【コラム】ひとりごと—自殺者3万人時代に思う—
○少なくとも1996年まで、年間の自殺者は2万人台で上下していた。ところが翌年の1997年に一気に3万人台に急増する。以来一昨年まで5年間、自殺者が3万人台の前半で推移しており減少する兆しもない。女性の自殺はそれほど変化していないが、1997年の自殺急増の要因は、男性の自殺が8千人近く増えた結果である。○人口10万人あたりの自殺者数で比較してみると、世界的に見ても、日本の26人と言う数字は、アメリカの12人、イギリスの8人、ドイツ16人と比べても圧倒的に多い。○平成14年の年齢別死因順位では、男性25歳から44歳では、自殺がトップとなっている。交通事故での死亡が1万人を突破した時、大変話題になったが、今は交通規制や飲酒運転の規制の結果、数年前から8千人程度と減少している事と比べても異常な事態である。○厚生労働省も、事態の深刻さを認識してか、2002年から自殺防止のための対策を強めてはいる。同省ホームページを見れば、自殺防止の取り組みを知ることができる。新潟県では、平成13年の自殺者数が人口10万人比で34.2人、秋田県では、平成12年に38.4人という数字が出ている。特に急増している年齢層としては、50歳代の男性という結果もあり、生きがい作りや自殺に関係が深いと言われる「うつ病」の早期対策を行うよう事業を進めてはいるようだ。○長引く不況とグローバルスタンダードを旗印にした労働慣行の急速な激変という環境の変化の中、中高年の自殺の激増という事態の責任の大半は、むしろ厚生労働省にこそあるはずであろう。○心理学者の加藤諦三氏は、1960年代以降の経過を分析し、むしろ高度成長期に入った時期から、会社人間、経済第一主義が蔓延し、日本人男性が会社や仕事にしか生きがいを持てないように強制されてきたのであり、精神的不安定を内在させてきたこと、現在のリストラ時代を迎えて、一層の不安と焦燥感が中高年男性に襲い掛かってきていると分析されている。(『「日本型うつ病社会」の構造』)○自殺3万人という事態は、日本という国が、如何に働く仲間に過酷な国なのか、労働者を使い捨てにしてきたのか、と言う事を現しているのだ。(佐野)
【出典】 アサート No.315 2004年2月21日