【投稿】注目すべき「保守派」内部の亀裂

【投稿】注目すべき「保守派」内部の亀裂

一昨年の郵政解散で圧倒的多数を獲得した自民党。参議院選挙を前にして、憲法改正への手続き法案としての「国民投票法案」を強行採決するまでに至っている。
「戦後レジームからの脱却」路線を掲げ、憲法改正を待たずに「集団的自衛権の解釈改憲による既成事実化」まで踏み出そうとしている安倍政権であるが、圧倒的多数を確保・安住しているが故に、保守内部の分岐もまた、深刻になる可能性を無視することはできない。

<親米保守か、反米保守か>
最近、「アメリカの日本改造計画」(イーストプレス 2006年12月)という雑誌を購入した。<マスコミが書けない「日米論」>という副題が付いている。登場するのは、西部邁、小林よしのり、佐伯啓恵、西尾幹二などの右派論客を中心に、森田実や、元自民党の小林興起衆議院議員などが名を連ねている。編者は、関岡英之という人で、数年前に「拒否できない日本」(文春新書)を書いている。
各論は省略するとして、マスコミが郵政民営化選挙の際も、民営化がアメリカの要請に基づくものであることを隠蔽してきたこと、小泉構造改革なるものも、「アメリカが日本を安値で買い叩くための構造改革」であり、直近では、郵政民営化やM&Aを容易に行える「三角合併制度」の導入、古くは、NTT分割民営化や大店法、保険業へのアメリカ資本の参入規制の撤廃など、「規制緩和」と言われるものが、ほとんどアメリカの言いなりになってきたことを、「暴露」する内容となっている。このままでは、「アメリカに搾取されるだけの日本になる」との危機感が溢れているのである。
「国益を守れ」との主張は、右派そのものであるにしても、「国民の利益は、守られているのか、奪われているのか」との観点に立てば、ある程度の内容は、適切に「アメリカの言いなり政党・政権」の実態を暴露しているし、私も同感である部分も多い。
厖大な国民の貯蓄を、かみ屑になる可能性の極めて高いアメリカ国債にすべて投入し続ける日本、アメリカがイラクを攻めると言えば、欺瞞的国会答弁を続けて同調し、海外派兵を既成事実として継続する小泉・安倍政権。<親米保守>では、国益が損なわれる、という主張である。反米と言わないまでも、せめて<自立保守>になれ、との論調であろうか。

<買い漁るアメリカ>
すでに、「年次改革要望書」の問題については、昨年のアサート6月号に杉本氏から投稿をいただいている(http://www.assert.jp/data/2006/34904.html)。本山美彦氏の「売られ続ける日本、買い漁るアメリカ」にも、詳しい。1994年の「日米包括協議」から、日本の経済・財政の政策決定プロセスに、アメリカが露骨に介入し、これに対して規制緩和・市場開放を歴代自民党政権は進めてきた。小泉改革も、竹中平蔵を露払いにして、それに忠実に従ってきたものに過ぎない。この事実を政府も、マスコミも隠し続けている。
昨年来の「談合摘発」「入札制度の透明化」も、一面ではアメリカ建設業の日本市場参入を容易にする目的でもあり、貯蓄より投資(株式)を薦め、「会社は株主のもの、配当を増やせ」云々とのキャンペーンも、M&Aを容易に実現できる「三角合併」も然りである。引き続きアメリカが求めているのは、医療・教育分野であると言われている。国民皆保険制度もまた、アメリカ型の民間医療保険中心の制度へ転換させようというのである。
一方で、憲法改正の根拠が「占領軍の押し付け憲法」との主張と、こうした経済財政分野でのアメリカ追随が共存しているのが安倍政権である。対中韓強行路線であった小泉から替わった安倍首相が、村山・河野談話を継承確認すると明言したことには、右派論客にかなりの動揺が感じられ、その背景にあるのが、「親米保守」の限界なのだ、との主張が随所に語られている。

<保守派の分岐を利用しないわけにはいかない>
郵政選挙は、民営化に反対した自民党議員が除名になったが、まさにアメリカの言いなりにならない議員は切りすてられたわけである。(その後の復党劇は、茶番としか言いようがなく、国民が「失望」したこともまた理解できる)しかし、格差社会の議論も同様で、一部の大金持ちと圧倒的な貧困が共存するアメリカ型市場社会を容認するのか、セーフティネットを優先するヨーロッパ型の社会を目指すのか、という路線においても、保守内部に深刻な対立が再燃することは、予想できるのではないか。そして、野党陣営は、保守の分岐を決して無視してはならないのは当然である。

<保守の分裂を、塗り固める公明の犯罪性>
こうした保守の分岐に対して、「政権参加目的政党」でしかない公明党の果たしている役割は、犯罪的であると言える。すでに集票能力の低下著しい自民党を選挙で助け、キャスティング・ボードよろしく、苦言を呈するポーズを見せながら、結果的には、何ら<親米保守路線>に根本的に異を唱えることもなく、「児童手当の増額は公明党の成果」などなどの「おこぼれ」で自民党に追随しているのが、公明党である。
集票能力は長けているらしいが、反国民的行為を繰り返していることには変わりは無い。

<参議院選挙:自民党に過半数を与えるな>
圧倒的な多数派の自公政権だが、その基盤は脆弱であり不安定であることを忘れてはならない。参議院選挙の結果は、深刻な保守の内部矛盾を一層顕在化させる可能性は非常に高いのではないか。すでに選挙は間近になったが、自民党に過半数を与えないための野党選挙協力の実現、そして国民の選択に注目したい。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.354 2007年5月19日

カテゴリー: 政治 パーマリンク