【投稿】「ニッポンの川を問う、長良川DAY93」参加報告
今年の「NARAGAWA DAY 93 ニッポンの川を問う」は、「着工阻止」をめざした昨年の「10・4世界行動DAY」の行動とは、いろいろな意味で違ったものになった。
<運動をめぐる昨年からの変化>
第1は、行動目標である。昨年は「河口堰建設中止」であった。今年も言葉の上では同じである。しかし、今年はすでに河口堰そのものが、ほぼ完成した状況であり、同様のスローガンが掲げられたとしても、すこし意味が違っていた。現時点では、島根県の宍道湖中海淡水化計画が工事が完成しても、淡水化を止めたような「政治的」解決を長良川河口堰でも行わせることを意味していた。堰として使用せずに、「河口堰」を環境保護運動のモニュメントにしてしまおうと。
第2は、政権の交替があったことである。昨年は宮沢自民党政府に対して「建設中止」を求めたが、今年は8月に成立した細川連立政権に対して、「建設中止」を求めて行った。さらに加えて、五十嵐建設大臣は社会党出身である。運動側が、新政権に期待するところは大きかった。しかし、五十嵐建設大臣が就任直後前向きな発言をしたにも関わらず、後に後退発言をしたことは、一方で不安を感じさせてはいたが。それでも、環境問題への姿勢を党是とする日本新党の党首である細川首相にはきっちりとけじめてもらわなければならない。
第3に、現地漁協組合員が、今年3月河口堰建設等差し止め仮処分申請を建設省と水資源公団を相手に行い、裁判闘争に立ち上った。5年前漁協との補償交渉の調印を持って、建設省は河口堰工事を着工した。しかし、船主達が中心に進めた補償調印であったが、南松ケ浜漁協の漁師達は、疑問を持ち続けてきた。昨年来、宍道湖の淡水化を阻止した島根の漁協組合員との交流、反対する会などの働きかけのなかで、補償金を人国に返還することを決めた上で、今回の裁判闘争に至ったのである。
第4に、金丸逮捕に始まる政治腐敗問題は、建設業界と政治家の関係を明らかにした。ゼネコン汚職である。長良川河口堰工事に関わって、談合があったことは現在明白になってきた。公共工事のあり方、建設業界に奉仕してきた建設省への世論はより厳しくなり、反対運動には大きな力を提供してきたこと。
第5は、行動目標とも関連するが、「長良川河口堰建設に反対する会」の組織的発展、移行をどう図るのかが問われる行動であったことである。個別長良川の「反対運動」としての活動から全国の川を守る運動との関係をどう一歩進めるのかが、問われていた。
<前日は、河口堰早く止めナイト>
10月9日土曜日、長良川河口堰建設現場から上流、伊勢大橋を越えた河川敷公園に続々と人々が到着してくる。午後7時から始まる、「河口堰早く止めナイト」に参加し、河川敷でキャンプ、そして10日の行動に参加するためである。
筆者の感覚では、約2000人の参加者というところ。7時ころから「かまやつひろし」の野外コンサートが始まった。天野礼子実行委員会代表が、集会に至る経過を述べる。(残念ながら、私は食事中で、話を開いていない。かなりつっこんだ話をしたらしい)続いて、全国の川を守る運動家が、各地の川の話をはじめる。北海道からは、萱野茂さんが、鮭とアイヌの歴史と生活を語る、細川内ダム反対で当選した徳島県の木頭村藤田村長がダム反対を訴える、北海道の千歳川放水路に反対する人たちはじめ全国の自然保護団体が発言する。最後は、作家夢枕莫さんとカヌーイスト野田知佑さんのトーク。すでに午後11時を過ぎている。夜を超えて、参加者の交流が続いた。
<「NO DAM」のカヌー文字>
10日は、朝10時から集会が始まった。集会には社会党、共産党の国会議員、北川石松前環境庁長官が挨拶。社会党の女性議員は、政権与党の立場からか、今日の発言は個人の立場と表明した。共産党は、細川政権がゼネコンまみれで、期待してはならないと、的はずれ。北川氏は自然をまもれなくて何の政治か、ともっともすっきりした発言。
労働組合からも自治労東海地連などが発言する。裁判闘争に立ち上がった漁師の代表は発言もあった。言葉少ないが参加者の拍手を受ける。 (この後の集会の内容は筆者は知らない。カヌーデモ準備に水上の人となったからである)
