【投稿】細川連立政権と長良川河口堰
建設一時中止して再調査が課題
以下の文章は、月刊労働運動研究2月号に筆者が寄稿した長良川河口堰問題の中から、青年の旗紙への寄稿内容との重複を避けて、長良川河口堰の昨年10月以降の動きについての部分を投稿させていただく。できれば本文を読まれるようお願いします。
<はじめに>
1、長良川河口堰建設とは
<根拠を失った長良川河口堰>
<建設省、着工時に治水・塩害防止目的に変更>
<生態系への影響>
<残る地元財政負担>
2、本体工事着工以後の運動の高まり
<反対する会と自然保護団体が起爆材に>
<第二次反対運動は、なぜ高まったか>
3、おいしい水は、誰が飲んだか(公共事業とゼネコン汚職)
<以上を省略>
4、連立政権と長良川河口堰
来年度河口堰予算を凍結せよ
ゼネコン汚職、政界のドン金丸逮捕という腐敗列島に、七月総選挙で国民は非自民勢力の伸長と言う結果を与えた。そして∧月の細川非自民政権の誕生、社会党出身の五十嵐建設大臣の就任という、新しい政治状況が生まれた。環境保護を立党の政策の重要な方針とした日本新党代表の細川首相、北海道旭川市長から国会議員になった地方分権擁護の五十嵐建設大臣の政治的決断を求めることに重点を置くことになる。建設現場では十三本の堰柱がはぼ完成し、来年度予算での河口堰予算をどうするか、秋から年末が重大な局面との認識からである。(九月には日本新党環境部会が長良川現地視察)
一方、反対運動側は、十月に長良川DAY93「ニッポンの川を問う」を現地行動として行い、日本各地の川を守る運動グループの参加も得て、シンポ、集会、カヌーデモなどに七千人を集めて、大衆行動で細川政権への決断と世論の喚起をめざしていった。
河口堰建設の進行で、シジミ漁の打撃を受けた漁協の漁師達も漁船デモで参加した。
十一月参議院環境特別委員会で細川首相は「地元の要望がある」と、長良川河口堰建設続行の答弁を行う。建設省の来年度河口堰建設予算八九億円の取り扱いをめぐり、反対運動側は、建設省への抗議行動、赤貌賀漁協有志の建設大臣への建設中止要請など連続の行動とともに、「河口堰推進の陳情は公団の指示で行われていた事実」や「間違った数字的根拠が河口堰計画で使われていた事実」を公表していった。
結果的には、政治改革、景気対策、コメ問題などの政治の混迷を受けて、来年度予算編成は越年となったが、引き続き一月以降で、連立政権の長良川河口堰への決断を求めていく必要がある。
五十九建設大臣現地視察し、再調査打ち出す
昨年十二月十九日五十嵐建設大臣は、長良川河口堰の建設現場を就任後はじめて視察し、推進派、反対派から意見を聞き、その後の記者会見で「堰本体は実質的に完成しているが、さまざまな疑問や不安が指摘された。(さらに)環境面や、防災、塩害などについて調査したい。」と述べ、堰本体工事の継続を認めた上で来年度予算で新たに調査費を要求する考えを明らかにした。(東京新聞)また、調査結果についても公開するとし、堰完成後の運用も現在白紙であると強調したことの意味は大きいものがある。
また、十二日の朝日新聞には「長良川河口堰など大事業、見直し機構創設へ」の見出しで、五十嵐建設大臣が自民党政権下で計画、着工された長良川河口堰など長期の巨大プロジェクトについて、計画規模や利用方法を見直すための機構設立を細川総理などに提案し、基本的に了承した、との報道もされている。
この二つの記事で注目されるのは、自民党政権が計画実行した大型事業の見直しが、連立政権の課題であること、国民が納得できる事業実施が必要であることを建設大臣が認めたことである。再調査は来年度一年かけて行われる方向だが、その問建設工事を一時中止することこそ必要ではないか。
さきがけ日本新党環境那会が工事の-時中止をまとめる
連立与党内のさきがけ日本新党統一会派環境部会は、昨年末長良川河口堰について、重要な見解をまとめ公開した。その中では利水、治水など従来の事業の目的を批判的に検討し、とくに住民の大半がが河口堰に危険性を感じていることを重視し、最後に問題解決のための提言として
①事業の一時中止・事業計画の再検討(代替計画の策定・実施までの事業凍結)
②専門家による検討委員会の設置(建設省などの諮問機関でなく総理直轄の機関)
③平成六年度予算編成への反映(維持費を除く建設費の凍結、導水事業の凍結、見直しのための必要経費計上)
④堤防などの治水事業は継続⑤大規模事業の定期的見直しと環境アセスメントの実施など、かなり大胆な提言である。会派全体としてはまだまとまっていないと言われているが、この「見解」が連立与党内での河口堰議論を呼び起こすことは確実であろう。
社会党環境部会も1月に入って現地視察を行ったと報じられており、動向が注目される。
まだまだ予断を許さない情勢だが、長良川河口堰が細川連立政権の真価がと問われる問題となってきていることは事実である。。連立政権を基本的に支持する私としては、自民党に出来なかったことを一つでもふたつでも細川政権は実行すべきであり、長良川河口堰を解決することこそ自民党政治との決別を国民に知らせることのできる、本当の政治改革と言えると思う。
5、第三者機関による環境アセスメントを確立させよう
最後に環境アセスメントについて触れておきたい。
長良川河口堰の環境影響調査については、一九六三年から六七年にかけて行われた「木曽三川河口資源調査報告書」(KST報告書と言われている)がある。全部で六000ページという膨大なもの。ところが、この報告書は非公開となっている。また、北川環境庁長官(当時)により命じられた堰周辺部の環境影響調査が一九九二年四月に発表され、「河口堰の環境への影響は少ない」という内容だったが、事業主体である水資源公団が、建設省認可の財団法人(理事長は建設省OB)に発注したもので、調査研究者の名前すら公表されなかった。調査結果の客観性は全く疑問の代物。同年三月に「財団法人・日本自然保護協会」は学会の専門家調査による「河口堰は問題がある」との報告書を発表しており、事業推進者の行う環境調査に問題があるのは明きらかである。建設省はこうした調査報告書のデータ公開さえも拒否しており、到底住民を 納得させるものではない。
徳島県吉野川河口の堰改築計画でも、一九九二年十月に建設省は調査委員会の発足にあたって検討内容、環境調査委員の氏名を非公開とするなど秘密主義を改めようとしない。 長良川河口堰の再調査を建設大臣が約束したわけだが、これまでのような秘密主義、客観性に疑問のある事業者よりの調査機関では話にならないだろう。環境基本法が昨年成立しているが、第三者機関・公開を明確にした環境アセスメント法の整備が求められているのである。
***おわりに***
すでに河口堰本体工事の九四%が完成したと宣伝されているが、導水事業他の仝事業規模ではまだ七割の以上が残っている。今からでも十分にこの事業の中止と見直しをすることは可能である。今からでも遅くはない。残された自然を守るため、長良川河L」堰の建設一時中止と再調査を求める運動が今必要なのです。来年度予算編成を巡って、まもなく次の山場がやってくる。今この時が、勝負の時なのです。
(佐野 秀夫)
【出典】 アサート No.194 1994年1月15日