【投稿】緊急経済対策と地方自治体(第2回)

【投稿】緊急経済対策と地方自治体(第2回)
      –「地域振興券」「地域戦略プラン」のドタバタ劇– 

前回は、政府の「緊急経済対策」の中でも、とりわけ地方自治体との関わりが深い「地域振興券」について、そのドタバタ劇、現場の混乱ぶりをレポートしたところである。今回は、「地域振興券」と同様に地方自治体を巻き込み、その現場を混乱させているにもかかわらず、マスコミの関心が薄いため、世間一般にはあまり知られていない「地域戦略プラン」についてレポートする。

ドタバタその2「地域戦略プラン」
<「地域戦略プラン」って?>
「地域戦略プラン」とは何か。これは、小渕首相が平成10年9月に提唱した「生活空間倍増戦略プラン」(質の高い居住スペース、ビジネススペース、レクレーションスペースなどを拡大し、5年間を視野において「明日への投資」を積極的に推進するとして各種の規制緩和策・予算の重点配分などを行ったもの)の一環として打ち出されたもので、「都市と地方の各地域自らがテーマを選んで、複数の市町村等の広域的な連携のもとに、活力とゆとり・うるおいのある生活空間を創造するための総合的なプランを主体的に策定する」としているものである。
「生活空間倍増戦略プラン」そのものは、小渕首相のウリであったにもかかわらず、住宅金融公庫の融資基準・額の増額をはじめ、既存の施策の上乗せや緩和レベルにとどまったものが多く、その内容の新味の無さゆえに、すっかり色あせてしまい、世間やマスコミの注目は後の「経済戦略会議」に移ってしまった。ただ、その一環であるこの「地域戦略プラン」については、地方分権が具体化している状況にある一方で、国・都道府県・市町村の旧来からの関係を如実に反映し、地方自治体の現場に多大な混乱と疲弊をもたらしているものとして、見過ごすことのできない多くの問題をはらんでいるのである。
<メリットは?>
「地域戦略プラン」の策定主体は「複数の市町村」であり、あくまで自主的・主体的にテーマ設定を行って策定するものとされている。その柱は国庫補助事業であり、そのプランが、国土庁を窓口とした関係22省庁からなる「地域戦略プラン推進連絡会議」の認定を受けると、各省庁所管の国庫補助事業の重点的な支援を受けることができるとされている。政府は、全国で400カ所、1地域あたり100億円の事業費(補助金額ではない)で5年間で4兆円程度のプランになると想定していた。
ここで問題となるのは、策定主体が「複数の市町村」であるということである。複数の市町村が広域的に連携して一つの事業を行うということは、それぞれに首長がおり、独立した自治体である以上、その実現には多大な時間・労力がかかるものである。平成6年に制度化された「広域連合」制度があまり活用されていないことを例にとっても、その難しさが分かるというものである。プランの策定期限が3月であるという短期間の中で、そのような広域的に連携したプランを策定せよということは、そもそも無理な話なのである。特に、新たな国庫補助メニューができたわけでもなく、既存の国庫補助事業で重点的に支援するという、市町村にとってメリットが見えにくい状況の中にあっては、そこまで手間暇をかけてまで策定しようという意欲が湧くわけはなく、「地域戦略プラン」が打ち出された当初は、様子見で慎重な市町村が多かったようである。
<予算に群がる省庁・政治家>
一方、平成11年度の政府予算において、この「地域戦略プラン」を推進するための経費として、国土庁は2,000億円の枠を確保しており、認定されたプランの国庫補助事業に対して、各省庁に所管替えして予算執行をするということになった。このため、予算編成過程で小渕カラーを出すために従来のシェア縮小を余儀なくされた各省庁は、我が省庁のシェアを再び確保するべく、この国土庁の2,000億円にハイエナのように群がってきたのである。
結果何が起こったか。国の各省庁は、プランに盛り込むことができる事業の一つに「関連する国や都道府県等の事業」という条項があることをテコに、我が省庁の所管する国や都道府県の事業を基本としたプランを市町村に策定させ、プラン認定を受けることにより、事業予算を獲得しようとしたのである。その手法は様々で、地方出先機関を通じて各都道府県の事業部局に限りなく「命令」近い「事務連絡」を行い、それに呼応した都道府県の事業部局が国から指示のあった事業について市町村にプラン策定を促す、という方法が主にとられたようである。
都道府県にとっては、近年の財政状況の悪化により、少しでも国の補助があることは事業推進にとってありがたい話であり、市町村に対して、ときには「脅し」に近いかたちでプラン策定を迫ったのである。「おたくが要望していた国道延伸の予算を確保するためにはプランを策定せよ」「プランを策定しないと農道設置の予算は保証できない」など・・・。
さらには、自らの選挙区に公共事業予算を引っ張ってきたい政治家の蠢きも随所に表れ、選挙区によっては自-自間の保守系代議士同士の争いの様相を呈するなど、混乱に拍車をかけることになったのである。
市町村にとっては迷惑な話である。確かに市町村が要望していた国や都道府県の事業であるが、未だ事業認可や補助採択の権限を有している国や都道府県あるいは保守系国会議員の意向に逆らうことはできず、短期間でのプラン策定作業を強いられることとなった。しかも、建設省や農水省など国のあらゆる省庁から、それぞれ話が持ち込まれるものであるから、整合性も総合性もあったものではない総花的な「事業てんこ盛り」のプランが、市町村の「自主的・主体的な策定」の名のもとに、できあがってしまったのである。
<欲張った市町村?>
結果、全国で476カ所、総額で当初想定の15倍近くの59兆円となってしまい、あわてた国土庁はその削減にやっきとなり、各都道府県ごとの上限を決めるなどして、プランの見直しを市町村に迫ることとなってしまったのである。日経(2/22)によると、国土庁のコメントとして「市町村が欲張りすぎて、あれもこれもと詰め込みすぎた」としているが、実態はむしろその逆であり、「各省庁が欲張りすぎて、市町村にあれもこれもと詰め込ませた」のである。また、各都道府県ごとの上限も、人口や行政投資実績に基づいて設定されることとなったため、都市部がかなり優遇されることとなった。
市町村にとっては、はたまた迷惑な話であり、せっかく策定したプランの見直し作業を強いられ、都道府県の事業部局の顔色を伺いながら、事業費の削減作業を行ったのである。都道府県内部の混乱も極まっており、各省庁の意向を受けた各事業部局間では、国における予算分捕り合戦さながらの折衝、調整が行われていたようである。
<「分権」の最中に>
いずれにせよ、地方自治体にしてみれば、国の「思いつき」施策によって、ただでさえ忙しい年度末・年度当初を国の予算分捕り合戦に巻き込まれ、忙殺されることとなったのである。
地方分権の議論の中で指摘されていた、旧来からの国庫補助金による地方自治体のコントロールという問題が、地方分権一括法案の作業中という、まさしく地方分権具体化の第一歩の最中に浮かび上がってきたというのは、何とも皮肉なことである。

前回レポートした「地域振興券」と合わせ、国に振り回された地方自治体であるが、裏を返せば、地方分権の現段階での実態はまだまだこの程度なのである。甚だ一般的・抽象的で恐縮であるが、これからの不断の自己努力と自己改革により、地方分権の実現を成し遂げ、このような安易な施策を許すことのない「力」を蓄えていかなければならないことを痛感するのである。(大阪 江川 明)

【出典】 アサート No.258 1999年5月22日

カテゴリー: 分権, 経済 パーマリンク