【投稿】もたつく新党 揺らぐ村山政権
<新党議論は水面下へ>
社会党の新党づくりが遅れている。9月の社会党臨時大会は新党結成を確認したものの「看板の書き換え」に近い内容となり、新党推進派と慎重派の妥協の産物になったうえ、10月中にも「新党の理念」を打ち出すとしたにも関わらず、現時点でもその時期は明らかにされていない。第3極が必要との議論も自民・新進の保守党に対抗する政治的政策的な論戦も提起がされないなかで、第3極の議論、民主リベラル政党の結成そのものへの期待感も薄れつつあるというのが現実ではなかろうか。
新党推進派の陣型は、横路を党首にし、さきがけとの合流、旧民社党内の一部分も取り込んでのゆるやかネットワーク政党の結成であろう。しかし、横路はまだ動かない。地域フォーラムつくりには奔走しているようだが、肝心の社会党の新党議論にはまだ発言する時期ではないと「慎重」である。他方、さきがけの側は鳩山の発言にもあるように、労組側からの「新党推進」の動きに違和感を感じており、「労組が前に出すぎると、新党そのもののイメージが悪い」と、新党への発言も控えめなものに終始している。
社会党大会まではマスコミも新党問題に注目していたが、社会党内、横路、さきがけ、労組など新党の推進者そのものが互いを牽制しあい、発言を控え始めたことと、オウム、宗教法人法、金融不安、フランス核実験、日米地位協定など政治社会的な注目課題が続出するなかで、社会党新党問題への注目度もかなり落ちてきているようだ。
<根本的な解決が求められる課題が続出>
これらの課題はどれ一つをとっても日本の選択が問われる重要課題であり、それぞれの政党の議論が伯仲すべき課題である。残念ながら自社さ・村山政権の対応はそうした根本的な議論を回避した、付け焼き刃的対応に終始しているようで歯切れが悪い。
沖縄の米兵による少女暴行事件で明らかになった日米安保条約の不平等性は地位協定の問題にのみ限定された議論があるが、犯人の米兵逮捕権における不平等に対する怒りが発端とは言え、日米安保条約そのものの歴史的役割が終わっているのかどうか、明確にされすでにアメリカ国内では、日米安保解消論も生まれているし、安保に替わる安全保障、平和の維持の課題はどうなるか、明確な議論展開は見られていない。沖縄県知事の基地利用への署名拒否問題で村山首相は「政権の命運をかけて・・」と発言したそうだが、日米安保を認めた政策転換と今後のあるべき安全保障の政策は区別し、社会党的な(新党を視野にいれた)対応こそ求められる。
金融不安の問題も東京協和、コスモ、木津信用、兵庫銀行に続いて、大和銀行の米国債券での巨額の損失問題が明らかになり、日本国内のみの不良債券議論から国際的な金融市場における金融不安問題へと深刻さを増している。11年にもわたる不正に対して個人ではなく銀行ぐるみで隠蔽していきた銀行の問題として、巨額の不良債券問題とも絡み国際的な不信感が強まっている。今後国際的な日本の金融機関の信用度は軒並みAランクからBランクへ下がることが確実であり、融資原資の35%程度を海外での資金調達に依存してきた都市銀行にとって、不良債券の償却問題とも絡んで金融不安は一層深刻化すると見るべきであり、公的資金の導入についても国民の議論が別れている上に、たとえそれが行われても金融不安が短期で解消できる保障はない。「暴力的」な解決の可能性もある。
これまで大手を振ってきた大蔵官僚の信頼も、汚職、灰色官僚の続出で地に落ちておりバブルの後始末では終わらない問題についても、公的資金の導入問題だけが焦点化している感があり、政治の側の政策提起が求められている。
これらの課題に残念ながら自社さ政権は、まともな対応ができていない。社会党の新党議論が萎みがちなのもこれら課題への政策対応ができていないことの反映でもある。現実政治への介入、政治的主張抜きに新党ができるわけがない。そういう実態こそ看板の書き換えということなのではないか。
<橋本自民党総裁の誕生>
9月の総裁選挙で誕生した橋本自民党は、いまのところ「自社さ連立政権」を維持する立場は表面的には変えていないものの、自民党単独政権、または連立政権であっても自民党からの首相奪還の基本姿勢を明確にしつつある。特に衝撃的なオウム事件に対する国民の危機感に便乗して、本来の目的は新進党の実働部隊である創価学会への活動規制を狙った宗教法人法の改正に力点を置いている。
