【本の紹介】『現代日本のビッグビジネス 企業行動と産業組織』
安喜博彦著、95/10/15発行、日本評論社、3502円
今や日本のビッグビジネス、巨大企業の一挙一動は、良きにつけ悪しきにつけ全世界注目の的である。日米自動車摩擦と大和銀行の不正取引は、日本の産業資本と金融資本の実態、系列支配や参入障壁、株式の相互持ち合いやグループ支配の不透明性を浮かび上がらせているともいえよう。これまでは上昇傾向一本槍で、世界経済の中でも常に成長率トップの地位を保持し続けてきた日本経済、あるいは日本企業の地位が、このところ、とりわけ冷戦体制崩壊以後芳しくなくなってきていることは周知の通りである。そしてここ数年、その経済成長率は、ECD加盟25ヶ国中24番目という事態である(1994年、0.6%)。
ここに紹介する『現代日本のビッグビジネス』は、そうした大きな曲がり角に立っている日本経済の直面する課題について、多くの複雑性と多様性に富み、またそれゆえにこそ意義ある論点と問題を提起してくれているといえよう。
著者は「はしがき」の中で、「本書は2度の石油ショックと80年代後半の円高時を経緯したこの20年余にわたるわが国の巨大企業のビヘイビアについて、価格設定行動と雇用調整、および、多角化行動の三つの側面に焦点を当てた分析を試みたものである」と述べ、その際、「わが国の産業・企業を特殊なものとしてみるのではなく、国際的に共通した一般的フレームワークと対応させてみるというのが基本姿勢である」ことを強調している。
さらに「また、実態・実証分析においても、そこから一定の結論を引き出すことを急がなかった。むしろ現実の複雑さ・多面性を容認し、一定の視点を提示しつつも、極力、事実そのものを忠実にフォローすることを意図した。このようなスタンスで構成された本書は、日本経済の進路が企業行動のあり方とかかわって大きく問われているなかで、必ずしも切れ味のよい解答を用意するものではないけれども、少なくとも現在の立脚点を再確認するためのいくつかの手がかりは提示しえたと思う」と自負しておられる。
本書で分析されている上位100社の激しい地位変動の実態や価格支配の具体的動向と経緯、系列、グループ化の実態は、あらためて独占と競争の問題が、独占の完成や固定化ではなくて、常に競争の優位において進行し、経済のグローバル化にともなってそれがますます切り離し得ないことを明らかにしているともいえよう。
本書の目次は以下の通りである。(生駒 敬)
「Part1 企業成長の理論と実態
1.ビッグビジネス分析の視点
補論A.集中論の再検討
2.ビッグビジネスの国内的・国際的地位
Part2 価格支配と雇用調整
3.第1次石油ショックと管理価格問題
4.高位集中産業における協調と対抗
5.雇用調整と事業所単位の雇用変動
Part3 多角化の展開と内部組織
6.企業の多角化をめぐる論点
補論B.企業の多角化と内部組織論
7.一般集中・市場集中・多角化
8.多角化・内部組織・企業グループと企業成果
9.多角化の推移と現況」
【出典】 アサート No.215 1995年10月27日