【投稿】闇雲の新型コロナウイルス対策と旧日本軍と厚労省の深い関係
福井 杉本達也
1 新型コロナウイルスに闇夜の「バンザイ突撃」-中韓からの入国制限は世紀の愚策
厚労省のPCR検査が増強されない中、瀬戸際に追い込まれ焦りまくる官邸は、3月6日の閣議で、闇雲に中国・韓国からの入国者の14日間の指定場所での隔離などによる全く遅すぎた「水際対策」(?…いやいや、とっくにコロナは陸地に上がってる:ツイッター)の強化を打ち出した。中国では既に湖北省以外はピークを超えている。東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授は、「どこまで効果が上がるかは科学的にはわからない。こうした対策をとるにしても、新型コロナウイルスが日本国内に侵入するリスクがあることが本格的に懸念され始めたころに行っておくべきことだった」(NHK:2020.3.6)と述べている。韓国外相は「非友好的なだけでなく非科学的」と批判した。中国人の入国者は2019年は960万人を超え、韓国も560万人、逆に日本人の中国への出国は146万人(うちビジネスが42万人)・韓国へは238万人(ビジネスは25万人)となっており、中韓とのサプライチェーンを意図的に切断するもので、経済的なダメージは計り知れない。世紀の大愚策といってよい。既に、日産やホンダ・マツダなど自動車産業の国内主要工場は中国からの部品供給が滞り、生産ストップしている。車部品の3割は中国製といわれ、エンジン部品の周辺の中核部品も供給している(日経:2020.2.12)。また、感染対策と称して危機感を煽り、菅官房長官が1億枚を確保するとした肝心のマスクの生産は中国が8割を占める。政府が買い上げ北海道に集中的に供給するとしたものの、十分に行き渡らない。
ところで、肝心の新型コロナウイルスのPCR検査だが、厚労省は3月6日より、検査を保険適用するととしたが、窓口は「帰国者・接触者外来等の検査体制の整った医療機関」に限定される。これまでのように保健所で検査を断られてしまう事例は少なくなるかもしれないが、検査窓口が限定されており、検査数が大きく改善することは望めない。もちろん、検査データの「医療機関」→「保健所」→「感染研」のルートは維持される。県が厚労省の顔色を窺い独自に検査数を増やすことができない事情には、厚労省の医官が各県の厚生関係部署に派遣され、医師会や病院・保健所・衛生研究所を統括していることにもある。院内感染した有田病院において和歌山県知事は「早期発見し重症化させないことが大事。『医者にかかるな』というのはおかしい、従わない」共同:2020.2.28)と国の指導に抵抗し、徹底した検査を行い医療崩壊を食い止めたのは、むしろ例外的である。
2 厚労省は旧日本陸海軍の業務を引き継いだ組織
各県の厚労部局には古びた毛筆で書かれた虫食いの旧日本陸海軍の履歴その他勤務に関する原本(人事記録)が備えられている。軍人恩給やその他の証明のためである。これらは都道府県を経由して厚労省に上げられる。また第二次世界大戦での戦死者の遺骨収集やシベリヤ抑留者名簿の整理なども厚労省の役割である。1945年に旧日本陸海軍という官僚組織は解体されたため、それを公的・人的にも引き継いだ組織が旧厚生省である。戦前、靖国神社は陸軍省、海軍省、内務省が管理運営した特別な国家機関であり、合祀予定者の名簿は陸・海軍省が作成していたが、その業務も厚生省内の引揚援護局(1961年から厚生省援護局)が引き継ぎ、靖国神社に、合祀すべき人々の名簿、祭神名票が送られていた。戦後、援護局には旧軍人が大量に入り込んだのである。
陸海軍病院の多くは厚生省に移管された。「東京第一陸軍病院」は現在の国際医療研究センターである。また、旧日本軍との関係の深かった伝染病研究所は東大の医科学研究所と厚生省管轄の予防衛生研究所(現感染症研究所)に分割された。こうした中、旧関東軍の731部隊の研究者の多くが予防衛生研究所に奉職している。慈恵医大は設立者が海軍軍人だったこともあり海軍との関係が深い。政府の「ウイルス感染症対策専門家会議」は12名のメンバー中、医師会・学会・弁護士を除くと、「国立感染症研究所」、「東京大学医科学研究所」、「国立国際医療研究センター」、「東京慈恵会医科大学」の関係者が8人も入っている。無関係の委員は、押谷仁東北大学教授だけだ。「帝国陸海軍の亡霊たちが、専門家会議の委員にとりつき、復活を果たそうとして いるように見える。」(参照:上昌弘医療ガバナンス研究所理事長:「帝国陸海軍の『亡霊』が支配する新型コロナ『専門家会議』に物申す」2020.3.5)。
