【投稿】「金融秩序維持」と「公的資金の導入」論
<<「政府・日銀の親心」>>
日銀は9月8日、公定歩合を0.5%引き下げ、史上最低金利をさらに更新して年0.5%という超低金利政策を実施した。日銀総裁が「市場への強力なシグナル」と打ち上げた今回の利下げは、「金融恐慌直前」とまでいわれる金融資本市場に対する露骨な救済策である。「たいへん心苦しい」と松下総裁は記者会見で語っているが、この超低金利は零細で膨大な預金者層を直撃する一方、巨額の不良債権を抱える金融資本にとっては諸手を上げて歓迎する「たいへん心強い」措置であった。
これは、預金金利は直ちに公定歩合と連動して低下する一方、公定歩合と直接連動しない貸出金利や住宅ローンを始めとする金利固定型の各種ローンとの利ざやはこれまで以上に広がる、自らの努力や犠牲や責任も一切伴わないいわば「ぬれてにあわ」の一方的な金融資本支援策なのである。これは結果的には、膨大な預金者、庶民の預貯金からの金融資本への一方的で強制的な「所得移転」が行われているということである。この点では、「これでたっぷり儲けて、不良債権を償却しなさい」という「政府・日銀の親心」であるとまで指摘されている(「朝日」9/9)。
<<「金融秩序」の破壊者は誰なのか>>
金利引き下げは直ちに円の対ドル相場に反映し、今や数カ月前の80円台から100円台に逆戻りし、株式市場は上昇し始めた。つまりより利回りのいい株式市場や外為市場へ資金が流れ、この点でも銀行が大量に抱えている株式資本の価値を引き上げ、含み資産の上昇と株式売却益で金融資本の不良債権償還を支援しようというわけである。 一方、東京協和、安全の2信組、ついでコスモ信組と相次いだ信組の経営破綻は、さらに預金量1兆円を越える信金全国第2位の木津信用組合、第2地銀トップの兵庫銀行の経営破綻にまで突き進み、「金融秩序維持」のためにはもっと直接的な「公的資金の導入」が必要であると叫ばれ、地方自治体までそれに巻き込まれ、税金の直接投入による銀行救済、つまりはバブルの後始末に住民の税金がそそぎ込まれようとしているのである。
ここでは不思議なことにこうした経営破綻に深く関与し、そこから膨大な利益を吸い上げてきた大手金融機関の責任がそれほど問題にされていないのである。「金融秩序」を破壊し、土地投機とバブル融資に最大の資金を投入してきたのは大手都市銀行であり、利益を吸い上げるだけ吸い上げ、形勢悪しと見るや一斉に資金を引き上げて中小金融機関の経営を破綻させ、またもや「金融秩序」を破壊したのは同じ大手都銀である。彼らの責任と資金投入でこそバブルの後始末がされなければならないのである。
<<「紹介預金」のあくどさ>>
「明日の朝刊で新聞が書けば、間違いなく昭和恐慌と同じことが起きる」といわれた木津信用組合の業務停止命令は、8/30の夕刻であり、夕刊報道であった。それでも取り付け騒ぎは相当な規模に達し、預金者のほとんどが各支店に殺到し、銀行のシャッターを閉めても、預金が保障されることを説明しても引き下がらない事態がテレビで刻々と報道され、多くの不良債権を抱える金融機関を震え上がらせたことは事実であろう。
この木津信の場合、預金残高の3割以上が三和、住友を始めとする大手都市銀行からのいわゆる「紹介預金」で占められていた。この「紹介預金」は、大手都銀の預金金利0.5-0.6%の6倍前後といわれる高金利を木津信に設定させ、例えば三和の場合、大手取引先企業に短期資金調達用のコマーシャルペーパー(CP)を発行させ、これに三和が資金提供し、この資金を木津信に「紹介預金」をさせて企業側、三和側双方共に利ざやと手数料をがっぽり稼ぐというあくどいやり方である。「組合員以外からの預金は、2割以下」と定められている中小企業等協同組合法に大きく違反して、木津信の場合これが3000億円前後に達していたのである。木津信側は、こうした高金利を保証するために危険を承知でバブル融資と不動産関連融資に拍車をかけ、あげくの果てに利ざやを稼がれるだけ稼がれてから一斉に紹介預金を引き上げられてしまったのであった。三和は、木津信の経営破綻に関与した責任を問われて、「それは木津信の経営指針の責任」と我れ関せずの態度を取り続けている。
<<すでに膨大な「公的資金の導入」>>
さらに問題なのは、現在の段階においても「金融秩序維持」の名の下に「公的資金の導入」は、相当な規模で行われていることである。今回の事態においてもすでに日銀が直接出資や融資を行っている。貯金保険機構による資金支援、共同債権買取機構による無税償却も形を変えた公的資金の導入である。簡易保険や公的年金資金を流用した株価維持政策(PKO)も公的資金の導入である。さらに広くは財政投融資による金融機関への低利融資や一般会計からの財政資金投入も公的資金の導入である。こうした資金導入を合計すると20兆円近くに達するという。大手金融資本へのこのような一方的な保護政策が今回のような金融不安をもたらしたのであり、こうしたことを続ける限り、国民経済的な規模での膨大な損失とツケをもたらし続けるといえよう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.214 1995年9月22日