【投稿】PCR検査を絞って新型コロナが封じ込められると「妄想」する日本
-WTOの指示は「テスト、テスト、テスト」-
福井 杉本達也
1 保険適用後も増えないPCR検査
3月12日のPCR検査は1,494件と保険適用後もあまり増えていない。安倍首相は3月14日の記者会見で6,000件/日の体制を整えたとしているが、どこかで大きなブレーキがかかっている。元大阪府知事の橋下徹氏は、3月15日放送のフジテレビ系「日曜報道THE PRIME」で、検査数に関しては検査をどんどん広げますっていうメッセージは間違っていると思うんです。検査数については絶対、絞っていくんだと。死者数を落とすために検査は拡大しないんだということをバチーンっと言わないと」と、生出演中の西村康稔・新型コロナ対策担当大臣に提言した(スポーツ報知:2020.3.15)。そもそも、記者会見で政府の対策を正式発表をすべき加藤厚労相を始め、政府の担当大臣が特定の民放に生出演し、対策の不備を見苦しく言い訳するという事態こそ異常である。政府の闇雲の焦りが見える。
厚労省が「新型コロナウイルス感染症にかかっているのではないかと心配される方が、PCR検査を受けるためには、医師の診察が重要です。『ドライブスルー方式』では、医師の診察を伴わないことが多いため、我が国では、実施しておりません。」(厚生労働省Twitter2020.3.15)というツイートを出した。もちろん韓国も医師が立ち会っており、政府による明らかなフェイク投稿であるが、よっぽど、韓国や米国の「ドライブスルー方式」が気になるものと思える。
結果、3月14日の「越谷のコロナ感染がわかった家族、祖母が肺炎発症する前に高校生が38度の発熱、母親は39度の発熱が4日以上下がらず、病院から保健所に問い合わせたのに検査されずに祖母に感染、肺炎症状でようやく検査。 検査の壁は厚いまま。 検査しなかったから重症者を出した。」という事例のようになる。
WHOは「対策の基本は、感染症例を即座に検出するための積極的な サーベランス、迅速な診断と隔離、濃厚な接触者の追跡と隔 離、これらの対策の重要性を集団(一般の人々)が高いレベ ルで理解し受け入れることである。」としている。WHOのテドロス事務局長は、「テスト、テスト、テスト」(test, test, test’ to combat the #coronavirus pandemic)とPCR検査の重要性を強調した。
米国は国民皆保険ではないため、風邪などでも数万円もの医療費がかかるため積極的に病院に行かない。今期もインフルエンザの流行によって数万人が死亡していたが、このインフル患者の中に新型コロナウイルスの感染者が含まれていたのではないかと疑われている。この1週間・本格的に「ドライブスルー」などの検査を含め検査を強化しだしたところ、感染者が16日現在で3,000人を超え感染が拡大しており、トランプ大統領は13日の記者会見で、スイスの製薬会社「ロシュ」の新型コロナウイルスの検査キットを緊急に認可し、国内の検査機関で使えるようにしたと述べた。既存の検査用の機械を使って24時間でおよそ4,000の検体を検査できる。さらに14日には国家非常事態を宣言し、16日には韓国式の検査方法に適合・適用してやっていくと公表した。スポーツや大規模イベントの8週間の中止、付け加えて10人以上の集会や旅行、外食なども制限するとツイートした。しかし、日本のような闇雲な学校閉鎖はしないとした。米ジョンズ・ホプキンス大のジェニファー・ナゾ上席研究員は日本の検査人数は少ないとして、「適切な検査ができなければ、対処能力が著しく制限される」とし、渡航制限や休校といった対策をどの程度実施するかは「ウイルスがどの程度、どこにあるかが分かるかどうかによる」と日本の対応を批判した(朝日:2020.3.14)。イギリスのジョンソン首相も当初の楽観論を転換して、一気に新型コロナウイルス対策を打ち出した。日本だけが世界から完全に孤立しつつある。どうするつもりか。
2 感染症病床数に合わせている検査数
大阪府の第2種感染症病床数は72床しかない。3月16日現在の同府内の入院患者数は90名、兵庫県は46床(同入院患者数75名)、京都府は36床(14名)、愛知県は78床(97名+クルーズ船受入者7人+検疫者1人=105人)、神奈川県は74床(48名)、埼玉県では66床(26名)しかない。千葉県は55床(29名)、東京都にいたってはわずか106床(66名)しかない。北海道は90床(82名)、和歌山県は30床(4名)、このうち現在も退院していないクルーズ船の感染者は207床であるから当然ながら、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の感染症病床のかなりの部分がクルーズ船の感染者で埋まっていると考えられる。このうち15名が人工呼吸器または集中治療室に入っている重篤患者である。クルーズ船の隔離失敗が感染症病床にボディブローのように効いている。
