとはね。そして海外勢が日本の株を持っていたこともね。あれほど緊密なものであったとはね。概念的には知っていたけれど。
【生駒】けったいな合成債権を農林中金まで大量に買い込んでいたわけですね。
【吉村】本当にたちまち影響が広がったね。
【生駒】しかも、本格的にはこれから、ということですね。実体産業の方への影響は。
【吉村】29年の恐慌は33年くらいまで続いてね、そして33年がヒトラーの政権獲得でしょう。31年が満州事変なんですね。29年の恐慌は戦争で克服されたという側面がある。今度はどうなるか、というところですね。今戦争されたのでは困るわけでね。
【生駒】そうですね。中東の事態も怪しいですね。ブッシュのいる内に、という面もあるが、どう進展するか、危険ですね。
【吉村】100年に一度の歴史的な時を生きているということを認識してほしいですね。私自身も実際の恐慌というのは初めてなんですからね。
【佐野】私も不景気はたくさん経験しているわけですが、経済学的にですね、恐慌の定義というのはあるんですかね。
【吉村】恐慌という言葉を使うのは、大体マル経なんですね。近経の連中は絶対に恐慌という言葉を使わないです。だから、不況というだけなんです。
【生駒】それでもクラッシュとは言いますね。ガルブレイスは、The Grate Crashと言ってますね。
【吉村】ただ違う点はね、昔アルゲマイネクリーゼと言ってましたが、全般的危機と。革命的情勢という点もあって、政治的危機と絡めてね。現在は、アメリカ一極の世界支配の下にあるという違いはありますが。君達はしっかりメモとスクラップをしておくことだね。ほんとうに貴重な経験ですよ。こんな恐慌は初めてですよね。
【生駒】29年恐慌と言っても、日本では33,4年に影響がでているわけですね。
【吉村】日本はね、世界不況の中で景気の島と言われていたわけですね。31年の満州事変しかりですね。戦争というのは使ったものは、見事に消えていくわけですね。過剰物資が残るわけではない。だから資本主義にとっては過剰生産を克服するためのもっとも有効な手段であるわけだ。それだけに、ある意味で戦争の可能性があるという危惧を感じますね。
だから日本だけが不況の中に浮かぶ景気の島と言われた。考えてみると、アメリカの成長と言うか拡大というかね、その過程ではいつも戦争をやっていたわけだ。朝鮮戦争・ベトナム戦争、そして湾岸戦争・アフガン・イラク戦争とね。
【佐野】過剰生産のはけ口としての戦争ということなんですが、現状では派遣切りに特徴的なように、直ちに生産縮小体制に入ってますね。今回の恐慌の特徴が、膨張した金融が破綻することから始まっていますから、価値の減価が急激に起こったわけで、過剰生産のはけ口と言う意味と少し性格が異なっているようにも思えるのですがね。中国も生産縮小に入っていますからね。
【生駒】しかし、ここまで世界経済が緊密化しているから、戦争による解決というのはしんどいのではないでしょうか。
【吉村】解決は3年くらいはかかると言われているけれどね。
【佐野】アメリカの失業率が7.2%で、すぐに10%を越えると言われていますね。いくら救済策を出しても、ビッグ3は破綻するんじゃないかな。だってあの大型車は売れませんよ。売れないと再建はないわけですね。環境対応の電気自動車をすぐに売り出せれば話はちがいますけれど。それから、マインドの点の影響も大きいですね。リーマン破綻以後ですね。
【吉村】アメリカとしては市場原理主義でね、まだ確保しようと思っていただろうけれど、AIG問題では、これは潰せないと判断したわけだね。その上に、ビッグ3問題ですね。3社の社長が首を並べて大統領にお願いするわけだ、資金融資をね。芝居を見ているようだったね。
【生駒】あの巨額報酬には恐れ入るな。無茶苦茶ですね。リーマンを退職した社長の退職金が150億円とかね。
【吉村】年俸が100億とかね。日本と桁違いだね。
【生駒】ソニーがアメリカ人社長を迎えた時、その社長が報酬が低すぎると不満だったといいますね。年俸3億だったかな。アメリカでは考えられないとね。
【佐野】アメリカもオバマ大統領の登場を待っている面もありますね。大型投資で400万人の雇用を創出するということですが、財政赤字が拡大するばかりで、さらに円高ドル安が進むのは必至です。
【吉村】アイスランドですか、国家破綻したのはね。もしEUに入っていたら展開は違っていたでしょうね。小さな国はドル圏を選ぶか、EU圏を選ぶかね、国家の選択が問われるね。
【佐野】外資が入って金融で繁栄していたかに見えたのが、外資の逃げるのは瞬時だったですね。
【生駒】まさに、空中楼閣だったわけだね。もともと漁業国ですよ。そもそも金融立国というのがおかしいですよ。
【吉村】ブレドンウッズ体制というアメリカの一極支配が崩壊したあと、どんな体制が必要なのか、現役の諸君の課題として考えてほしい。今後議論していきたいね。
【生駒】先生、最後にちゃんと予測しておいてくださいよ。
【吉村】それはもう、君らの仕事だよ。(笑)・・・・・
【出典】 アサート No.374 2009年1月24日