【投稿】政治の季節到来
・・・あなたは幕末の志士になれるか・・・
○既成政党離れの傾向
東京都と大阪府の両知事選挙における無党派候補の勝利から2ヵ月が経過し、地方政治が一躍脚光を浴びている。共産党を除く政党が全て相乗りで官僚出身候補を推す手法が首都と日本第2の都市で根底から覆ったことで、住民の身近な場所で政治が面白くなってきた。知事と議会の緊張関係が水面下での折衝で行われてきたことに対する飽きと分かりにくさに対する批判が無党派の知事候補を勝利させた。当選した知事がはっきりと認めたように政治に対する意識の高い層が自分達の手の届かない所で行われている政治に対する改革の意思を示したと言える。
東京の青島知事は公約を守って世界都市博覧会を中止するという決断に踏み切り、自らの姿勢を貫き通した。未だにバブルの夢を追いかけている官僚や政治家、企業の頭に冷水を掛ける効果が大きかった。公約を守るという政治家としてのあるべき姿を示し、都民の信託に答えた勇気を讃えたい。一方、横山ノック知事は青島知事とは逆に、国の事業と言ってきた関西国際空港の全体構想を府の事業とするなど180度公約を撤回し、議会の非難を浴びている。大阪らしいと言えばそれまでだが、その融通無碍な手法に対する厳しい議会の反発を浴びている。とりあえずは、副知事人事の対応と秋の補正予算でのお手並拝見という形で緊張関係が持続していく模様だ。いずれにしても、このような両知事の対応が民主主義の本来のありかたを住民が学ぶ、絶好の機会を提供していることは間違いない。そして既成政党の旧態依然とした政局運営に国民が飽き飽きしていることは確かなようだ。
○政局のゆくえ
夏の参議院選挙に向かって政局が緊張状態に入っている。村山内閣に対する支持率は下降の一途で、ついに25%まで降下して不支持率を9%も上回るとともに、危険ラインの20%に近づいている(6月8日付け毎日新聞)。同じ調査で結党以来最低の6%まで支持率を下げた社会党の村山首相にとっては、憂鬱な日々が続いている。そして、6年前の大勝利の議席の50(比例区19、選挙区31)の半分にも届きそうにない大惨敗を喫することがほぼ確実であるため、責任論を免れない村山首相の後任の次期首相をめぐって、選挙前から各党の内部での勢力争いが激化している。社会党は、今までの政策を突然変更して多くの支持を失ったが、それに変わる政策を明確にできないまま、1年近くも官僚支配に屈する形になっている。ようやく95年宣言として党の方向性を打ち出したものの、党内の対立によって相変わらず玉虫色の政策を上から国民に下ろすような手法に対して、国民から白けたムードで迎えられている。
朝日新聞の調査では、2年前の社会党支持者の51%が無党派に変わっている。また新進党の55%と自民党の38%が無党派に変わっている(6月9日付け朝日新聞)。毎日新聞の前述の調査では支持政党無しが45%と3月よりも6%低下したものの自民党の支持率27%を大きく引き離し、政局を動かす最も大きな塊をつくっている。 大都市を中心にして、参議院選挙でタレント候補をはじめとした無党派の候補者が立てば、その候補者を支持政党無し層が当選させることになりそうだ。このような支持政党離れは、社会党をはじめとした既成政党が何をどうしたいのか全く見えてこないという苛立ちの現れである。とくに社会党は、小選挙区という保守政党に有利な選挙制度を選挙公約(小選挙区比例代表併用制)を破って合意してしまうという失態を演じてから急速に求心力を失い、新たなビジョンを国民とともに考え、生み出していく活力をもはや失っている。深刻なのは、その活力の低下が若者の活動家の補給源としての学生運動や労働運動の低迷や幹部の老齢化という構造的な問題から端を発しているにもかかわらず、その解決策を誰も講じようとしていないことである。ビジョンを示し、筋を通してグングンと国民を引っ張る指導者が党内から現れる気配は全く感じられない。その可能性が少ないことが分かれば分かるほど支持率は落ちつづけるのである。
○アメリカから日本への覇権の移動と政治の責任
バブルの崩壊は経済のみならず国民生活全般に暗い影を落としている。4月の失業率が3.2%と戦後最悪を記録するなど雇用情勢も緊迫しており、景気回復どころか恐慌の危機が叫ばれ始めている(恐慌に至らないとしても世界経済の後退が2010年頃まで続くという分析もある)。このようなバブルの崩壊現象は、過去の世界史の中で覇権国が移動する際に必ず発生しており、今日の状況はまさに、アメリカから日本へと覇権が移る過渡期であることを示しているという議論がある。しかし、たとえ覇権が移りつつあるとはいえ、政治がビジョンを示しえないうえに官僚は省益の追求しか念頭に無い醜態を国民にさらけ出しているという、指導者不在状況が国民のイライラをいっそう募らせている。日本経済の本格的な景気回復と世界から求められる責任の大きさにどのような理念で応えるのか、あるいは高齢化や防災対策といった国民生活にとって避けられない支出の増大など、諸課題全てを全体として整合性のあるものとして国民にわかりやすく示せる政党だけが生き残れるだろう。
戦後50年の決議で各党とも党内に意見の対立があった。冷戦構造の中で、東西両陣営の対立を保守対革新という図式に置き換えて共存してきた各党が、その存立基盤(結集軸)を失った以上、各党とも分解して今後の方向に沿って結集するべきだ。地球環境問題やアジア諸国を始めとした国際関係を企業の論理ではなく、環境の論理や共生という考えかたに基づいてパートナーシップを発揮できる外交の確立と、その前提としての日本政府の責任を明確にした戦後処理の早期解決を主張できるかどうか。各省庁の縦割り行政と中央集権がもたらす税金の浪費を明らかにし、国民生活の向上のための官僚のリストラと地方分権を明確に主張できるかどうか。企業の社会的責任を追及するとともに、勤労者が地域で家族とともに生きがいを見いだせる社会づくりを進められるかどうか。情報公開とそれに基づく行政改革に取り組む姿勢を持っているかどうか。国民にこのような選択を明確に示して、清潔な手法で選挙を行う政党が求められている。
幕末、大地震が日本列島を相次いで襲ったように、阪神・淡路大震災に続いてサハリン地震と大地震が相次いでいる。今後の地震活動は活発化し、東海地震、関東直下型地震が近い将来起こると言われている。早い時期に、中央集権から地方分権へと歩みを始めなければ、21世紀のリーダーとして世界に新たなビジョンを示し各分野で貢献をすることが期待される日本が、世界から失望される事態になりかねない。幕末の志士が脱藩して新たな結集をしたように、志を持った者が行動するべき時が来ている。(1995年6月9日大阪M)
【出典】 アサート No.211 1995年6月17日