【投稿】GDP2期連続マイナスと自自公政権
<「大丈夫とおっしゃたんで」>
経済企画庁が3/13に発表した昨年10-12月期のGDP(国内総生産)が年率5.5%という大幅なマイナスとなった。予想されていたこととはいえ、四半期としては第一次オイルショック、消費税アップ直後につぐ過去三番目の大幅な落ち込みである。しかも7-9月期に続いて二期連続の減少である。明らかな景気後退である。このままでは、小渕内閣の公約である「0.6%プラス成長」は絶望的でさえある。何らかの統計的な小細工を行うか、実態を無視した根拠のない楽観論を振りまく以外にしかないとも言えよう。
ここで小渕内閣はまったく無責任な楽観論を並べ立てること以外に積極的な政策を持ち合わせていないかのようである。GDP発表の記者会見で堺屋経企庁長官は「プラス成長は確実だ。(0.6%成長も)達成可能だと思う」と発言し、小渕首相は「(落ち込みは)一時的な要因による」、宮沢蔵相は「1-3月は良くなる」などと、GDP大幅マイナスのショックを和らげるのに必死である。口から出任せの無責任な発言である。
その唯一の根拠は、民間設備投資がプラスに転じたことにある。「設備投資が4.6%のプラスになった。大丈夫だ。日本経済は回復軌道に入った」(宮沢蔵相)、「設備投資が先導的に景気を引っ張ってくれるかもしれない。自律回復軌道に乗る動きは広まっている」(堺屋長官)といった具合である。小渕首相に至っては、「信頼すべき宮沢蔵相が大丈夫とおっしゃったんで信頼しております。わが国経済は政府見通しで描かれた景気回復軌道をたどっています」などと、まるで他人事、責任逃れ丸出しの発言である。
実質国内総生産・GDPの推移 (単位10億円)
1-3月期 4-6月期 7-9月期 10-12月期
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実質国内総生産 482,863.1 487,498.1 482,618.5 475,828.5
前期比成長率 1.5 1.0 ▲1.0 ▲1.4
年率換算 6.3 3.9 ▲3.9 ▲5.5
民間最終消費支出 284,691.4 287,902.2 287,213.0 282,570.5
前期比 0.9 1.1 ▲0.2 ▲1.6
民間住宅 17,559.8 19,821.7 19,192.9 18,077.5
前期比 1.4 12.9 ▲3.2 ▲5.8
民間企業設備 79,829.1 78,158.2 76,919.3 80,469.1
前期比 2.3 ▲2.1 ▲1.6 4.6
民間在庫品増加 182.2 638.0 73.2 439.4
前期比 - 250.2 ▲88.5 500.3
政府最終消費支出 46,558.6 46,942.0 46,339.3 46,275.8
前期比 0.8 ▲1.3 0.9 ▲0.1
公的固定資本形成 43,307.0 44,524.3 40,751.7 38,561.2
前期比 6.2 2.8 ▲8.5 ▲5.4
公的在庫品増加 -47.2 166.1 62.4 -442.7
前期比 - - ▲62.4 ▲809.5
財貨サービス純輸出 10,782.2 10,345.6 12,066.7 9,877,7
前期比 ▲10.2 ▲4.0 16.6 ▲18.1
財貨サービスの輸出 64,367.3 65,308.7 68,577.1 68,851.1
前期比 0.0 1.5 5.0 0.4
財貨サービスの輸入 53,585.1 54,963.1 56,510.4 58,973.4
前期比 2.4 2.6 2.8 4.4
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<設備投資増の逆効果>
この設備投資がプラスに転じたといっても、GDPの推移統計からも明らかなように、その規模はこの一年の実績と比べてもわずかなものである。民間最終消費支出を筆頭に、GDPを構成する他の重要な項目が軒並みマイナスとなっているなかでは、明らかな力不足である。しかも直前に発表された大蔵省の法人企業統計では、同じ昨年10-12月期の設備投資が前年同期比0.7%減となっている。もちろん、その中では情報関連を中心とする電機機械製造業で12.9%増となってきていることは注目に値するが、製造業全体の設備投資は8.2%減である。
