【投稿】オウム裁判と隠されていくもの
—-「オウムの黒い霧」(下里正樹著)を読んで—-
最近特にマスコミの報道に疑問を感じている私である。村山政権の時期、時折の報道は決して公正とは言えなかった。阪神大震災の時の「行政の対応が悪い」キャンペーンしかり、住専問題の報道も「血税の導入反対」と一見わかりやすい、視聴者の反応を得やすい方向にのみ傾斜していた。(最近少し軌道修正しつつあるようだが)
同様に、オウム事件のこの間の報道は明らかに、「裁判」の進行のみに終始しているように思える。それは「麻原を死刑にできるか、どうか」のような話題に終焉していくような報道である。
<隠される闇の部分>
「『オウムは倒すが、闇の世界には手をつけない』が捜査本部上層部の意向であることはすでに書いた。この意向に歩調を揃えるように、テレビ・新聞・週刊誌の報道はこのところ大きな変化を見せている。『闇』の部分に触らなくなったのである」
下里正樹著の「オウムの黒い霧」の終章「アンタッチャブル」は、この言葉で始まる。闇とは、自衛隊のこと、もう一つは国際マフィアの存在であるという。
自衛隊で言えば、90年以降急速にオウムが軍事への傾斜を深め、自衛隊幹部候補生である士官クラスの勧誘を強め、サリン製造・保存・実行をおこなった事実、さらに銃器の確保・製造・訓練により「実力部隊」をつくろうとした事実。これらの問題は今や完全にマスコミ報道から姿を消した。
さらに、早川らが、92年から95年に10数度に渡ってロシアを訪れ、エリツィンにつながる政治・軍事勢力に6億円もの「政治献金」を行い、武器製造・訓練を行ったことについて、それらが「単純なルート」ではなく、マフィアの介在・政治家の介在を予想させるにも関わらず、これも報道されることはなくなった。
<サリンと麻薬を製造>
殺害された坂本弁護士が、特に追求していたものが「血のイニシエイション」といわれた「麻原の血」を飲む、それが100万円もした、という問題だった。この液体の謎を追求しようとしていた、と下里氏は言う。そしてその中身は「麻薬」ではなかったかと。よくテレビにでていた「修行風景」は、そうした「麻薬による幻覚」状況ではなかったのか。それを法廷で明らかにされることをこそオウムはおそれたのではないかと。
「修行」のために麻薬はまた「資金源」としての麻薬でもあったという。メイド・イン・オウムの麻薬は国内・海外にもマフィアを通じて売買されて、強制捜査が行われた日にはシャブ(覚醒剤)の国内マーケットの価格が3倍になったと下里氏は言う。
詳しくは本書を読んでみてほしいが、「オウムと麻薬」という問題もマスコミ・警察も取り上げなくなっている。オウム真理教の前身は「オウム神仙の会」であり、この時の後援者が麻原の出身地熊本のヤクザ「新選組」だったという事実。台湾マフィアに麻薬を売って、武器を購入していた早川の行動など・・・
<本当に宗教団体だったのか>
下里氏は、「右翼軍事団体」としてオウムを捉え、徹底的に批判することが重要だと主張している。宗教的思想から殺人・軍事思想が生まれたのか、それとも元から「右翼軍事組織」が宗教の姿をしていたのか。大量の行方不明信者、サリン=大量無差別殺人事件、ロシアコネクションの問題など、「謎」を闇にしてしまわないことが重要だという。
本書は、刺激的な内容で、少し週刊誌的な雰囲気もあるが、以前アサートで紹介したように下里氏は元赤旗編集長、除名された共産党員であり、丁寧で徹底した調査がもとにあると思われ、4月末の麻原裁判の開始を前に、ぜひ読まれることをお勧めします。(佐野秀夫) 【「オウムの黒い霧」下里正樹著 双葉社 \1400円】
【出典】 アサート No.220 1996年3月23日