【翻訳】コロナウイルス理解のために、伝染の三角形(関係)を注視する。

The New York Times International. Edition on February 4, 2020
“To understand the corona virus, look to the epidemic triangle”
By Dan Werb *

「コロナウイルス理解のために、伝染の三角形(関係)を注視する。」

少なくとも 174の謎めいた武漢のコロナウイルスの症例が、中国以外の国で確認されている。そして、潜在的な世界的流行への関心を引き起こしている。我々は、以下の経緯を見てきている。即ち、保健衛生当局が古い資料でもって、伝染への準備と、不必要な恐れの間で右往左往してきたことを。
この新しい outbreak は、次のAIDSの流行なのか、774人の死者を出したSARSの新しい型と同等の伝染病として推移するのであろうか? 単刀直入に、我々は「伝染の三角形/三角関係」(”epidemic triangle”)と呼ぶべき簡単な概念を使うことができる。病疫学の早期より学者達によって行われて来ているように、ある地方で発生した outbreak が、爆発的に伝染してゆくかどうかを予測することが、まずもって不可欠なのである。
“epidemic triangle” は基本的には、相関関係である。それはいかなる outbreak - その特性いかんにかかわらず – であっても、3つの要素の相互作用に懸かっていると断定できる。即ち、「病原体(菌)」”pathogen” (感染を引き起こす主体)、「宿主」”host” (感染の恐れのある生物)そして「環境」”environment” (感染が起きる背景、setting)。それがインフルエンザやコレラであろうと、飲酒運転のような行動の伝染であろうと、いかなる伝染病であっても、”epidemic triangle”のこれら要素の一つへの動的移動の結果である。そして、続いてドミノ現象のごとく新しい事態の突然の爆発を引き起こす。
この現象の古典的事例において、我々はインフルエンザの世界的規模での流行(”pandemic”)という環境変遷を経験している。16世紀中頃、中国の水田において、収穫を台無しにする昆虫を捕食駆除するために、アヒルやカモ(”ducks”)を放つ農法が導入された。このことは、ducksがもう一つの中国の農場での普通の生き物である豚と共に生きることを意味した。その特異な生態は、ducksをして多くのウイルスの寛大なる貯蔵庫にしている。他方、豚は異なったウイルスを、効率よく混ぜ合わせて新しい菌種(株)に育て、そしてそれらを人間に移す。この二種類の動物を近接して飼育することは、ほどなくして新しいウイルスの菌種への結合、移行へと導いた。新しいきわめて伝染力ある病原菌 – pig-duck インフルエンザ交配菌 – は、このようにして種目の垣根をこえて生成され、それ以来、人類を苦しめてきた。
その菌種の仲間に武漢の菌種も含まれるコロナウイルス(その形が「輝く冠」に似ているので、そう呼ばれている)は、抑え込むに大いに医師たちの手を煩わせている。コロナウイルスは普通の風邪や気管支炎の原因菌である。しかしコロナウイルスの仲間は、広がりを見せて、命に係わる恐ろしい菌種をも含んでいる。即ち、SARS (severe acute respiratory Syndrome) や MERS (middle-east respiratory syndrome) である。そしてこれらの死亡率は、それぞれ 15 %, 35 % である。大きい疑問は、この武漢のウイルスは普通の風邪に近いのか或いはSARS に近いのかである。その致死率は、月曜日(Feb. 3) の時点では知られていない。世界で17,000 の病例と少なくとも360人の死者が中国で出ていて、1人の死者がPhilippines で確認されている。Jan. 23 に世界保健機構(W.H.O.)は、世界的な健康への緊急性を宣言するか否かの特別委員会を招集した。2日間の協議の後、最終的に宣言しないことに決めた。もっとも WHO 議長の Mr. Tedros A. Ghebreyesus は、その前兆には気付いていたが「今はまだその時期ではない」とした。しかし、その時は来た。Jan. 30 WHOは再び会議をもって、Outbreak が世界的緊急性の明示に正当性を与える敷居を跨いで入ってきたことを確認した。委員会は、乏しい資料にてではあるが注目すべき公示という選択を掴み取った。即ち、世界的健康の緊急事態は各々の国連のメンバー国が行動を起こすことを要求する法的拘束力ある公示である、と。
私は、epidemic triangle が、WHOがこの公示に導くに至るに重要な手段であったことを疑わない。武漢から発し広まっていて人々を恐れさせている outbreak は、古い病原菌の遺伝子変化における実質的変異の故なのか、この地域に住む住民の病気に対する抵抗力の弱体的変化なのか、または環境の変化なのか? 武漢 outbreak は広がり続けているので、社会がヒステリックな状況に落ち込んで行くのを避けるべく、”epidemic triangle” の計算法 (calculus”) を適応するのが、人々の健康状態を効率的に表示するに最も頼れる方法であろう。
