【投稿】「”新安保”保・保連合」構想の迷妄

【投稿】「”新安保”保・保連合」構想の迷妄

<<「『負担をなくす』という表現は絶対にだめ」>>
5/10、参院でも住専に税金を投入する96年度予算案が、追加措置なし、無修正で成立し、住専論議の舞台は住専処理法案や金融関連法案の審議に移行した。つくづく現在の政治勢力のだらしなさ、無力さを痛感させられる事態である。
もっとも腹立たしさを覚えるのは、最終局面における国会決議をめぐる与野党のやりとりである。自民党が住専予算成立の前提条件として、「結果として国民負担をなくすよう可能な限り努力する」という国会決議で合意しようと動きだしたにもかかわらず、村山前首相・社民党党首が「『負担をなくす』という表現は絶対にだめ」だとただただメンツにこだわり、佐藤・社民党幹事長も「国民の声があるからといって、出来ないことを出来るかのように言うのは無責任だ」(5/10)とまるで大蔵省の言い分をそのまま代弁し、固執した結果、さきがけも竹村前蔵相のメンツを立ててこれに同調、銀行業界を代弁するかのような新進党の腰の引けた態度と相まって、自民党はこれ幸いと無修正、付帯決議なしで押し切ったのである。

<<「私どもの知らなかった問題」>>
しかしここまでに至る事態が明らかにしたことは、当初の「金融システム崩壊」論がいかにでたらめで、母体行、農協の「負担の限界」論も政・官・財の裏取引による適当な手打ちにしか過ぎなかったかということである。現実に母体行側は、史上空前の業務純益を計上している中で、負担増の能力があることをしぶしぶながらも認めており、橋本徹・全銀協前会長は「確かに体力はあるが株式会社としての法的制約があり名案がない」と述べ、全銀協側からは「政府・与党が法的根拠を決めれば、応じられるかもしれない」との声まででてきたのである。
さらに農協系の負担に至っては、昨年12月16日の段階で1兆1千億円で話が進んでいたことまで明らかにされ、それが一夜にして5300億円に減額され、そのこと自体を農林中金幹部が知らなかったにもかかわらず、農協系の負担の限界に仕立て上げられ、公的資金導入の根拠にされるという、ずさんきわまりない実態が浮かび上がってきた。
橋本首相は5/8の住専集中審議の中で「処理策を決めた段階では、私どもの知らなかった問題も次々に現れている。何と言っても、母体行が自らの責任をどう受け止め、どうこたえていくのか」と、しどろもどろである。

<<首相、有事法制の研究を指示>>
その橋本首相は、自らの住専疑惑からも逃れるようにして、新たな日米安保共同宣言を前面に立て、関係官庁に有事法制の研究を指示し、有事の際の私権制限や民間施設の強制収用、国民生活を直撃する有事立法に乗り出そうとしている。
そして緊急に直面する問題として、沖縄県の収用委員会が、すでに「不法占拠」状態になっている米軍楚辺通信所の一部用地について「緊急使用」を不許可としたことに対して、今後は米軍用地の収用手続きを政府自らの権限で進められるよう法整備を急ごうというわけである。橋本首相は普天間基地返還について「最大限の努力をした」と自画自賛したが、その後の事態が明らかにしたことは、基地の沖縄県内たらい回しと一層の長期固定化、集団安保体制への組み込みが露骨化してきていることである。来年5月には、さらに12の施設にある約3千人の地主の土地が使用期限切れとなる。自治体の収用委員会の権限が、政府の意に沿わない、「日米安保体制の信頼性を損なう」といった理由で取り上げられようとしているのである。さすがにこの点では社民党は全面賛成とは行かず、慎重姿勢を要請しているが、どこまで貫徹できるかおぼつかないものである。

