【投稿】「防衛施設庁談合事件で躓く軍事再編

【投稿】「防衛施設庁談合事件で躓く軍事再編
 
<遠のく「防衛省」昇格> 
 1月30日、防衛施設庁の発注した空調設備工事で、技術審議官ら3人が東京地検特捜部に競争入札妨害(談合)容疑で逮捕された。この防衛施設庁高官による官製談合事件は、日米の軍事力再編計画に冷や水を浴びせかける形となった。
 防衛施設庁は1947年、進駐軍の施設や物資の調達・管理を行う特別調達庁として設置された。長官には防衛事務次官候補のキャリア官僚が就任している。審議官は施設庁のNO3であり、今回事件の主役となった技術審議官は技術系(技官)ではトップの役職である。
 同庁は1950年発足の自衛隊(警察予備隊、保安隊)より歴史が古く、利権も潤沢なため防衛庁に対して優越感を持っているという。額賀防衛庁長官は事件の発覚直後、防衛施設庁解体を言明した。これは談合事件を防衛庁の「省」への昇格-施設庁の解体吸収との既定路線に対する、施設庁プロパー官僚の抵抗を押さえ込む「追い風」に、との目論見からの発言であった。
 しかし事件の背景となった天下り先確保問題に関して額賀長官は、的はずれな弁明をしている。2月5日のテレビ番組で長官は「自衛官は定年が早く(下士官と下級将校は54歳)年金支給まで時間があるので、再就職を心配する傾向にある」と、事件を起こした一般職(技官)の審議官とは、身分も俸給表も別の自衛隊制服組の事情を引き合いに出して釈明した。
 制服組でも将官クラスなら定年後、大企業の重役の椅子に座ることも出来るが、曹、尉官クラスは、天下りにはほど遠い再就職が大半なのである。額賀発言で悪いのは全ての自衛隊員であるかのような印象を与えてしまった。日頃施設庁に「先輩風」を吹かされ、彼らの利権のために念願の省昇格が手のひらから逃げ、そのうえ悪者にされた自衛隊員は憤懣やるかたない思いだろう。
 さらにその後の事件の広がりから、事件は小泉政権にとって思わぬ逆風となってしまった。防衛「省」昇格そのものが頓挫しそうなのである。事件を機にもともと慎重だった公明党が再び消極姿勢に転じたため、今国会での関連法案提出が見送られる公算が大きくなっている。これまで省昇格に前向きな姿勢を示していた小泉首相も2月13日、「急ぐとかそういう話ではない。ゆっくり協議してもらえればいい」と記者団に発言、武部幹事長も同12日のテレビ番組で、今国会提出見送りを示唆した。

<米軍基地再編にも波紋>
 現在進められている在日米軍基地再編計画にも、今回の事件は重大な影響を及ぼしそうだ。逮捕された前審議官は地検特捜の取り調べに「全国の土木、建設工事で談合が行われていた」と供述、このなかで防衛施設庁が04年度に発注した、岩国基地の滑走路沖合移設工事でも談合が行われていたことが明らかとなった。
岩国市ではアメリカ軍の空母艦載機移駐を巡って3月12日に住民投票が予定されている。政府は「防衛政策に対して住民投票で賛否を問うのは問題」と非難しているが、暴かれた利権の構図の前には説得力を持たない。
 また今後全国各地で進められようとしている、米軍、自衛隊の基地や司令部、補給所などの施設の移転、拡充計画でも当然談合が予定されていたわけであり、とりわけ沖縄は「宝の山」である。
 焦点の普天間基地を巡っては、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部(辺野古崎)に移設することで日米両政府は昨年10月合意している。しかし移設反対派を破って先月当選した新市長も「辺野古崎案は受け入れられない」と表明、沖縄県、議会も沖縄県外移転の方針を堅持しており、業を煮やした日本政府は知事の権限を剥奪する特別措置法の制定をちらつかせ恫喝をかけているが、展望は見えていない。直接の基地被害に加え、ゼネコン、官僚の食い物にされていることが明らかになった地元の反発は今後ますます強まるだろう。
 このような状況は施設、基地の移転が予定されている各自治体で惹起してくるだろうし、この間頻発する米兵の犯罪と相まって住民の反基地感情は、高まっていくことは確実である。このままでは3月に予定されている、日米安全保障協議会委員会(2プラス2)での最終報告とりまとめは、困難な情勢になりつつあり、アメリカの圧力に晒されている日本政府は焦燥感を深めている。
 事態を打開しようと防衛庁は、関係自治体への新たな交付金の創設を検討している。現在も米軍基地を抱える自治体には、今年度も251億円をしているが、これとは別に「原発交付金」をモデルとした、新たな交付金制度を新設するというのだ。札束で頬をはたいて基地を押しつけようとしているのである。
 こうしたなかアメリカは、沖縄海兵隊がグアムに移転する費用について、総額80億ドル(約9400億円)のうち、その75パーセントを日本側に負担するように求めてきた。
 この吹っ掛けとしか言いようがない要求に、さすがに日本政府も、算出根拠を提示するよう求めているが、基地問題をカネで解決しようとする姿勢の足下を見られたのである。
 防衛庁は今国会に提出を検討している米軍再編関連法案に交付金創設などを盛り込みたい意向だが、これら野放図ともいえる要求には財務省も抵抗を示している。政局は談合事件を含めた「四点セット」での小泉政権追及に次期首相レースに絡んだ展開となっているが、これを契機として米軍基地再編を再検討していくことが民主党など野党に求められている。(大阪 O)

 【出典】 アサート No.339 2006年2月25日

カテゴリー: 政治 パーマリンク