それにもかかわらず、公約通り0.6%成長を達成しようとすれば、この1-3月期に前期比2.0%増、年率換算8.2%増というそれこそ急激なプラス成長が達成されなければならない。しかしそのためには、GDPの6割以上を占める個人消費こそが決定的な役割を果たすことは言うまでもない。今回、設備投資がプラスに転じたにもかかわらず、GDPが大幅なマイナスとなったのは、この個人消費が年率6.3%ものマイナスとなったことからきているのである。設備投資がGDPに占める割合は約15%である。
しかもここで見落とせないのは、情報関連を中心とする設備投資の増大、IT(情報技術)投資は、大幅な人員削減と一体となっていることである。「IT革命は、雇用や土地需要にはマイナスで、個人消費や不良資産処理の足かせになる側面もある」(3/9日経夕刊、三和総研)という指摘の通り、実際、この3/14に発表された三和・東海・あさひの三銀行統合で明らかにされたことは、ITに三行合計で1100億円投資するが、同時に「効率化によるコスト削減」のために、4500人の人員削減計画をこれまでのリストラにさらに上乗せしていることに象徴的である。
<のしかかる背後霊>
問題は個人消費の拡大の展望がまったく見出せない、そのような政策が欠落していること、いやむしろ逆行しているところにこそあるといえよう。
GDP統計・個人消費支出の一次資料となっている総務庁家計調査の消費支出では(3/6発表)、2000年に入っても今年一月の全世帯平均の実質消費支出が前年同月比マイナス3.2%となり、5ヶ月連続の前年割れとなっている。堺屋長官などは「一時的な要因が多い」として、コンピュータ2000年問題による買い控えや前年度決算によるボーナス支給などを上げているが、単なるすり替え、ごまかしにしか過ぎないことは言うまでもない。
消費支出の減少は、要するに「収入の落ち込み」からきているのである。この総務庁の家計調査によっても、実収入は世帯主の定期収入の減少などにより実質5.2%減、7ヶ月連続前年比マイナスである。これに追い打ちをかけているのが、政府のリストラ促進政策、要するに人員削減・雇用環境悪化政策である。今年1月の完全失業者数は前月比21万人増の309万人で、3ヶ月ぶりに300万人台に逆戻りである。リストラ等会社都合による失業者数は前年同月比1万人増の101万人で、5ヶ月ぶりの100万人台乗せである。さらに正規社員数は24ヶ月連続の減少である。
さらに社会保障費削減・自己負担拡大や、年金、増税等にかかわる将来不安、そして雇用不安の一層の拡大が、個人消費を冷え込ませている。小渕内閣はこれらの点に関しては、不安を取り払うどころか、まるで背後霊のように重くのしかかってきたのである。
<「野天の真剣さがない」>
以上のようなことは庶民の誰しもが感じていることである。ところがこれが政府レベルに行くと、まるで別世界の無関係、無責任さとなる。この間の警察不祥事、越智大臣の“手心発言”でも明らかなように、当初はまったく鈍感そのもので、「辞任するほどのことではない」、「俗っぽく言えば、運が悪かったということかもしれない」といった感覚しか持ち合わせていない。事の重大さを認識できない、自自公巨大与党政権のおごりと官僚とのなれあいによる密室・利権・闇取引政権の面目躍如たるものである。
与党連合の誰しもが無責任なのである。本来は深刻ですぐさま打開策に即刻取り組まなければならないはずの、マイナスGDPが発表された3/13日夜、小渕首相は自自公3党首会談を開いたのであるが、終了後、記者団に「今度3人で宝塚とディズニーランドに行くことにした」と語ったという。あきれたものである。つまるところ「野天の真剣さがない」(朝日3/18社説)のである。支持率がこのところ急激に減少してきているのも当然であろう。一刻も早い解散・総選挙によって、こんな政権には退陣してもらわなければ、政治・経済の傷は深くなるばかりである。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.268 2000年3月25日