<<小沢「自民単独少数政権に協力する」>>
こうした事態に呼応するかのように、新進党の小沢党首は「集団的自衛権の行使は合憲」という考え方を打ち出し、「自社さ三党の連立政権では何も決められない」、「自民党の単独少数政権になれば、大事な問題には協力する」(5/5北京)と、突如自民党単独政権支持、保・保連合構想をぶち上げた。偶然か故意か同時期に訪中していた竹下元首相とも北京会談を行い、「酒を酌み交わしながらよもやま話をした」ということであるが、自民党ににじり寄る「押しかけ保・保」、「”新安保”保・保」と、新進党内でも物議をかもしている。
よからぬ動きには必ず登場する中曽根氏が早速(5/7)、「目先の仕事、党派にとらわれた考え方が多すぎる。小乗仏教であり、大乗仏教ではない」として、安保政策を軸にした勢力結集論を展開し、北京での小沢-竹下会談にも理解を示したという。
さらに山崎・自民政調会長は、5/17のワシントンでの講演で、「自社さ連立政権の下では、日米防衛協力の指針の見直しは現行の憲法解釈の範囲内で限定されたものになるだろう」、しかし「総選挙の時期と結果次第では、従来のカテゴリーでは集団的自衛権の行使に当たるとされるような内容にまで日米防衛協力の範囲が広げられて合意される可能性も出てくる」と俄然キナ臭さが現実化しだしている。

<<首相直系議員の「魔女狩り」発言>>
そしてとんでもない議員がどこにでもいるものである。元厚生官僚で自民党の熊代議員が、パソコン通信の電子掲示板のボード上で「エイズ問題のデタラメ報道を信じてますか?」と題して、薬害エイズに直接関与した厚生省、学者、製薬会社には「故意過失はない」と断言し、マスコミ報道を「魔女狩り」とかみつき、菅厚相を「厚生省の正当性を断固として主張しなければ、真の厚生大臣とはいい難い」と論難したのである。今回のエイズ疑惑で嘘とごまかしを繰り返してきた厚生官僚を弁護するのに「ウソも百ぺん繰り返せば真実になる。かつて、ドイツのナチズムが脅威を振るった時代の有名な言葉が思い出されます」とは、まったく天に唾するたぐいのあきれ果てた低俗議員である。
この人物、厚生省援護局長を最後に退官、橋本首相が厚相時代から癒着、橋本と同じ岡山から出馬、橋龍後援会の直接の支援を受けて当選している首相の直系議員である。そして今回の参考人招致をめぐっては「そんな馬鹿なことはやめろ」と主張して、薬害エイズ加担者の喚問を終始妨害してきた張本人でもある。
5/14の衆院厚生委員会理事会では早速、新進党側から「真の大臣とはいい難いと自民党厚生委員が言っている。大臣とは言い難い菅厚相に質問などできない」と自民党に呼応するかのような対応が示され、戸井田元厚相は「次の内閣改造で厚生省は自民党に返して貰う」と菅厚相の更迭を公言している始末である。

<<「保・保連合」許さぬ政治勢力の結集>>
最近の世論調査では、自民党の支持率がが47%に上昇し、新進党は14%に下がったというが、事態は極めて流動的であることも事実であろう。与野党それぞれに重大な波乱要因を抱えていることは疑いない。自民党内でさえ、「集団的自衛権の問題だけで小沢氏とウェディングマーチを奏でようと思っている人はほとんどいない」実態である。小沢氏の発言はそうした事態への焦りの表現ともいえる。
6/19の会期末を控え、会期末には銀行・農協系が金を出すか否か、特別減税の続行と消費背増税にいかなる結論を出すのか、沖縄米軍基地の土地収用手続きにいかなる対応を打ち出すのか、集団自衛権に踏み出すのか否か、厚相を含めた内閣改造にとりかかるのか否か、解散・総選挙に打って出れるのかどうか、まさに政権が行き詰まるかどうかという、抜き差しならない局面にいたる可能性も十分にあり得るといえよう。たとえ遅くても、「来年度予算案の編成直後の来年1月国会開会冒頭解散・1月総選挙」(5/15梶山官房長官発言)が既定の路線となりつつある。「保・保連合」に対抗した新たな政治勢力の結集は可能であり、ローカルであれ、グローバルであれ、そうした結集の芽を強く太くすることこそが求められているのではないだろうか。(生駒 敬)

【出典】 アサート No.222 1996年5月26日

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