【投稿】連立政権の存続と社会党の再生に期待
森田一夫
8月9日、長年の自民党政権に代わって細川連立政権が発足。社・公・民・社民連というこれまでの野党と新生・さきがけ・日本新党の保守3新党が政権与党となり、自民党が野党となるという歴史的な局面が出現しました。
細川新政権について、思うことを文章にしてほしいという編集部からの依頼で投稿をする与とになりましたが、正直なところ私は「この政権はいったいどうなって(進んで)いくんだろうか?」と推移を眺めている毎日で、野党第1党としての社会党を支持してきた一人として社会党の政権参加から政権与党として選挙制度での社会党の妥協などには複雑な気持ちをもっています。
まず、政権成立から最近までの新聞記事(朝日)の見出しのいくつかを追ってみます。
8/9 細川連立内閣発足 6党首起用 主要閣僚に新生党
民間2人、女性3人
山花社会党委員長が政治改革担当相に
8/10 靖国参拝閣僚激減(新生党のみ)
8/14 自民派閥研修会を中止・延期 求心力の低下も一因
8/16 全国戦没者追悼式 細川首相「アジアの犠牲者に哀悼の意」
土井議長「アジアの人々との和解を手にしていない」
経団連 献金あっせん廃止
8/17 大内厚生大臣「平和祈念館」見直し 加害責任問う声を配慮
経済規制 秋にも一部緩和
8/21 「5兆円越す減税を」 連合が要求 日経連一致
8/23 2大政権勢力めざす 公明党大会で委員長ら強調「新・新党を視野に」
労働者政党消滅を懸念 全国一般労組委員長
細川首相、初の所信表明演説 政治改革年内一括で
「生活者優先」を強調 黒字縮小へ構造転換
「侵略行為」をおわび
8/25 河野自民党総裁が代表質問へ
連立与党の矛盾追求へ 減税・防衛を軸に護憲強調、新生と対決色
8/28 小選挙区比例代表並立制 定数各250 2票制
政党助成 国民一人あたり500円(合計600億円)
9/2 経団連 企業献金の斡鹿廃止 全廃含め見直し民借金分は例外
<過大評価しないが、変化ほ期待できると思う>
細川新政権は、選挙制度改革(小選挙区比例代表並立制)を公約として成立したのであるが、成立してのこの3週間ほどの間で、これまでの自民党政権とは「違う」と期待してよい兆候はいくつかあると思う。
例えば、先の戦争を「侵略戦争」と規定し、アジア各国にたいして日本の戦争責任を明らかにするとともに、再び政治的軍事的脅威を与えないよう配慮していること。
自民党永久政権の下、経団連が自民党献金をするのが当然のことのように思われていたが、それに見直しの動きが出てきたこと。
派閥長老や族議員の求心力は政・官・業の癒着構造のもとで強くなってきたが、自民党派閥研修会が中止となったり、官僚の根回しの対象が変わったりして変化してきていること。
連立政権がその発足において、これまでの政治の継続を掲げている以上、新政権の「新しさ」がこれまでの政策の継続性とあつれきが生じるときには、連立与党内の対立となり、「侵略」発言の後退に見られるような紆余曲折が出てくると思います。それでもなお、連立政権が続けば続くほど、それだけ自民党は野党となり、政・官・業の癒着の流れに変化が生まれ、私たちがこれまで経験したことのない政治システムが生まれると思うし、またそれを期待しています。
<景気対策で実績を期待>
これまで社公民連合政権構想など自民党に代わる政権づくりの取り組みはいろいろありましたが、新政権の誕生には到りませんでした。その原因には例えば、社・公・民それぞれの支持拡大の取り組みが足りなかったとか、いろいろあると思いますが、私は「野党には政権担当能力がない」という自民党の批判を跳ね返すだけのものが野党にはなく、それ故政権交代によって景気後退や経済の混乱のリスクを犯したくないという国民の安定志向にインパクトを与えられなかったからではないか、と思っています。
現在は、野党にとって政権担当能力を示す絶好の機会です。自民党がやってきたことぐらいは野党(社公民)でもできることを示すために全力を傾けることがもっとも重要なことと思います。確かに、日本の政治経済をとりまく状況は超円高、貿易黒字と日米経済摩擦、ウルグアイ・ラウンドと非常に難しい課題ばかりですが、景気の回復と経済の安定と発展が連立政権に対する国民の支持を左右すると思います。(私は、経済の専門家ではないのでどうすればよいのかはわかりませんが)
<自民党政権との違いを際立たせることも重要>
細川首相の所信表明演説に対して自民党内からは、「自民党と同じ」という意見も出ており、また、共産党は連立政権に対して「第2自民党政権」というキャンペーンを展開しています。これらの主張自体は我田引水、党利党略のなかから出てきているとは思いますが、同時に連立政権が自民党政権と違うことを際立たせることも重要と思います。9月1日連合山岸会長が細川首相にあったとき、そのために①公務員給与に対する人事院勧告の完全実施を今月中旬に召集される臨時国会の冒頭で処理する②被爆者援護法の制定③文相と日教組委員長の定期会談を始める、と申し入れています。
山岸会長の提案だけでよいのかという主張はあると思いますが、連立与党間の基本政策の違いが大きくあるなかで、自民党政権との違いを際立たせることができれば連立政権への支持はますます大きなものになると思います。
<難しい状況を乗り越え、社会党よ、がんばれ>
社会党が最も難しい状況に置かれていることは言うまでもありません。総選挙での惨敗、小選挙区比例代表並立制への合意と連立政権参加という進展のなかで、一方でこれまでの抵抗野党というイメージを一歩脱却しなければ再生の道はない、という思いと、結党の原点を忘れるな、小選挙区制をのめば党がなくなる、という思いが複雑に入り交じっていると思います。さらにそれが左右(保守各党と共産党)の攻撃にあっています。山花委員長の責任論と委員長選挙と絡み連立政権の不安定要因の一つになっています。
社会党の党内事情はよく知りませんが、党内での論争点が克服しがたいものとは思えません。自民党は結党以来、自主憲法制定が党是となっていますが、改憲のため自民党に投票してきた人は少ないと思います。
政権政党としての実績が自民党の勢力につながったと思います。一方、河野総裁は先の国会では護憲を強調していました。社会党も基本政策は今のままでいい、政権政党としての実績を積むなかで国民に理解してもらえばいい、くらいの立場に立てないのかと思います。社会党の旧来の立場のなかでは、朝鮮半島問題などは現実と大きくかけ離れたと思うし、原発をなくしていく立場は環境問題からみても世界の流れでもあり、これからますますそうなると思います。
さらに難しいのが、選挙制度(小選挙区比例代表並立制)の問題です。連立与党内で合意された内容ですら党内で異論があるのに、今後国会審議のなかでさらに修正があるとなっています。社会党の存立の危機が言われるのもよく解ります。
しかし、私は今回の連立政権准生が何十年間に一度の”歴史のはずみ”に終わることなく、日本の政治が政権交代と連立政権の時代に入っていき、社会党が今までの基本政策を持ち、政権政党としての実績を積んで再生していく遣を模索し、党内での争いがその方向で克服されることを期待しています。(9/3)
【出典】 青年の旗 No.190 1993年9月15日