【書評】『核兵器はなくせる』

【書評】『核兵器はなくせる
(川崎哲、岩波ジュニア新書,2018年7月発行、820円+税)
アサート No.498 2019年5月

ICAN (International Campaign to Abolish Nuclear Weapons=核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営委員として活躍している著者が、中高生向けに書いた核兵器問題をテーマにした書である。ICANは現在、世界101ヵ国、468の団体が加盟して活動を続けている。また2017年7月に国連で「核兵器禁止条約」が採択されるまでに大きな役割を果たし、同年12月にノーベル平和賞を受賞したことで、日本でも名前が知られるようになった。しかしその活動や肝心の「核兵器禁止条約」そのものについてはまだまだ理解が深まっているとは言えない。本書はICANの活動に関わってきた体験を通じて、核兵器廃絶運動の現在における問題、疑問、反論を解明する。
その最たるものは「『条約に参加したとしても、守らない国があるかもしれない』というものです。たしかにそのとおりですが、考えてみてください。たとえば、『殺人は罪』とする法律がありますが、守らない人がいます。だからといって、殺人を罪とする法律をつくることに意味がないわけではありません。核兵器はこれまで悪いものだと規定されていませんでした。それを国際ルールで禁じることには大切な意味があります」。
「また『核保有国が参加しない禁止条約には意味がない』という批判もあります。もちろん、この条約が発効しても、それだけで核保有国が核をなくすわけではありません。これまでのNPT体制では、五つの大国が核兵器をもつことを許されていました。国際社会のルールでは、核兵器は『必要悪』のような存在だったのです。核兵器禁止条約はそれを否定して『核兵器はどの国がもっても悪いもの』と定めました。つまり『必要悪』ではなく『絶対悪』ということです」。
つまり核兵器そのものが国際法違反とされ、生物兵器や化学兵器と同じように、「力のシンボル」から「恥のシンボル」に変わったと指摘する。
そして本書は、核兵器禁止に向けた地道ではあるが着実な運動—-なかでもわれわれの視点に上ってこない、ということは日本のマスメディアがあまり伝えない国際的な動きを紹介する。
その一つは、赤十字の「革命的な」声明である。赤十字国際委員会(ICRC)は2010年の国際会議で、これまで政治的な話はしないという方針から、積極的に核の非人道性を取り上げ、特定の国・地域・政治問題・歴史問題から切り離して「核兵器は非人道的で、いかなる場合も認められない」と宣言した。その中で「核戦争が起きたら救援には行けません」、つまり核兵器が使用されればそこが放射能で汚染されていることは明らかなので、救護には行きたくても行けない=「救護を職務とする赤十字が救護に行くこともできなくする兵器の存在を許すことはできない」という主張で、これには強い説得力がある。
またこの流れを引き継いで、2013年~2014年の「核の非人道性」をテーマにした国際会議では、「核兵器が使われた場合にどのような非人道的な影響がもたらされるか」が検討されている。これは、過去に目を向け広島・長崎、世界各地の核実験の被害を取り上げて検証すると同時に、現在・将来にも目を向け、もしいま核兵器が使用されたらどうなるかについて、科学者が詳細なシミュレーションを出して議論するというものである。これについて本書は「日本では、広島と長崎の被害があまりに甚大だったので、原爆が今日またどこかに落とされたらどうなるかについての、研究や議論をすることはタブーになっていた面があると思います」と指摘するが、例えば、2013年、インドとパキスタンの間で全面核戦争になった場合の想定被害が国際的な科学者グループによって発表された。それによれば広島・長崎の死者を一桁上回る数の人びとが亡くなり、放射能汚染の被害も大きく、大量の負傷者や難民が出るとされるが、「その人たちをどう救うのか、というめどは立ちようがありません」。またこれによる気候変動=「核の冬」や通信網の寸断等々世界経済が大きな打撃を受けると予測されたのである。これはこれからさらに検討されるべき真剣な課題となっている。
そして日本ではほとんど報道されていない国際条約に「非核兵器地帯条約」がある。この条約は、核保有国任せでは軍縮が期待できないとして、核を持たない国々が進めた国際条約で、1968年に発効した「トラテロルコ条約=ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約」が最初である。これは核保有5ヵ国に対しても、この条約加盟国への核兵器使用・威嚇を行なわないことを認めさせ、現在ラテンアメリカ~カリブ諸国全33ヵ国が加盟している。この条約には他に、「ラロトンガ条約=南太平洋非核兵器地帯条約」(1986年)、「バンコク条約=東南アジア非核兵器地帯条約」(1997年)、「ペリンダバ条約=アフリカ非核兵器地帯条約」(2009年)、「セメイ条約=中央アジア非核兵器地帯条約」(2009年)があり、特に最後の中央アジアの条約には、旧ソ連時代に核兵器が多数配備されていたカザフスタンやウズベキスタンも参加し、地域から核を完全に排除している。またロシア・中国という核保有国に挟まれたモンゴルは、一国のみの非核兵器地帯を宣言し、国連総会で認定された(1998年)。
このように本書は、核兵器禁止条約をつくり、核兵器をなくす運動の現在を語り、未来への歩みを紹介し、こう呼びかける。「核兵器禁止条約ができたいま『条約なんてできるわけがない』と言っていた人はいなくなりました。でも今度は『条約はできても、核兵器をなくすことはできない』と批判する人がいます。それでも僕たちは言い続けます。『核兵器はなくせる』と」。(R)

【出典】 アサート No.498 2019年5月

カテゴリー: 平和, 書評, 書評R パーマリンク