【投稿】 住専問題と母体行責任
<<「金融秩序」破壊者の公的救済>>
このところのトップニュースは常に「住専」関連が占めている。なにしろ、住専の一次損失処理に国民一人当たり5500円、さらに二次損失処理にも最低5000円以上の財政負担をして、一人当たり1万円以上の税金を投入する、しかもそれが今後どこまで膨らむか分からないというのであるから、庶民の怒りが沸騰するのは当然である。
そして次々に報道される内容は、住専のあまりにもずさんな経営実態、大手都銀・母体行の無責任体質、農協系金融機関の審査能力ゼロに等しき野放図な融資、大蔵省、農水省、政府高級官僚、与野党政治家が一体となったこれら金融機関との秘密取引、天下り、自らの失政の国民へのツケ回し政策が具体的に暴露されてきている。
阪神大震災の被災者には私有財産面での救済はできない、と公的資金の導入を拒否しながら、民間営利団体である住専や金融機関、それにつらなる借金踏み倒し企業、悪徳業者、暴力団までも、結果的には「金融秩序の維持」の名の下に、「金融秩序」をぶち壊し続けてきた張本人達を公的資金で救済するというこの巨大な落差、そこに横たわる許しがたい不公平、不公正が誰の眼にも歴然としてきたといえよう。
<<母体行紹介の9割以上が不良債権>>
今回の問題の最大のポイントは、「貸し手責任」論で逃げ得を図ろうとしている母体行であるが、それが逃げ得では済まされなくなってきたことである。住専7社の事業向け貸付金の内、32.5%が金融機関からの「紹介融資」であることがすでに明らかになっているが、2/6の衆院予算委員会、大蔵省の西村銀行局長は、「母体金融機関の紹介分の内、債権者ごとの集計によれば、不良債権となっているのは、1兆5734億円、91%です」と、答弁せざるを得なくなったのである。この紹介融資の責任について、銀行側はかねてから「案件を持ち込んだというだけで、一律に責任を問われることには賛成しかねる」(橋本全国銀行協会会長・富士銀頭取)と反論していたのである。しかし紹介融資の9割以上が不良債権であることは、いかに母体行側が人的にも資金的にも経営を支配してきた住専を不良債権のゴミ処理場として利用してきたかを如実に物語っている。
さらに2/6に発表せざるを得なくなった、91年秋から92年夏にかけての大蔵省の住専7社に対する立ち入り調査報告書は、「融資状況を見ると、ラブホテル、パチンコ店など住宅に全く関係のない業種への融資が多い、これは母体行からの紹介案件がほとんどである」ことを明らかにしている。そうしてこうした融資については、「ほとんど無審査状態」であり、「個々の取引状況は極めて不適切、債務者の実態把握についても不十分、通常では考えられない仕振りとなっている。貸付業務を専ら行う会社としては危機的な状況である」等々、母体行側が住専をトンネル会社として悪用してきた実態が浮き彫りになっている。
<<住専の甘い汁への「覚書」>>
母体行側の第二の問題点は、農林系金融機関との関係である。
住専7社の借り入れ残高の推移を見ると、農林系金融機関からは、91/3末で約4兆9000億円が95年には5兆5000億円に増大しているが、一方、母体行からの借り入れは同期間に4兆5000億円から3兆5000億円へ、逆に約1兆円減少している。ところが母体行側は、91-92年の住専の第一次再建計画で、危機感を感じて資金引き上げを検討していた農林系金融機関に対して、「融資残高維持」を約束し、同時に「再建は母体行が責任を持ちます」「これ以上負担をかけません」といって、融資を引き上げないよう要請、93/2には農水省と大蔵省が「再建には母体金融機関が責任を持って対応する」とした「覚書」まで結び、これを保証していたことである。その裏で母体行側は、バブルの破綻を農林系金融機関に押し付けて、自らは巧みに融資を引き上げていたのである。
すでにこの時点で破綻に瀕していた住専は、解体処理すべきだったのである。それを銀行、大蔵、農水省が一体となって、住専の甘い汁(ずさん融資、高給天下り、ゴミ捨て場等々)に群がり、かれらの権限を超えた「覚書」をまで交わし、責任の転嫁と問題の先送り、拡大をはかり、その結果として、95/8の立ち入り調査時点では住専7社の不良債権総額は8兆1300億円へと約2倍に膨張させてしまった。
<<税率わずか1.8%>>