第一に、この新しい病原菌は、その伝染力と毒性において、前回の菌種からいかに多く変遷しているか、我々は知る必要がある。最初の菌群が Dec. 31 に報告されて以来の急激なる出現より判断して、武漢の菌種は、高い伝染力を有しうるであろう。全体的にみて SARSは、相対的に低い再生産率 (reproductive ratio “RO”) である 0.5 である。これは二件の病例が、ただ一つの追加病例を生むことを意味している。WHO も有している早い段階での計算では、武漢菌種の RO は、1.4 ~ 2.5 であり、最初の感染者より二次感染者として二例を生むことになる。この RO は、季節的に発生するインフルエンザよりは少し高目である。(参考までに、「麻疹(はしか)」のROは 12~ 18 である。)
さらに多くの病例が利用可能となって、もしこの新しいcoronavirusのROが低くとどまっていれば、監視と検疫によって我々は、その拡散を止めることに相対的に、自信を持ち得るであろう。もっともROが高くなれば、これらの手段は、着実に効力が劣化する。 その毒性については、武漢ウイルスの早期の染色体の連続性は、有り難くも、SARSとの関係性はかなり遠い、(これら染色体は、73% が同じであるに過ぎない。)このことは、SARSより死亡率は小さいことを意味している。(もっとも、確信をもって言えるには、未だ早すぎるが。)
第二に、このoutbreakは、その宿主(人間)の病原菌への弱さ、冒されやすさにおける変遷によって、いかに説明出来うるものか我々は問わねばならない。ここで科学が求めていることとは、その病状である。即ち、死亡した人々は老人か、免疫力が弱まっている人たちであることは、我々が他の普通のcoronavirus の感染と矛盾しない死亡率である。
このことは、epidemic triangle の最後の要素である”environment” に託されている。そしてそこにおいて事態が複雑化したのである。中国経済が成長拡大しているので、飛行機で移動する中国市民の数が天文学的に増大しているし、多くの国民が旧正月を祝うために大挙して都会より地方へと移動した。これは世界最大の人の移動である。3億人ものおおくの人々が中国国内で2週間を超えて車や列車、飛行機で旅行を計画した。この移動の間、検疫は意欲的には行い難たかった。もっとも中国は、多くの他の国々よりも、きびしい公衆衛生の手段や方法を有しているが。そして中国は、最終的には、5千万人以上の市民の移動を封鎖(“lockdown”)することで解決策を示した。
その状況が移り変わっているところは、世界中で中国と繋がりがあるところである。2005年、最初のSARS outbreakの2年後、たった233の国際航空ルートがあっただけであったが、2016年までに3倍以上の739になっていた。このことは、さらに多くのルートが、中国からのウイルスの持ち出しとなっていたことを意味している。同じ期間に中国に出入りする国際線旅客は、約3百万人より5,100万人へと爆発的に増加していた。簡単に言えば、中国の肥大する立ち位置は、武漢coronavirusが増殖できる環境を大いに広げてきた。(そして、この故に多くの航空会社が、中国へのフライトを取りやめている。)このことは、epidemic triangle の三要素間で、現行のoutbreak の広がりを予測するのを一層複雑なものにしている。
我々は、新しい伝染病の脅威に直面しているが、その病源はさて置き、一つの定理に頼ることができる。即ち、各々は最後には、epidemic triangle の三要素によってはっきり説明されるであろう、と。武漢coronavirusの場合、我々を最も困惑させているものは、それを介して病原菌(体)”pathogen”が、宿主”host”に伝染する環境”environment”の急速なる拡散拡大である。そして、このことは世界の一つの強国(”a global superpower”)としての中国の出現をはっきりと位置付けている。このような変化の規模では、武漢coronavirus は、SARSのような「怖さ」より菌が変異して、伝染病の歴史の一つの輝点として、次のスペイン風邪 (“the next Spanish flu.”)になり得るか、の現況である。

* Dan Werb : an assistant professor in the division of infectious diseases
and global public health at the University of California, San Diego
and the director of the Center on Drug Policy Evaluation.

[ 邦訳: 芋森 ]

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