【投稿】さりげなく広がる人権感覚
素晴らしい絵本 「あれ、どっかちがうかな?」の世界
「青年の旗」の読者には既に子持ちの皆さんもかなりいるはず。そういう父さん「青年」、母さん「青年」はきっと絵本や児童書に関心があると思います。私自身今や3人の子持ちで、子供が寝る時間に帰れた日は、たいてい子供に絵本等を読んで聞かせています。絵本というものはなかなかバカにできないもので、最近は紙質も良く、絵も奇麗で、大人でも結構楽しめます(値段もバカにできません)。
我が家では、林明子のほのはのとした絵本や、「地獄のそうべい」等の田島征彦の本、五味太郎の本等に人気があります。内容的にもなかなか考えさせるものもあり、幼児教育にとって欠かせないものだと思います。そんな中で、「むむっ、これはやるな」と思った絵本があるので是非読者の皆さんに紹介したいと思います。
それは評論社から出ている「あれ、どっかちがうかな?」(テツサ・ダール文アーサー・ロビンズ絵)という絵本です。ページをめくってみて、まず何といっても絵がおもしろい。一見マンガチックなのですが、登場人物の表情がほのほのと個性的に描かれ、なんとなくとほけたところに何ともいえない味があります。
内容は外国のある労働者一家の一日を措いています。まず朝起きるのに、長女のクローバーは犬のスピーディーに顔をなめられて、ママとパパは赤ん坊のルークの泣き声で、ジージとバーバはおいしいお茶で、という具合に家族のそれぞれがそれぞれのやり方で一日の幕を開けます。続いて、トイレ、着替え、朝食とまたそれぞれのやり方で進んで行きます。誰も、そのやり方に決まったやり方を強制したりはしません。
いよいよ皆は仕事に、学校に、買物に、とまたそれぞれの交通手段で出かけて行きます。ジージは車椅子で出かけて行きます。クローバーの学校では、様々な人種の子供があたりまえに仲良く勉強しています。ジージとバーバは協力して買物をしています。家に帰っても、ジージとバーバとクローバーはそれぞれのできることをして、協力して庭に球根を植えます。でも、最後に掘り返すのはいたずら犬のスピーディー!といった具合に、世代や性や人種といった違いがお互いに認め合われながら、協力している姿が実にさりげなくユーモアに満ちて描かれています。まあ、難しく言えば「多様性の共存」というか、この短い絵本の中に、老人問題、人種問題、子供の問題、女性問題、障害者問題といった現代的人権の課題が押し詰まっているような気がしてなりませんでした。原題が「THE SAME BUTDIFFERENT」というものですから、その内容がなんとなく分かっていただけるかと思います。
しかし、絵本はまず何より子供が喜んで読むものでなければなりません。その点でも、この絵本は十分及第点で、子供たちは大いに楽しんでいました。
たまたま子供が図書館から借りてきた本ですが、おかげで、とても暖かい気分になることができました。子供に感謝!皆さんにも就寝前の読み聞かせの一冊にぜひお勧めします。
【出典】 青年の旗 No.184 1993年2月15日