住専の経営破綻を尻目に、大手21行の94年度の業務純益は2兆7679億円にも達し、さらに95年度は9月期の業務純益が約2兆5000億円、通年では4兆4000億円を超えて過去最高の純益を上げることが確実となっている。そして大手21行のためこみ利益である内部留保は、貸し倒れ引当金を合わせると21兆円を超え、三和銀行一行の内部留保だけでも1兆8608億円にも達している。
それは、90年に6%だった公定歩合が91/7以降徐々に引き下げられ、95/9にはついに史上最低の0.5%にまで引き下げられた政府・日銀の一方的で強制的な庶民の預貯金の金融資本への所得移転政策の結果でもある。銀行預金の残高が約500兆円に達している現在、銀行資本全体で約25兆円の「濡れ手に粟」の文字どおりの不労所得が流れ込んだのであるが、それは預金者からむしりとったものといえよう。
ところが、大手21行の94年度申告法人税額は508億円にしかすぎず、業務純益の1.8%しか払っていないのである。それは住専一次損失処理、母体行などの負担分、国税・地方税など合わせて2兆9000億円近くが無税扱いとされ、過去3年半で不良債権償却での税免除額は3兆6000億円、その上2兆6000億円もの巨額減税が行われ、来年度は税金を全く払わない大手銀行も現れようとしている。
<<「不誠実のきわみ、倫理感のかけらもない」>>
全国銀行協会連合会会長は「公的資金導入を頼んだ覚えはない」と開き直っていることに対して、加藤紘一・自民党幹事長は、「不誠実のきわみである。ここまで事態を放置してきた大蔵省の責任も大きい。債権償却特別勘定の措置は、実質的な公的資金の導入であり、国税庁と大蔵省に実態を明らかにさせたい。また、金融行政を聖域とし、大蔵省だけに任せてきた我々政治家の責任も大きい。真摯に反省する」(1/30朝日)と発言し、後藤田元官房長官は、「不良債権問題を見ても、金融機関は、まったくふとどき千万。倫理感のかけらもない。しっかり反省してほしい」、さらに梶山官房長官は、「国家・国民に対する背信だ」とまで述べるに至っている。いずれも過去現在とも政府・自民党の幹部であり、事態に大きな責任を負っている当事者でもある。
さらにいえば、住専の垂れ流し融資に道を開いた「総量規制」を決めたときの自民党4役は、首相・海部、幹事長・小沢、政調会長・加藤六月、総務会長・西岡武夫、いずれも全員、住専問題追及に腰くだけとなっている現在の新進党幹部である。
銀行側に言わせれば、膨大な無税措置の見返りに自民党や新進党に他の大口に比べても相当に巨額の政治献金をしているではないかというわけである。しかしそれは政党や政治家の買収行為以外のなにものでもない。「公的資金の導入を頼んだ覚えがない」というのであれば、即刻、母体行側が無税措置と超低金利でためこんだ資産の一部を取り崩すだけで、住専問題は直ちに解決できるのである。そしてこの問題解決の最も現実的で唯一の道はそれ以外にないのである。
<<大蔵省の分割・解体>>
しかし問題解決をそれで終わらしてはならないであろう。このような事態をもたらした日銀・大蔵省・金融資本が一体となった日本の金融行政そのものを、独占支配・情報非公開・「護送船団」方式から、分権自治・情報公開・民主的コントロール方式へと大胆に転換させなければならない。
その意味では、今ようやく論議のそ上に上がってきた大蔵省の分割・解体は、絶好の機会といえよう。大蔵省が、信組の破綻、住専や大和銀行事件など一連の金融問題、不良債権問題からジャパンプレミアム、「公的資金導入」で相次ぐ失政を重ねてきたのは決して偶然ではない。徴税・予算配分・金融行政を一手に集中してきた独占の弊害と腐敗の必然的な結果なのである。大蔵省の金融調査部や銀行局、証券局などを分離し、大蔵省から独立した「金融監視委員会」を設ける案、さらには大蔵省から独立させた「金融庁」、「歳入庁」、「予算庁」構想等々が提起されているが、それらが、逆に組織や権限が拡大する「焼けぶとり」にさせるのではなく、それぞれに独立した分権と自治、徹底した情報公開、納税者を主権者とする民主的コントロール下においた徹底した改革こそが問われているのではないだろうか。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.219 1996年2月21日