【投稿】展望見えぬ日朝交渉—評価分かれる政府部内—
外務省高官の訪朝で1年半ぶりに再開された日朝協議では、焦点の拉致問題について、北朝鮮側は従来の主張を繰り返したのみで、具体的な進展は無かった。
帰国した高官から報告を受けた小泉首相は、自らは方針を示さぬまま「できるだけ早く成果を上げよ」とせっついた。
この間小泉政権は拉致問題を極めて露骨な形で政治利用、国内の反北朝鮮感情を煽り政権浮揚をはかってきた。しかしズルズルと問題を引き延ばしている間に、民主党にも強硬論が台頭、今国会では外為法改正案が圧倒的多数で可決され、「挙国一致」的状況に至った。
こうして拉致問題が小泉政権の専売特許ではなくなったうえ、これ以降も何ら成果があがらない事態が続けば、国民の反発、野党の追及で、逆に政権の命取りになりかねない状況を目の当たりにして、小泉首相は強い危機感を抱いたのである。
さらに、イラクで自衛隊に犠牲者が出る危険性が高まる中、なんとしても外交問題で点数を稼がねば、参議院選挙に重大な影響を及ぼすとして、焦燥感あらわな指示を外務省に対して行ったと言える。さらに小泉首相は、最強硬派の安倍幹事長らが主張している「特定船舶入港禁止法案」制定についても「対話と圧力の一環ではないか」と、何でもありの考えを示しているのである。
一方、福田官房長官は記者会見で、日朝協議について①1年半なかった政府間のハイレベルの交渉をした②6カ国協議の直前に行われた③日朝平壌宣言による問題解決を確認した等々を挙げ「大変、意味があった」と、内容を自賛したうえ「政府として『対話と圧力』の双方を勘案してやっていくという基本的考えは変わっていない。圧力を強めるべきかどうか、北朝鮮の出方を慎重に見極めながら考える」と表明、また「特定船舶入港禁止法案」には一定の理解を示しつつ、北朝鮮への改正外為法の発動については、「効果があるときに実行するのは当然だが、検討するのと実行するのは違う」と述べたという。
先の協議に首相が事実上「ダメ出し」をして、さらなる強硬策に踏み込む姿勢を見せているのにもかかわらず、報告の場に同席した官房長官は「OK」を出し、強硬策を牽制するという混乱を見せている。こうした不統一に北朝鮮側がつけ込まないはずはないのであって、2月25日からの6カ国協議以前はもちろん、協議の席上あるいは協議終了後の進展も望めないだろう。
<「丸投げ」外交のツケが露わに>
もちろん根本的な問題は何を持って拉致問題の「解決」とするのか示し得ない日本政府にある。例えば「特定失踪者問題調査会」が明らかにした不明者の実態解明を解決とするなら、拉致問題は永遠に解決しない。
小泉政権と「拉致被害者家族会」「拉致被害者を救う会全国協議会」はこれまで「二人三脚」で来たけれど、お互い違うゴールを目指していることが明らかになってきた。政府としては未だに日朝国交回復を大きな目標としているが、当事者、とりわけ右翼テロリストもメンバーだったことが判明した「救う会」は、北朝鮮自体の存在を認めない人物の影響力が強く、実は国交回復など論外なのである。
特定失踪者の公開リストには、2002年9月17日の日朝平壌会談以降に失踪した人も含まれている。調査会は当該者について現在のところ「拉致の可能性が濃い失踪者16名」には含んでいない。しかしこれは言外に「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した」平壌宣言など信用できないと、頭から否定しているのも同然だ。
先の政府高官協議で、平壌宣言の原則が確認されたことを確認し、拉致被害者家族8人が「帰国」すれば日朝国交正常化交渉を再開する、としている政府と「救う会」などとの乖離は、ますます拡大するだろう。もし8人の無条件「帰国」が実現しても、「救う会」などは横田めぐみさんら10名、さらに「特定失踪者16名」の帰国実現を国交交渉の条件として要求していくことが考えられる。
小泉政権が本当に拉致問題の解決と朝鮮半島、東アジアの安定を望むなら、一度頭を冷やして主体的な方針を確立すべきであるが、それが期待できないのは、被害者や家族を利用し、「救う会」に方針を丸投げしたツケがまわり、自らを引くに引けないところまで追い込んでしまったからに他ならないのである。(大阪O)
【出典】 アサート No.315 2004年2月21日