【投稿】長良川河口堰本格運用が意味するもの

【投稿】長良川河口堰本格運用が意味するもの

去る5月22日野坂建設大臣が「長良川河口堰を5月23日から本格運用する」と発表した。(実際には増水期でないと、ゲートは閉められないので、梅雨以降になる)私が河口堰建設反対運動に関わってすでに4年が経過するのだが、村山社会党委員長が総理大臣であるこの政治状況で、「何故?」という疑問はぬぐえないし、「自社さ政権」ないしは「政権党」になった社会党の自殺行為のはじまり(?)という見方もできる。

<100万票を失った社会党?>
東京方面からは、「河口堰本格運用決定」で、社会党は少なくとも今回の参議院選挙において、市民派・環境派を失望させ、その効果は100万票を失うのではないか、という予測が聞こえてきている。長良川河口堰の工事は92年10月に再開されて、着々と堰工事自身は進められてきたわけだが、完成後の「処理」については、多いに議論のあるところあった。細川政権の時代には、旧連立与党の中で旧日本新党、さきがけが環境部会の形で河口堰の危険性について言及したが、細川政権が短命のためみるべきものはなかった。昨年の7月、村山政権が誕生したのちは、野坂建設大臣、五十嵐官房長官の長良川現地への視察が実現し、その後長良川河口堰についての「円卓会議」が、建設省と反対派の間で設定され、平行線の形ではあったが、堰の安全性、環境への影響が議論されてきた。
堰本体は、平成6年度予算の中で完成してはいるが、ダムからの水の運用と言う意味での「導水事業」はこれからの話であって、まだまだ運動的には「負けた」わけではない。
しかし、「円卓会議」の結論もでないままで今回の「本格運用」決定にが行われたことについて想像できるのは、堰完成を受けて、「導水事業」(ダムから、工業地域などに水を運ぶパイプラインの建設など)への予算確保を狙う建設省官僚からの強い圧力があったとしか思えないのである。

<「環境も大切だが、安全はもっと大切だ」でいいのか?>
環境派を刺激したのは、本格運用決定発表にあたって、野坂建設大臣が行った数々の発言である。「環境も大切だが、安全はもっと大切だ」「国家が血税を使って行う公共事業に間違いのあろうはずもない」「(河口堰建設反対署名に名を連ねたことを聞かれて)あれは廊下での立ち話。問題の重要性を理解していなかった」など。「本格運用」を決めてしまえば気楽なもので、野坂は結構、言いたい放題を言っているようだ。
一方、朝日新聞は野坂が最近「土工協」会長と会ったことを暴露したし、23日以降社会党内も、環境派もそれでは決定取消に向かって動きだした。
6月12日「長良川河口堰建設に反対する会事務局長」の天野礼子さんが野坂大臣に「決定取消・話し合い継続」を申し入れたあと、建設省前で反対派市民と共にハンガーストライキに突入。(天野さんはハンスト24日目の7月4日建設省内で倒れ芝病院に緊急入院した)
6月15日佐高信さんが、建設省内で「村山内閣に解決を求めるアピール」を発表。(6月26日に賛同者が112名と発表され、27日に朝日新聞東京23区版に全5段の意見広告が掲載されている)
6月28日社会党環境部会が矢田部議員の呼びかけで開催され問題解決に努力することが確認され、7月2日社会党有志議員と野坂大臣との話会いがもたれるも、大臣が「ゲートを降ろしてのしゅんせつ」にこだわり、決裂。
6月30日「平和・市民」の国広正雄氏が、党として建設大臣に最高を求める声明を提出。など 他方、反対する会など環境派は、7月4日に「長良川監視委員会」を発足させ、「堰の撤去まで川の監視を続ける」としている。

<民主主義リベラルを誰も信用しない>
今回の決定発表後、23日の閣僚懇談会で、五十嵐官房長官は、長期にわたる大規模公共工事について、その妥当性を審査する第3者機関の設置を提案している。しかし、共同通信などは、「河口堰本格運用」決定に対する反発を考慮し、社会党としての大規模公共事業への対応策を示したものと報道している。
具体的な判断は、「環境問題は少々あっても、安全が大事」という判断を強行しておいて、チェックの第3者機関を今後つくる、と言ってもバランスは取れない。今後どう推移するかは分からないが、環境問題では社会党は今後発言権を失うことは間違いがない。
特にリベラル新党という言葉が一人歩きしているが、「平和・人権・環境・国際連帯」というキーワードに照らしてみても、環境も守れない社会党では、当然リベラル新党も環境問題はお題目だけ、と環境派、市民派は十分に理解したのではないか。地方議員や党員はいざ知らず、政権についた党がこれほど物分かりが良くなるのならば、「政権交替」に期待した国民が「一億総無党派化」することも必然と言えるのではないか。

<長良川の鮎、今年は不漁>
5月11日の鮎漁解禁以来、長良川では不漁が続いている。岐阜市中央卸売市場への天然鮎の入荷量は昨年の10分の1となっている。長良川漁協によると木曽川、揖斐川も同様に不漁だが、特に長良川の場合、4月にゲートを3日閉め、1日開けるとい「調査運用」が行われているため、今後の本格運用に対して、漁民の中で不安が強まっていると言う。
「環境への影響は小さい」から、本格運用を決定したという野坂建設大臣だが、「自然環境、地球環境」へのあなどりは、取り返しのつかない事態を招来しつつある。
「長良川河口堰をやめさせる市民会議」は、すでに9月23日・24日を「長良川DAY95」として、長良川河口堰現地での行動を準備し、反対運動の継続・新たなステージに向けて粘り強く運動を進めている。(95-07-09 佐野秀夫)

【出典】 アサート No.212 1995年7月15日

カテゴリー: 環境, 社会運動 パーマリンク