集会決議は建設省に対して「1、過剰な水需要予測に基づいた水資源開発を見直すこと。その際、計画中であれ、建設中であれ、事業そのものを中止するシステムをつくること。2、コンクリートや河川の直線化を中心とした河川行政を転換すること」さらに「1、長良川河口堰建設事業を速やかに中止し、94年度予算への計上を留保すること。あわせて、愛知、三重両県への導水事業を凍結すること。2、木曽川水系水資源開発計画全体を見直すこと。」要求している。(10月27日には、反対する市民会議と建設省との交渉が予定されている)
さて、参加者は、カヌー隊、バイク隊、MTB隊、デモ隊となって午後3時に向けて、行動を起こした。カヌー隊は約500。長良川に「NO DAM」のカヌー文字を創る。デモ隊は、河口堰建設現場と大成建設・鹿島建設の建設事務所を取り囲んでデモを行い、伊勢大橋に終結。陸上と水上から「河口堰建設を止めろ」と一斉アクションを行った。
<運動に変化のきざし>
大いに盛り上がり、マスコミの注目を集めた今年の長良川DAYだったが、運動の底流では、いろいろな議論があったし、問題も残している。あくまでも、運動に関わる個人の私見として述べさせてもらう。 第1は、反対運動と政党、労働組合との関係である。実際、社会党と反対運動は冷たい関係になっている。社会党側は、建設中止を党議決定としてはっきりさせていない。これに対する反対する会側の不満は当然である。さらに、昨年10月以来岐阜、三重では県知事選挙があったのだが、社会党含めて保守系の知事候補は、河口堰問題を明確にせず、反対する会側は、第3の候補者について選挙闘争を戦うことになった。市民運動と政党の論理がかみ合わず、お互いの不信感を蓄積させている。こうしたことが、自治労の運動参加にブレーキをかけることになったのである。共産党は「赤旗」等では、長良川をよく扱う。しかし、政治的に関わるだけであり、運動側もあまり期待はしていないようだ。
今年から、全建設省労働組合(全労連)、全水道が運動参加の動きがあった。
第2は、反対する会など市民運動側のジレンマの問題。明らかに、「活動家」に疲れが見える。実際に参加者数は昨年より減少している。昨年は主催者発表万人と発表しても「それくらいいたよ」と参加者自身が納得する数字であった。今年、参加者7千人と言われても、そんなにいたのかな、という感じである。その原因は何よりも、「建設中止」という目標が曖昧になってきていること。宍道湖中海方式が今後の方向だが、どうしても「政治的解決」となり、昨年までのような直接行動型から変化しようとしている。運動側では「リバーズ・ネットワーク」という全国の川問題に取り組む全国組織の結成も検討されている。これ自身は私も大賛成で、恒常的な川の環境保護団体へという基本方向は正しいと思う。しかし、会員からは「長良川が薄れる」という声もある。いずれにしても「リバーズ・ネットワーク」を、日本の代表的な環境保護ネットワークに育てるためには、人と財政の問題も含めて未だ課題は多いようだ。
<市民運動のカをさらに強く>
こうして、反対運動の頂点としての「長良川DAY」は終わった。200人近いスタッフの働きがこの運動を支えた。すべて市民運動的な関わりである。この運動の強さは、参加する個人の自然に対する思いに依拠している。ここまで育てた運動がさらに発展することを期待するし、その一員として努力したいと思っている。
今後、運動は「日本新党」への働きかけを強めようとしている。日本新党議員団が長良川現地調査をおこなっているし、反対する会は文書作戦で細川首相の決断を迫ろうとしている。建設省は、これまで一端はじめた公共事業は、どんな問題があろうと完成させるという伝統をもっている。環境破壊の公共事業、根拠のなくなった公共事業である「長良川河口堰」の建設中止こそ、新政権の取るべき道であろう。10月27日には長良川河口堰建設を止めさせる市民会議と建設省河川局との交渉も予定されているのである。
(大阪・S)
【出典】 青年の旗 No.191 1993年10月15日