大阪府の14日現在の検査数は累計で1,426人・陽性者数累計は107人で陽性率7.5%、東京都は検査数922人で陽性96人で同10.4%、兵庫県は検査581人・陽性62人で10.7%、愛知県は検査1,103人・陽性121人で11.0%、北海道は1,322人・陽性148人で11.2%、一方、徹底的に有田病院などの検査を行った和歌山県は1,008人・陽性15人で1.5%となっている。こうしたことを考えると、厚労省は感染床病床の数からPCR検査を絞っているとの推測が成り立つ。大阪府も兵庫県も神奈川県も「クラスター」という集団感染場所の濃厚接触者に焦点を絞った検査であり、サンプルに極端なバイアスがかかっている。国の検査方針には従わないと反旗を翻した和歌山県の陽性率が仮に現在の平均陽性率とするならば、大阪府は現在の5倍の500人の陽性者が検出されてもよい。とするならばチャーター機便を除く国内陽性者数794人(3月16日現在)×5倍=4,000人以上+東京圏の歪な検査状況を考慮するならば1万~2万人の陽性者がいてもおかしくない。これに今後、東京都や大阪府はイタリアやフランスなど欧州や米国からの帰国者の検疫者が加わる。
安倍首相は会見で「すでに12,000床の空き病床と3,000台の人工呼吸器を確保した」と豪語したが、どこにあるの?和歌山県の人口は約100万人で感染症病床数は30床ある。大阪府の約900万人では300床は欲しい。これまで橋下徹らが削りに削ってきたツケが回っている。
3 日本医師会のインフルエンザ検査禁止通知
厚労省は3月11日に都道府県などに対して「新型コロナウイルス感染症が疑われる者の診療に関する留意点」と題する文書をだし、これを受けて日本医師会も会員に対して対応策の通知を出した。日本医師会の通知ではインフルエンザやRSウイルス感染症、溶連菌感染症を疑った場合などでは迅速診断を行わずに臨床診断で治療薬を処方することを検討すべきとした。記者会見で常任理事の釜萢敏氏は、「北海道で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染している患者を診察した後に、医師がSARS-CoV-2に感染していることが確認されたことを理由にあげた。ようするに開業医にインフルエンザ検査をするな、たとえ肺炎(当然ながら新型コロナウイルスも疑う)の患者が来ても見捨てろという通知を出したのである。 既に開業医の段階では厳戒態勢で、サージカルマスク・使い捨てエプロン・ゴーグル・手袋で防護し、受け付けでは飛沫防止用にビニールが張られている。診察券や処方箋はビニールの下から患者と受け渡しをし、薬は通常1か月のところを3か月も渡され、3か月間は診療所に近づくなとの御達しである。37.5度以上の熱や咳き込む患者はいったいどこへ行けばいいのか。医療難民が形成されつつある。
4 「医療崩壊」がPCR検査を拒否する新しいキーワードに
上念司は「PCR検査しまくった国はどうなった? イタリアは医療崩壊…韓国も医療崩壊。」と検査をすると患者が押し寄せて「医療崩壊」するとのウソをばら撒いている。徹底した検査をやっている韓国は患者が減少しつつある。改めて日本の暗黒社会ぶりを思いしらされる。「科学」とは本来、観測と実験に基づく実証の科学であるはずだが、日本では原発事故以降、科学知と向き合うのを放棄してしまった。「アジアは他の地域の教訓になるか?」というbloombergの記事。 話題のグラフにはもはや日本が削除されている。理由は日本は「検査数が不十分で隠れた感染者が検疫されず残っており感染拡大の可能性あり」というもの。 香港シンガポールはSARS以来の取組みが高く評価されている。「検査し経路追跡し隔離し情報を出すことが感染制御のカギであること ・(大量の検査で構築した)ビッグデータと技術が各国が経過観察する助けになること。」(bloomberg:2020.3.13 Asia has some lessons the rest of the world could learn from as they try to battle the coronavirus https://trib.al/kAA0sNL)。そもそも検査を行わなければ陽性反応が出る訳はない。「実際の感染者数」と「確認された感染者数」の違いを理解出来ない人間だけが、日本政府の対応を賞賛出来る。
