【本の紹介】『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』

【本の紹介】『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』
  著者 ジョン・J・ミアシャイマー(シカゴ大学教授)
     ステイーヴン・M・ウォルト(ハーヴアード大学教授)
  第一部 2007/9/4 第二部 2007/10/15 副島種彦訳 発行 各 1,800円 講談社

<<「衝撃の問題作」>>
 本書は、昨年9月4日、世界十カ国以上で同時発売され、二部構成の大部であるにもかかわらず、たちまちベストセラー入りした注目の書である。発売直後の9/6付けニュヨーク・タイムズ紙は「イスラエル支持者に対する、検察官による罪状読み上げのような本」と題する書評を掲載し、著者たちが「イスラエルを米国にとってのごく普通の外国の一国として処遇すべき時だ」と記述していることに対して、「そんなことはできない。イスラエルは米国にとって特別な国であり続けるし、そのように考えることこそがリアリズムだ」と酷評、9/11付けワシントン・ポスト紙はリチャード・コーエン筆の書評「イスラエルが消滅することを正当化する論理の提起である」を掲載し、「今のイスラエルは米国にとって戦略的にすでにお荷物になっている。イスラエル・ロビーの活動は米国の国益を損なっている」という著者たちの主張に同意しながらも、「著者たちの主張はあまりに温かみに欠け一方的だ」と抗議している(以上、「訳者あとがき」より)。このように激しい反発と著者たちの勇気と誠実さを賞賛する賛否両論を巻き起こした「衝撃の問題作」である。
 共著者の二人は、国際政治学、国際関係論の分野では知らぬ人のいないほどの学者であり、国際政治学における現実主義という学派を唱道し、そこに属しているという。

<<「イスラエル・ロビー」とは>>
 著者たちの主張はその序文で明確に示されている。
 「私たちの主張は率直でわかりやすい。まず米国がイスラエルに与えている高レベルの金銭的、外交的な支援について記述した。そしそ戦略的な理由や人道的な理由だけではこれらの支援は説明がつかないことを示した。だから<イスラエル・ロビー>の政治的な力が米国のイスラエルに対する大きな支援を生み出している、と私たちは主張する。<イスラエル・ロビー>とは、イスラエルを利する方向に米国の外交政策を向かわせるべく、影響力を行使している諸団体や個人の緩やかな連合体のことである。〈イスラエル・ロビー〉は米国がイスラエルを無条件に後押しするように促す。それに加えて、彼らは米国の外交政策が形成される際に重要を役割を果たしている。イスラエル・パレスチナ紛争、災いをもたらしているイラク侵攻、シリアやイランとの今なお続く衝突など、様々な米国の外交政策について〈イスラエル・ロビー〉は重要な役割を果たしているのだ。私たち著者は次のように主張する。
「こうした米国の外交政策は米国の国益に適っていない。それどころか、イスラエルの長期的な利益をも損なう」

<<より開かれた議論>>
 実に明快である。しかし反応はすさまじかった。
 「私たちの論文への反応は大変なものであった。〇六年七月までに、ハーヴアード大学のウェブサイトに掲載した論文は二十七万五千回もダウンロードされた。私たちの許には『ロンドン・レヴュー・オブ・ブックス』に掲載された論文の翻訳許可や転載許可の依頼が殺到した。予想されたことだが、私たちの論文は〈イスラエル・ロビー〉に属する有名な諸団体や個人から数多くの批判を浴びた。それはまるで嵐のようだった。私たちは〝名誉毀損防止連盟″(ADl)、『ニューヨーク・サン』『ウォールストリート・ジャーナル』『ワシントン・ポスト』『エルサレム・ポスト』などの各紙の論説委員たちから〝反ユダヤ主義者〟と非難された。『ニュー・リパブリック』誌は私たちの論文を攻撃するために四本の論文を掲載した。多くの批評家たちが「この論文には歴史と事実に関する多くの間違いが含まれている」と私たちを非難した。しかし彼らの非雉こそ間違ったものだった。
 イスラエルや〈イスラエル・ロビー〉に関する重要な諸問題について、より開かれた議論が行われる兆候が見られるようになった。」

<<執筆の意図>>
 本書は当初別の出版社から依頼され、05年1月に原稿が送付されたが、掲載を拒否され、その後著者たちによってハーバード大学のインターネットサイトに所属教授論文集の一編として掲載され、上記のような活発な議論を巻き起こし、07年に至ってようやく改めて出版されるにいたった。その間の事情と執筆の意図について、次のように述べている。
 「しかし、依然として〈イスラエル・ロビー〉は米国の中東政策に大きな影響力を持っている。中東地域で米国とイスラエルが直面している諸問題は、私たちの論文が発表された後も小さくなってはいない。実際には中東地域の抱える諸問題はますます悪化するばかりだ。
 米国が行ったイラク戦争は完全に失敗だった。イスラエル国民とパレスチナ人は紛争にからめ取られ、そこから抜け出せないでいる。ハマスとファタフアはパレスチナでの主導権を巡って争いを続けている。レバノンにおけるヒズボラが果たしている役割はトラブルをもたらすだけだ。イランは自国内で核燃料サイクルを完成させようと努力を続けている。アル・カイダのようなテロリスト・グループは、今なお活発に活動を続け、危険である。そして、先進諸国はペルシャ湾の石油に依存している。これらは大変に悩ましい問題だ。もし、私たち米国民が、中東地域での自国の利益と〈イスラエル・ロビー〉を含めた自国の外交政策形成に影響を与える様々な要因について冷静な議論ができなければ、この国が直面している諸問題を効果的に解決することは不可能だ。今後の継続的な議論を促進するために私たちは本書を執筆しているのだ。」