3 医薬品開発を独占―「ミドリ十字事件」
かつて「ミドリ十字」という血液製剤企業があった。同社創業者の内藤良一は医師(元軍医・陸軍軍医中佐)であり、731部隊の石井四郎中将の片腕の一人にあたる。同社には厚生省薬務局の幹部が大量に天下っていた。しかし、1980年代の薬害エイズ事件により業績が悪化し、他の製薬会社に吸収合併された。
戦後、GHQは感染研の前身である予防衛生研究所を設置するとき、「生物学的製剤及び抗菌薬の検定」「ワクチンの製造及び配給」などを命じた(「伝病研究所系譜から見た日本の感染症対策略史」岩本愛吉:2018)。ワクチンは軍事作戦には欠かせないが、現在も「ワクチンの製造・供給体制は、他の薬剤とは全く違う。数社の国内メーカーと 『国立感染症研究所』(感染研)が協力する『オールジャパン』体制だ。」「『官民カルテル体制』を死守したいのだろう」。PCR検査は韓国の検査数が1万件/日を超える一方日本は1千件である。検査数が増えれば感染研の処理能力を超える。検査が遅れれば高齢者は治療が遅れ重篤になる。「厚労省の方針は、まさに『人体実験』といっていい代物だ。」と述べている(上昌弘:上記)。
4 濃厚接触者を検査もしない恐ろしい組織
厚労省は当初、クルーズ船内で業務にあたった検疫官や医療関係者はウイルス検査の対象から外し、症状が出た場合などに検査を実施するとしていた。その理由は「専門知識があり、予防対策ができている」として検疫官や医師や看護師の資格を持つ職員は、症状がない場合には原則として検査を行わず、発熱や呼吸器系 の症状が出たり感染者と濃厚接触したりした場合に検査を実施するということであった。一方、河野防衛大臣は自衛隊員がクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で任務を行った 場合は、新型コロナウイルスにかかっているかどうかのPCR検査を全員受けさせ、その後1週間休ませていることを明らかにした(2020.2.23)。どちらがまともな組織であるかは一目瞭然である。「専門知識がある」というのは全くの精神論である。どの程度感染力があるかも不明である。DMATや検疫官の感染も確認される中で2月27日には、さすがに厚労省の精神論は撤回されたが、自衛隊と比較しても旧日本軍体質そのものを受け継いでいる。
5 「クラスター」とは単なる「仮説」に過ぎない
基本方針で示された患者クラスター (集団)に対する感染拡大防止策:「感染クラスタの特徴を発見し」、「感染クラスタをつぶす」というのが専門家会議の方向であるが、“大阪のライブハウス”を始め、どこにクラスターが発生するか予めわかるものではない。数多く検査して初めて、クラスターが浮かび上がる。答えが予めわかればそこに力を集中できるが、それがわかれば苦労はない。感染研は自前の検査法に拘って、絶対数の少ないデータを数量モデルで補って成果を上げることを狙ってるが、検査数が少なく、従って感染例も少ない中で、クラスター「仮説」を振り回しても無理がある。既に中国では、大量のデータに基づいて新型コロナウイルスに関する多数の論文が発表されている(参照:押川正毅:2020.3.4)。3月3日にはインドが日本人の入国を制限をするなど、日本は既に感染「輸出」国と化している。圧倒的物量作戦に対する、旧日本軍の玉砕戦法のように見えるが。
6 疫学を理解できない組織
津田敏秀は、原因と結果が玉突きか歯車のように一対一対応で見えると信じているが、一対一の因果関係で説明できる場合はほとんど現実にはあり得ない。メカニズムの追求はうまくいけば具体的に絞られた力を発揮し大きな成果を挙げるが、実際の事件においてはとても追求している時間がない。なすべき原因調査をおろそかにすれば被害を拡げる危険性がある(津田『医学的根拠とは何か』岩波新書:2013.11.20)と述べているが、今回の場合にはまさにPCR検査の数こそ重要である。日本の専門医で消化器病関係は21,608人、呼吸器は6,657人であるが、感染症は1,564人・うち現場経験がある専門医は500人しかいない。主導権は圧倒的に他の専門医に握られており、疫学が全く理解できない研究者が多く、他方、少数派の疫学の専門家といわれる集団が感染研などの怪しげな研究組織に立てこもっている原因ともなっている。水俣病や大阪府堺市のO157事件のように「疫学調査をしない」というのが日本の“伝統”と化している。WHOの3月2日の声明は、韓国・イタリア・イラン・日本の4か国を感染拡大の「最大の懸念国」として指定したが、名指しの意味はきわめて重い。(3月7日一部修正)