【投稿】社会党の新党議論に出口はあるか
<なぜか盛り上がらない新党論議>
社会党とその周辺が俄かに騒がしくなっている。もちろん「新党」問題である。しかし、どうも盛り上がっていない。もたつく議論と社会党内から聞こえてくる不協和音によって「新党」のイメージも湿りっぱなしである。
新党議論は参議院選挙直後から急速にその速度を早めてきた。参議院選挙の結果が低投票率の産物とは言え、新進党の躍進、連立与党側の敗北、そして「政権政党」社会党の大敗が来たるべき衆議院選挙の賛嘆たる結果を予想させたからである。他方連立のパートナーである自民党の中からも社会党との連立政権からあわよくば自民党単独政権を、との連立批判、自民党のアイデンティティを取り戻したいという党内世論が強まった。総裁選挙にいち早く名乗りを上げた日本遺族会会長の橋本龍太郎の勢いは河野現総裁を不出馬に追い込む結果となった。こうしてスタートした自民党総裁選挙は、急遽出馬した小泉純一郎vs橋本龍太郎の闘いとなって現在展開されている。最近のマスコミ論調は社会党の新党議論より総裁選挙の論争の方に重点を移しているようだ。
とは言え、社会党の解党と新しい党結成の流れは結果がどうなるかは、予想ができないにしろ注目しないわけにはいかない。戦後政治の中で社会党支持層に象徴的な日本の民主主義勢力がどのような形で新たな政治的回路を生み出し、連立の時代に政治的イニシアティブを発揮できるのかは、この秋にかかっているからである。
<新党論議の問題点>
まず私が気になることを2点について明確にしておきたい。
第1は、自分自身が労働運動の中に身を置いていることからも言えることだが、「新党」論議について、あくまでも政治=政党と労働運動の境界と相互の責任性を明確にすることが必要であるということ。社会党内の新党論議の低調さ、決断力の無さを理由に「労働組合」の側から新党結成への意見が強く出ている。これには理由がある。分割問題を抱える全電通、民営化問題を抱える全逓、金属機械労組は中小企業対策、政治政策闘争では自治労がそれぞれ深く政治の動向に注目をしている。社会党内よりも切実な感もある。その背景については私もその一員として十分に理解しているつもりである。
しかしである。労働組合内の政治意識も、支持政党なしが増大するなど、宗教団体やそれに近い日本共産党は除くと、団体の利害と個人の政党支持はイコールでなくなりつつある。利益代表型の政治には不透明な部分が金銭問題だけでなくつきまとう。従来の中央組織決定型から一人一人が個人として政治に関わる方がより支持を広げ、議論をオープンなものにできる。
社会党がより開かれた党になるというならば、その結成過程そのものからオープンで個人の責任を明確にしたものにすることが望ましい。その意味から、労働界から社会党の新党論議に余りに注文を付けるという姿勢は「地獄への道は善意で掃き清められている」ということになりはしないか。従来からの社会党総評ブロックという構図は一方で社会党の党としての成長・熟練をさぼらせてきたのではなかったか。
新しい社会民主主義政党(私はそうあるべきだと思うが)は、労組に過度に依存しない自立した政党になるべきである。「21労組会議」の問題もまた、社会党が消滅すれば支持政党が無くなるという労組の危機感先行だけでは同じ轍を踏む可能性が高いということだ。そういう意味で政党と労働組合との関係については、言葉の上での整理は「21労組会議」にしろ「社会党と連帯する労働組合会議」にしろ整理はされているが、実態的には従来の社会党総評ブロックのような構図が見え隠れしているのである。
第2には、現在の村山連立内閣と新党の関係である。現在は社会党は確かに政権党である。しかし、成立の経過の特殊性は置くとしても、最大多数党ではない社会党が首相を出していることと政権の主導権を持っていることは別である。社会党が、「新党結成」を目指すのなら、政権からの離脱も想定するのが本筋である。しかし、現実は政党助成法により金ほしさに、新党結成後に社会党を解党するとか、暫定で村山首相を党首に据えるなどという「歯切れの悪い」新党論議の現実では、新鮮さも魅力も失わせているのではないか。「第3極」という議論も現実的にはそうであろうが、両保守政党では現状の解決はできない、という論議の建て方から基本的には出発しなければならない。
歯切れの悪い結成プロセスからは、中途半端なものしかできないものだ。そういう意味では、社会党の「丸ごと新党」という流れには一定距離を置いたほうがいいのかも知れない。
<先行する労組の新党議論>
労働組合側の新党準備は具体的なレベルで行われている。
8月7日に確認された「民主リベラル新党結成推進労組会議」(以下21労組会議)の「政治の現状と私たちの決意」の中では、参議院選挙結果から「このまま衆議院選挙を迎えれば、一昨年の政権交替で前進するかに見えた日本の政治的民主主義が、再び後退する恐れがあります。私たちはこのような強い危機感と共通認識に立ちます」との現状認識。社会党の打ち出した「民主主義・リベラル新党」形成が具体的に進展することを期待するが、(一向に進まないことに)強い危惧を持つとともに、新政治勢力の形成が私たち自身の課題であると受けとめ、「労働組合としての立場と領域を踏まえて可能な限りの役割を担います」としている。