<<米大統領選とイスラエル・ロビー>>
 本年08年11月には米大統領選が控え、予備選の模様が連日報道されているが、著者たちはそこに登場する政治家たちについても次のように述べている。
「米国では大統領選挙の年が近づいている。現段階で選挙結果を予測することは不可能だ。しかし、選挙キャンペーンの特徴のいくつかを予測することは簡単である。候補者たちは、この国が抱える国内の諸問題についてそれぞれ異なる意見を述べ、論争を重ねるだろう。つまり健康管理システム、妊娠中絶、同性婚、税制、教育、移民などだ。候補者たちは外交政策についても活発な議論をすることになるが、論点は次のようなものとなる。イラクにおける活動、ダルフールの危機的状況、イランの核兵器保有への野心、ロシアのNATOへの敵意、中国の台頭などの諸問題に対して米国はどのように対処するのが最善か?地球温暖化やテロリズムとの戦い、そして国際社会における米国のイメージの低下にはどのように対処すべきか?これらの諸問題やその他の多くの問題で候補者たちの意見が相違することを、私たち二人の著者は自信を持って予想できる。
 しかし、ある種の問題に関しては候補者たちが同じようなことしか言わないことも、私たちは自信を持って予想する。大統領選挙が行われる年には決まって見られる光景だが、二〇〇八年も、大統領の椅子を本気で狙う候補者たちは「私はある国と個人的に深いつながりがある」と宣言するだろう。その外国とはイスラエルのことである。それに加えて彼らは、米国がイスラエルへのゆるぎない支援を継続するという決意も述べるだろう。どの候補者も、イスラエルが直面している多くの脅威を正しく理解していることを強調する。自分が大統領選挙に当選したらという前提で、米国はどのような状況になってもイスラエルの利益を守ることを堅く約束するだろう。イスラエルを批判する候補者は誰もいない。また中東地域において米国はより公平な政策を採るべきだ、と提案する候補者もいないだろう。そんなことをしようものなら、大統領選挙からたちまち脱落してしまうからだ。
 アリゾナ州選出の共和党のジョン・マケイン上院議員は「イスラエルを守らねばならなくなった時、私たちは決して妥協することはありません」と高らかに宣言した。
 〇七年はじめ、ニューヨーク州選出の民主党上院議員であるヒラリー・クリントンはニューヨークで、有力な〝米国イスラエル広報委員会″(AIPAC)ニューヨーク支部の面々を前に次のように語った。
「今、イスラエルは大きな困難と危険に直面しています。重要なことは、私たちが自分の友人や同盟国の側に立って行動することであり、私たちの価値観を守ることです。イスラエルは中東地域に立つ、何が正しいかを示す灯台のような存在です。中東地域は急進主義、過激主義、専制政治、テロリズムの悪に覆われています」
 彼女と民主党の大統領候補の座を争っているイリノイ州選出の民主党上院議員バラク・オバマは、〇七年三月、シカゴでAIPACの会員に講演を行い、イスラエルを賞賛した。自分が大統領に当選した暁には、米国とイスラエルの関係を変更しないことを明言した。オバマは、同じ月の選挙キャンペーンではパレスチナ人が過去に味わった苦労に対し同情を示し、パレスチナ人が今なお苦しんでいることに言及していた。にもかかわらず、彼はイスラエルを称えたのだ。その他の有力な候補者も、親イスラエル的な心情を表明している。
 米国とイスラエルとの間の無批判かつ不変の関係について、人々を納得させるだけの人道的な根拠は存在しないのだ。イスラエルが存在することに関しては、強力な人道的な根拠がある。もしイスラエルの生存が危機に晒される場合、米国がイスラエルを助ける約束にも立派な理由が存在する。しかしパレスチナの占領地域において、イスラエルはパレスチナ人に対して野蛮で抑圧的な取り扱いを行っている。イスラエルの占領地政策について考え、さらに人道的な根拠を考慮に入れるなら、イスラエルとパレスチナ双方に対し、米国はより中立的な政策を採るようにすべきだ。もしくは米国政府は、パレスチナ側に肩入れすべきである。しかし私たちは、大統領選挙や議会選挙に立候補する人々の口から、そのような考えを聞いたことがない。
 米国の政治家がイスラエルに対してそこまでへりくだった態度をとるのは、〈イスラエル・ロビー〉の政治的な力を恐れているからなのだ。」
 実に鋭い分析といえよう。確かに注目の書である。

<<本書の目次>>
はじめに
第一部 アメリカ、イスラエル、そしてロビー
第一章 アメリカという大恩人
第二章 イスラエルは戦略上のク賛産″か。負債″か?
第三章 道義的根拠も消えてゆく
第四章 <イスラエル・ロビー>とは何か?
第五章 政策形成を誘導する
第六章 社会的風潮を支配する

第二部 ロビーの実態
はじめに
第七章 〈イスラエル・ロビー〉対パレスチナ人
第八章 イラクと中東体制転換の夢
第九章 シリアに狙いを定める
第十章 イランに照準を合わせる
第十一章 〈イスラエル・ロビー〉と第二次レバノン戦争
終章 何がなされるペきか

(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.362 2008年1月26日

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