【投稿】海自中東派兵の本質―軍事力による海外権益確保に踏み出した安倍政権―

12月27日安倍政権は、海上自衛隊の中東派兵を国会に図ることなく閣議決定した。その根拠は防衛省設置法の「調査・研究」とされ、新規立法は見送られた。これにより部隊の運用に関しては官邸=国家安全保障会議(NSC)が事実上のフリーハンドを握る形となった。

予定ではジプチに駐留する海賊対処用P3C哨戒機2機が1月から、護衛艦「たかなみ」が2月下旬から、2020年12月26日まで任務に就くとされているが、政権の恣意でいくらでも延長できる。

これらの活動は国会に対しては報告義務があるが、閣議決定後と活動終了後という極めて形式的なものとされており、議会は事実上無視されている。派兵部隊がどの海域でどの様な行動を行っているか、リアルタイムで国民は知るすべはない。

また、国会への報告についても公文書の隠蔽、改竄の常習犯である安倍政権から、まともなものが出てくるとは限らないだろう。

今回の派兵の口実とされた、6月13日のホルムズ海峡における船舶への攻撃の際、海賊対処任務でアデン湾にいた護衛艦「あさぎり」では5月、航海中に艦長(2等海佐)がSNSに同艦の位置情報などを投稿したとして更迭された。

海賊対処に関わる活動に関しては、統合幕僚監部や海上自衛隊のHPでも写真が掲載されているが、詳しい位置や日時を特定できるものではない。

その意味で前艦長は貴重な情報を公開してくれていたわけであるが、今後派兵部隊に対する情報管理は一層強化されるので、そうした「情報漏えい」も期待できなくなるだろう。(海外では、ウクライナやシリアにロシア軍が展開していることが、兵士のSNS投稿で露見している)

今回の派兵は、アメリカが主導する有志連合「海洋安全保障イニシアチブ」への参加ではなく、日本の独自行動である。日本はこれまで中東に、1991年の湾岸戦争後の機雷掃海を皮切りに、対テロ作戦など様々な任務に部隊を派遣してきた。

それらは国際協力の下の非戦闘任務という縛りがあり、継続中の海賊対処活動も当初は日本の独自行動とされたが、現在は米、英、仏、豪などで編成される第151合同任務部隊(CTF-151)という多国籍艦隊の指揮下に、護衛艦1隻(2017年までは2隻)哨戒機2機がある。さらにこの部隊の司令官には、これまで海自から3名が任命されている。

このため6月のような緊急事態に、短期間対応するのは可能であっても、長期間独自行動をとるのは難しい状況にある。そのため今回護衛艦1隻が新たに送られることとなった。

この決定と過程についてアメリカとイランの双方に配慮した結果と評されているが、新たな海自部隊は第151部隊にもアメリカの「イニシアチブ」にも拘束されない存在となる。

さらに派遣の根拠は「調査・研究」であるが「不測の事態」が惹起すれば「海上警備行動」に転換するとされている。1999年には能登半島沖で北朝鮮の工作船に対し護衛艦、哨戒機によって「警告」と称する砲爆撃が行われた。この時は「不審船」による領海侵犯という大義名分があり、2日足らずでで行動も終了したが、今回は全く違う。

安倍政権は、この間の事態を奇貨として「自由で開かれたインド・太平洋構想」に基づき、この海域での軍事的プレゼンス拡大に乗り出したのである。

今回戦後初めて、先に述べた機雷掃海やカンボジアPKO、イラク「復興」派遣のような国際協調や米国主導という枠組みを超え、海外での日本の権益擁護のための武力行使を排除しない長期間の作戦が発動された。

今後実際には、海自の活動海域で戦闘が勃発する可能性は、イエメン沖でフーシ派のミサイル攻撃でも受けない限り低いと考えられる。しかし、海外で独自に自国の利害のための武力行使を可能とするスキームが、国会の論議抜きに作られたことが、極めて問題であると言わざるを得ない。

河野太郎は12月29日、オマーンを訪問し、同国政府から護衛艦の寄港と同艦への補給を取り付けた。アラビア海での拠点はジプチだけであったが、この地域で影響力を拡大する中国への対抗が透けて見える。

中国は11月下旬、南アフリカ、ロシアと初めて3か国海軍演習を実施、12月27日からはオマーン湾でロシア、イランとの演習を行うなど活動を活発化させており、いずれは空母も派遣されると考えられる。

日本も「いずも」「かが」の空母への改装、新型護衛艦の大量建艦を進めており、東シナ海、南シナ海を超えて「戦線」は拡大されようとしているのである。

 

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