【投稿】新潟中越地震と柏崎刈羽原発
<<震源地から25kmの原発>>
10月23日午後6時過ぎ、本紙先月号の発送作業にとりかかろうと集まり、準備をしているそのときに、地震発生のニュースが飛び込んできた。「新幹線が脱線したようです」とまで報じられ、それを伝えるニュース報道のさなかに再び強い余震が襲い、手でテーブルを押さえながら「落ち着いてください!」と叫ぶアナウンサーの声が上ずっていたが、落ち着くどころか、なんとも言いようのない不安と恐怖がいまだに続いている。
予想外に強烈な被害の実態、いまだに続く強い余震、しかしその中でも何事もなかったかのように平然と運転を続行している東京電力・柏崎刈羽原発、この原発は震源地から25kmしか離れていないのである。最大の不安と恐怖の正体の一つは、この原発にある。
東京電力がプレス発表した「新潟県中越地震における柏崎刈羽原子力発電所の状況について」(11/2)は、「今回の中越地震において、柏崎刈羽原子力発電所では、57ガルという揺れを観測しましたが、直接、プラントの運転に関わるような設備被害はありませんでした。そもそも、柏崎刈羽原子力発電所は、『建屋は安定した岩盤に支持させる』『建屋は地震に強い丈夫な構造とする』『調査により考えられる最大の地震を想定する』などの耐震設計になっており、また大地震の時は、耐震強度に十分な余裕を持って原子炉の運転を自動的に止める仕組みになっています。具体的には、水平方向の揺れが120ガル、上下方向の揺れが100ガルを超えると自動的に止まります。」と述べている。
ところがその二日後の11/4、東京電力は「本日、8時57分頃の地震に伴い当所7号機が原子炉自動停止いたしました。なお、当所1,2,3,5,6号機は、現在、定格出力で運転を継続しております。また4号機は定期検査中であります」と発表しているが、それ以上の説明はない。ということはこの日の余震が「水平方向の揺れが120ガル、上下方向の揺れが100ガルを超える」ものであったことを明らかにしている。それにもかかわらずその他の1,2,3,5,6号機は自動停止せず、なおかつ停止させることもなく、定格出力をしているというのである。
<<1500ガルの衝撃>>
防災科学技術研究所によると、震央からの距離1kmに設置されていた小千谷市のK-NET(強震計)で、最大加速度1500ガルを記録したという。これは阪神大震災の際に神戸海洋気象台が観測した818ガルを上回る観測史上最大級の強さである。長岡では、岩盤上の1成分だけで400ガルを超す加速度が観測されている。柏崎市でも地表で144ガルが記録されている。
ところが、原発が想定している揺れは、最も大きく想定している静岡県の浜岡原発でさえ600ガルである。柏崎刈羽原発の各原子炉の耐震設計は,基礎岩盤の300ガル(設計用最強地震)および450ガル(設計用限界地震)の地震動(地震の揺れ)に対してなされている。その4倍近い1500ガルなどと言う値は、そもそも想定外なのである。
しかも問題なのは、東京電力が言う「調査により考えられる最大の地震を想定する」という最大地震エネルギーは今回のマグニチュード6.8どころか、マグニチュード8.0強を想定している。マグニチュード8クラスでも、最大振動が600ガルや450ガルを上回らないという根拠などまったくなかったのであるが、現実はこんな架空の想定を吹っ飛ばしてしまったのである。すでに阪神淡路大震災でも818ガル、そして今回は1500ガルである。耐震設計基準は、音を立てて崩れてしまったと言えよう。
さらにこの想定は、最大震度1回を前提としているが、今回のように繰り返し多数回にわたって襲ってくる余震、本震と同程度にまで及ぶ強力な余震というのも全くの想定外であった。しかも柏崎刈羽原発の場合は,建屋が設置されている岩盤の質が、弾性波速度700m/s以下のものもあるほど劣悪だという指摘もなされている。
<<あふれ出た冷却水>>
その上に問題なのは、人為的安全放棄である。柏崎刈羽原発の1・2・3・5号炉は、原子炉本体のシュラウドにひび割れを多数残したまま運転を続けている。これは、昨年八月にヒビ割れや記録改ざんの隠ぺいを発表せざるを得なくなった時、東電は「隠したのは悪かったが安全性に問題はない」と主張していたが、その一方で応急的なヒビ割れ修理を行っていたものである。
さらに、再稼働を強行した6号機と7号機は、シュラウド以外は従来通りの検査しかしていない。他の原発でヒビ割れの見つかった炉内構造物や配管、配管の減肉、不具合や内部告発があった制御棒駆動装置や、溶接焼きなましデータ捏造疑惑部位などの点検を行っていないのである。
しかも、ひび割れが激しい1号機では、過去五年間の検査で34箇所中、4箇所のひび割れが発見されていたにもかかわらず、『異常なし』と報告し、その後の記録改ざん・不正事件後の一斉点検では、突如、45箇所中、実に26箇所もの溶接部でひび割れが見つかったというのであるから、ずさん極まりない安全対策、信用できない検査記録・プレス発表を自ら暴露する結果となっている。
そもそも信用など出来ないのであるが、それでも東京電力は運転中の原子炉に関する詳細な情報提供を怠っていることは間違いがない。10/25付け『新潟日報』によると,1号炉と2号炉のタービン建屋でモルタルが落下したり、地震の揺れにより2・3・4・5・7号炉の使用済み燃料貯蔵プールから冷却水があふれ出し、4号炉で200リットル、他の炉でも数リットルから100リットルがあふれたようだ、と報じている。東京電力は10/31、2号機で、原子炉内の水位が異常に低下した場合に水を送り込む「原子炉隔離時冷却系」のタービンが正常に動かない不具合が見つかった、原因を調査していると発表したがそれだけである。その後も重大な事故につながりかねないこれらの事態について東電は詳細な情報をほとんど開示していないのである。
<<地震学者の警告>>
新潟県中越地震の全貌はまだ明らかになってはいないし、余震もまだ続いている。政府の地震調査研究推進本部は10/13、長岡平野西縁断層帯で全体が一つの区間として活動した場合、マグニチュード8.0程度の地震が発生する可能性があるという評価結果を出したばかりである。その意味ではまだまだ地震エネルギーがすべて放出されたとは言いがたい状況である。
阪神淡路大地震以来、東北で連続して発生した大地震、その後も各地で相次ぐ地震報道は、日本列島が大地震活動期に入っていることを改めて示しているともいえよう。マグニチュード8クラスの東海大地震、中南海大地震の可能性が無視できない現実となってきているとき、それらの巨大地震がずさんな管理と検査の手抜き、浜岡原発のように「シャブコン」と呼ばれる水増しコンクリートで作られた建屋、減肉でやせ細った配管に覆われ、ヒビ割れた原子炉を抱える日本の原発を直撃し、人類未曾有の原発大震災を発生する可能性がますます高まっていることを肝に銘ずべきであろう。
以下に示すように多くの地震学者が破局的災害の現実性を警告している。この警告にあるように、事態を真剣に受け止め、この問題に真っ正面から取り組むことが求められているのではないだろうか。
(生駒 敬)
<追記:地質学者の警告については、ネット上でご覧ください。編集委員 佐野>
「【資料】「原発震災:日本列島で懸念される、地震と地震による核事故とが複合する破局的災害」 石橋克彦氏 (神戸大学理学部教授)」
【出典】 アサート No.324 2004年11月20日