「21労組会議」の中では、来る総選挙を新党で闘うとして全国300の小選挙区にすべて労組の候補者を立てることを目標に「年齢は40才代で企業籍を離籍している役員は、衆議院選挙の候補者になる覚悟が必要」と組合員数で逆算すると自治労の場合は100名の候補者擁立が必要などの議論もあると言われている。
また、社会民主主義勢力、民主的でリベラルな政治を追及する政党・政治家、自立した様々な市民団体との連携を目指すとして、党内外にこだわらず幅広い結集と「若々しい活力ある政党」であると「新党」のイメージも語られている。
最近の文書によると、「社会党と連帯する労組会議」は、9月14日に社会党への緊急提言(第2次)を送っている。第1は社会党の新党つくりを積極的に支持するが、新党結成のタイミングはこの秋がラストチャンスであり、9月21日の臨時党大会では、新党結成時期・手順と方法等について明確な方針を決定すること。第2は300選挙区すべてに候補者を立てる作業が進んでいないことに強い懸念を持たざるをえず、早期の体制つくりをおこなうこと。第3に排除の論理による狭あいな政治勢力としてでは、理念・政策の一致を踏まえた裾野の広い政治勢力の総結集をめざすべき。第4には新党づくりは「大胆な世代交代」を実現する機会であり、有権者の多数派である”若い世代”と”女性”の支持獲得に特段の留意を、と党大会の直前ではあるが提言を行っている。
労組側は、横路党首による世代交代と、新党さきがけや市民団体との連携に動いているようである。また鉄鋼労連などの旧民社系産別労組も、新進党にはついていけないと、新たな党への支持をも想定した「支持政党の多様性」を定期大会などで決定している。
このような流れの終着は、社会党の分裂も辞さず、「清新な党」「徹底した分権と参加の党」「政策立案能力の高い党」「若い世代と女性を大胆に登用する党」という新党をつくる主役級に労組が躍り出る可能性が、9月21日の社会党臨時大会の動向によっては現実となるかもしれない。
<まとまらない党内の状況>
毎日新聞は、府県本部の書記長と国会議員へのアンケートを実施した。その結果は、書記長レベルでも広島、香川が「新党反対」、また「丸ごと論」への支持が21府県、個人参加方式が13府県とまとまっていない。「社会党:新党像バラバラ」の見出しの印象は強烈である。また国会議員では「新党反対」が4名。社会党解党反対が「新党反対議員」も含め13名。また大会で承認された新党に不参加の可能性があると答えたのは、丸ごと派4名、この指とまれ(個人参加)派11名など、18名に上ったという。
この状態で、どのような大会結果が出るのか。外からは予想することは不可能であるが、今後も紆余曲折があることは確実である。
<丸ごと移行への危惧>
9月14日の社会党中央執行委員会は「丸ごと方式、参加の署名は取らない」という方式を決定したと報道されている。残念ながらこの方式は、単なる党名の変更に過ぎない結果になる可能性が高い。
社会党をまず解党し、新たに新党準備委員会を発足させ、政治理念と政策を明らかにし、党員を募り、参加者の中から代表者を選ぶ。どのような形にせよ、こうした過程が明確にならなければ、はたして新党と胸を張ることはできないと思われるが、どうだろうか。 仮に丸ごと方式であるならば、せめて現時点で他の政党議員・所属者、無所属議員・個人が現社会党議員・党員と対等の権利を持つ新党移行委員会でも作ってオープンな議論を起こしつつ、党の機関・組織を新党に移行するという手段もありか、と思うが。
社会党は14日、学者文化人らと作る新党母体の「新しい政治勢力結集呼びかけ人会議」を正式発足させたが、15日の新聞報道では新党さきがけなど他の党からの参加者はまだないという。
この呼びかけ人会議が「新しい政治勢力の結集を呼びかけるアピール」を出している。「①21世紀に向け日本政治の新しい軸となる大きな政治組織「民主連合」(仮称)をつくろう。②憲法の精神の創造的発展、③基本課題は平和と互恵の国際社会樹立への積極的貢献、官僚制による統治から脱却して分権と自治の確立、市場経済を基本としつつ、人と環境との共生を保障、男女共生社会の実現とすべての人の自立と選択による社会参加を保障、新しい政治組織は大きな理念で一致する市民が一つの政治勢力としてネットワーク的に結集する、新しい政治組織は政党の形をとり、全国300小選挙区に候補者を擁立する」などの内容である。
アピールの内容は特に異論のないところだが、社会党と新党との関係はまだまだ曖昧である。すでに10月下旬というタイムスケジュールも動き出しているが、果たして第3極になりうるか、誰もその確信を持っているわけではない。むしろ、現状ではそうはならない可能性の方が高いと見るほうがいいのではないか。(1995-09-18 佐野秀夫)
【出典】 アサート No.214 1995年9月22日