【投稿】支援費制度導入2年目で、早くも制度見直し案

【投稿】支援費制度導入2年目で、早くも制度見直し案

今年3月のアサートNo316(『課題山積みの福祉制度改革–介護保険と支援費–』)において、私は以下のような指摘をしている。

『<福祉サービスを巡る制度設計不足>
支援費制度は当初より制度的に問題が多かった。介護保険は、要介護度認定にあたり医者などを構成員とする専門委員会で決定し、さらに要介護度に応じて金額ベースの利用上限を設定し、標準的なサービス量を想定し、組み合わせはケアマネジャーという資格者の権限とした。支援費制度には、障害程度区分3段階はあるが、専門家委員会もケアマネも制度化されなかった。さらに標準的なサービス量も示されなかった。自治体にお任せというやり方である。さらに今回の統合論では、2002年から導入された精神障害者への在宅サービスも含まれているが、高齢者介護や身体障害者介護とは、全く性格を異にするスキルが要求されるサービスである。
いずれも、施設依存型福祉から地域・在宅型福祉への転換という大テーマの下に構想されたことは当然としても、単なる財源論から出発した論議では、高齢者福祉・障害者福祉の向上が望めないのは当然ではないか。』

<障害者福祉サービスの統合を提案>
厚生労働省は、10月12日 社会保障審議会障害者部会を開催し、「今後の障害保健福祉施策について」(改革のグランドデザイン案)を公表した。基本的視点として、
①三障害福祉(身体・知的・精神)を一体的に市町村事業にする
②保護型のシステムから「自立支援型システム」へ
③「制度の持続可能性の確保」・・・・・給付の重点化、制度の効率化・透明化
を挙げて、さらに★現行の制度的課題を解決する★新たな障害保健福祉施策体系を構築すると、二つの「改革の基本的方向」に整理している。
具体的内容の中で特徴的なのは、①福祉サービス提供事務の市町村への委譲②計画的な整備手法(数値目標を示した計画の策定)③国民の理解促進を挙げていることである。
その中では、私の指摘した問題点について、一定の改善策が提示されている。
まず、支援計画の作成について、ケアマネ制度を導入し、費用も負担する。そして、障害程度に係る尺度とサービスモデルの明確化(標準モデル作成)を行うとしているのである。介護保険の先例に習い、一定の制度的成熟を目指そうという意図は決してまちがってはいない。

<財政問題が、その本質>
しかし、「グランドデザイン」という割には、改悪部分は具体案が多く、目標が明確であるのに、改革案の方は、明らかに「構想」でしかないものが多い。それがこの報告の特徴でもある。
特に、現在の障害者サービスの利用者負担額が低く抑えられている点については、サービスの量に比例する「応益的な負担金制度の導入」という事で、かなりの利用者負担を提案してくる可能性が強い。入所施設負担金の見直し、公費負担医療制度の見直しという点でも利用者負担をさらに重くしようという提案が含まれているのである。
特に、提案の中に、「既存の公的保険制度等と比較して制度を維持管理する仕組みが極めて脆弱なことから・・・」というフレーズが繰り返し述べられている。既存の公的保険制度とは、介護保険に他ならないと思われるが、介護保険の財源構造は極めて安定している、というのだろうか。現在の障害者福祉は、基本的に税財源で実施されているが、本来はこちらの方が安定しているはずである。この提案の終着駅には、介護サービスの統合があることは明白である。

<最終目標は、介護保険との統合>
今回の提案の第一の目的は、支援費制度と介護保険の統合へのステップであるということだ。唐突なアドバルンを挙げて、厳しい批判をあびた反省から、まず支援費制度と精神障害者への福祉制度の統合、一体化をまず進め、その中で、介護保険に極めて近い制度設計を進めておく。それが、実現した上なら、介護保険との制度統合については、ハードルは低くなると考えているようだ。
第2の目的は、介護保険との統合を待つ事なく、支援費で導入された利用者自己負担額の値上げによる財政効果が狙いである。保険料負担を除いて、介護保険では利用者はサービス費用の一割を負担しているが、支援費では1.3%にすぎない。この負担率を実質10%に近づけることが目標になるに違いない。

<一部には、前向きな提案も>
唐突な提案の時、特に抵抗が強かった点は、介護保険が利用の上限を設けている点だ。その点について、今回の提案では、障害者介護について、障害者介護給付と障害者自立支援給付の2本立てを行い、自立支援と社会参加的なホームヘルプを別立てとした。また、障害者の居住保障という事で、居住サポート事業を提案している点や、都道府県・市町村に数値目標を示した障害者計画を義務付けるとした点など、一部に積極的な提案も見て取れる。
ただ、現状でも身体障害者在宅サービスを実施した自治体が78%に留まっている点、精神障害者サービスに至っては52%の自治体しか行われていないなど、現状でも遅れている全国的なサービス実態がある。

<議論は、これからだ>
この提案については、あくまでも厚生労働省の試案とし、関係審議会、関係機関等と協議を行い、次の通常国会に法案提出を目指すとししている。しかし、基本的に介護保険との統合をめざしていること、サービス利用の上限問題、利用者負担の具体案など、障害者団体が反対してきた点について明確になっていないし、自立支援を主眼としているものの財源問題が見え隠れしているのである。
欠陥制度としてスタートした支援費制度であったが、サービス利用が増えている事は、一面ではニーズが掘り起こされたことも事実である。介護保険と支援費の統合自体に自治体関係者の反対も根強いものがある。成熟した制度としてスタートできるよう、障害者・団体の声に耳を傾け、現場の声も十分くみ上げる姿勢が望まれている。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.323 2004年10月23日

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