厚労省は3月6日付けで「新型コロナウイルスの患者数が大幅に増えたときに備えた 医療提供体制等の検討について」という文書を各都道府県に通知した。その数値では、大阪では1日の入院者が15,150人、うち重症者が510人というものである。65歳以上の高齢者の0.56人/100が入院するという計算式である。これでは1日で「医療崩壊」である。自らは検査数を抑え、机上の空論で数合わせの病床の確保という無理難題を都道府県に押し付け、いたずらに社会不安を煽ろうとしている。そもそも首相会見時の12,000の空病床とはどのような根拠ででてきたのであろうか。医師や看護師、検査技師などの医療スタッフはどうするのか。儲からず費用のかかる感染床病床を受け持つのはほとんどは自治体病院である(一部赤十字など民間病院)。全てを自治体に丸投げしているのが現在の厚労省の姿である。
5 涙なしでは読めない相模原中央病院の新型コロナウイルス症例報告
相模原中央病院のコロナウィルス肺炎症例報告。報告者は感染症や呼吸器科でもない門外漢の脳神経外科のドクターである。序文が涙なしには読めない。
「当院は、新型コロナ肺炎によって命を奪われた日本で最初の患者さんが、発病…入院していた病院として実名で報道された…報道発表の直後には、先の患者さんの入院中の対応に当たった看護師が新型コロナ肺炎を発症し、さらには当該病棟の 入院患者 3 人に院内発症し、感染伝播…当時は市中で新型コロナ肺炎が発症し始めた頃で…治療方法さえも不明であった事から人々から恐れられ、…当院職員であることだけで世間からは接触を拒まれたり、さらには他病院からは非常勤医師の派遣も断られた。…当該病棟の新規受け入れ中止のみならず、発症者のいない他の二病棟も閉鎖、さらに外来の全面停止。…重症化した2症例は、感染症専門病院へ再三の患者転院を依頼したのにもかかわらず、どの大規模専門病院ですら『現時点での対応が困難』、との理由で転院できない…こうして当院では非常勤呼吸器内科医師のアドバイス以外は、非専門医で治療することを余儀なくされた」と記す。「さいわい、発症から 3 週間を経過した現時点で既に人工呼吸器から離脱し、現時点では重症肺炎を救命することができたと考えている」と報告書は結ばれている。
これこそが厚労省の指導実態である。相模原中央病院のすぐ近くには1,000床の病床を有する大規模病院の北里大学病院もある。北里大学の設置法人である北里研究所は、1892年に設立された、私立伝染病研究所(現:東京大学医科学研究所)を起源とし、1914年に、北里柴三郎により設立されている。我が国の伝染病研究のパイオニアであり、旧日本軍とも関係があった。また、400床を超し、感染症6病床を保有するJA 相模原協同病院もある。厚労省はそうした感染症の先進的病院に仲介・指導することなく相模原中央病院を見捨てたのである。
6 「キャッシュの蒸発」と弱者の合法的切り捨て
FRBの緊急のゼロ金利と量的緩和政策の再開にもかかわらず、週明け16日の米NY 株式市場は、ダウが前週末比約3000ドル安で終え、史上最大の急落となった。人・モノの移動が急に制限されたことで、サプライチェーンが寸断され、日本経済においては、自動車産業など主要産業で部品が入らず工場の休止も多々でている。また、インバウンドがなくなったことで800億円の損失という。旅館の予約が45%減、貸切バスキャンセルが11,000件など、中小の旅館やバス会社などでは既に倒産も出ている。JR 東海も旅客が56%減少している。「感染クラスター」と名指しされ、スポーツジムや外食・レストランなどの営業の休止が相次いでいる。小売りやサービス産業への打撃が大きい。「消費の蒸発」である。キャッシュ=日銭は全く入ってこないが、賃金や光熱水費・家賃は支払わなければならない。中小企業では1、2か月で倒産である。緊急融資では間に合わない。特に観光業や飲食業は非正規労働者が多く、即、雇止めとなる。橋本健二は『<格差>と<階級>の戦後史』(河出親書)の中で、日本社会においては2010年代に「アンダークラスの時代が出現した」とし、59歳以下のアンダークラスの職種には販売店員、料理人、給仕、清掃員、スーパーレジ、倉庫夫、介護・ヘルパー、食料品製造、電気機械器具組立などの職種が多いと分析する。今回の政府の自粛要請はこうした層の生活を直撃している。外国人労働者はどうなるのであろうか。突然の思い付きの学校閉鎖によって学校給食も中止になったが、自治体の学校調理員のほとんどは非正規職員であり、日雇い賃金である。給食がなくなれば全く収入はない。賃金が突然蒸発してしまったのである。名古屋市の福祉施設の死者が異常に多いのが気掛かりであり、兵庫県の老人施設の集団感染もある。今後、介護職場など高齢者に蔓延する恐れが強い。至急検査を行い、弱点のある地域に限りのある医療資源を的確に配置しなければ弱者は強制的にトリアージされてしまう。感染症法で合法的に弱者を切り捨てられる。日本はそんな国になっている。「コロナショック・ドクトリン」が計画されているのかもしれない。