一方で自民党のキーマンは以前として旧田中派、経世会の竹下元首相である。橋本総裁の誕生も竹下のシナリオであろうし、保・保連合なる選択肢も、新進党の羽田を視野に入れた旧田中派・経世会の再登場であろう。自社さ政権がリクルート・協和汚職などダーティイメージで政権を失った自民党の充電期間に過ぎないとの議論も否定できない。おそらくは新進党を創価学会追い出しで分裂させ、保・保連合による政権をめざしていると考えて間違いはないと思われる。
<村山政権 支持率低下続く>
こうして揺らぎ始めた村山政権に対して、世論の風あたりは一層厳しくなっている。10月17日の日経新聞は全国電話世論調査の結果を報じている。村山政権の支持率は政権発足時の29.9%といかないまでも31.0%と低下している。政党の支持率では自民党が橋本総裁誕生の成果か35.6%と回復し、新進党は参議院選挙後8月の調査では20.3%であったものが今回13.6%と6.7%も低下している。日経新聞は「7月の参院選で新進党勝利をもたらした有権者の意識が微妙に変化している様子が垣間見える」と分析している。宗教法人法改正などの創価学会=新進党の実働部隊をのキャンペーンは効いているようだ。「宗教法人法の早期改正」に56.7%が賛成し、オウム真理教への破防法適用に72.1%が賛成している。
さらにショックなのは、国民の村山政権への支持率が低下しているばかりか、社会党支持者の中でも不支持が増えていることだ。前回調査では社会党支持者のうち前回80%が支持、9%が不支持であったものが、今回は支持するが65%、不支持が18%となっている。村山首相の指導力についても社会党支持者の中で、指導力がないとする人が前回でも51%あったが今回は58%近くになっている。
こうした状況の反映として、「自社さ連立政権がのぞましい」前回34.6%、今回27.8% 「新しい連立政権が望ましい」には63.6%が答えるに至っている。新しい政権を望む中では自民・新進連合26.5%、自民党単独政権24.0%、非自民連立政権18.1%、新進党単独政権14.6%という結果になっている。
「村山政権離れ 鮮明に」「保守への期待強く」と見出しされているが、この世論調査結果を見る限り、村山政権はかなり終盤にきていると言わざるを得ない状況である。
<新党議論は、政治・政策論争を通じて>
こうして明らかになってくるのは、ますます新党議論が遠のいていく危険性である。たしかに日経の世論調査では金融不安や景気対策を考えて解散は来年度予算が成立してからの来年4月から夏にかけてを望む42.8%、解散は来年秋以降でよい20.0%となっており村山政権、自社さ政権が半年以上続く可能性は高い。しかし、すでに述べたように現在の日本の状況は、政治・政策論争を通じて課題の解決が早急に求められている。政権政党も結構だが、政権が崩壊したとき、政党も消えてしまったという笑えない現実が近づいているのではないか。
前号でも指摘したとおり、このままずるずるでは新党どころではない。現実課題への対応を通じて、新党作りを協力に進めるべきだと思うのだが、それを望んでもあまり期待できないというのが社会党の現実なのかな、とそんなところに落ち着くのがとてもさびしい気持ちなのだが。
最後に、この問題も前号で触れたが、労働組合側の対応である。21単産でスタートした「新党推進労組会議」は現在33単産になったという。文書をみる限りもたつく新党論議にかなりやきもきしているようだ。最終的には連合の方針である「自民党にかわる新しい政治勢力」としての新党を目標にしているのだが、さきがけの鳩山が発言しているように労組色が強くなることは控えるべきだし、推進労組会議の代表たちも最近は公式発言を抑えているように思う。労組も組合員の利益代表として金融問題、日米安保など政治的課題への大衆運動・行動を強めることで政治闘争の盛り上げ、焦点化の中であるべき新党の政策と力を備える努力こそ今求められているのではないか。(1995-10-18 佐野秀夫)
【出典】 アサート No.215 1995年10月27日