【映画紹介】「月はどっちに出ている」
日本は今、加速度的に国際化している。そして、その波の中で、さまざまな問題、矛盾も次々と派生している。
私が携わっている教育現場でも、3年ほど前から「国際化」云々が随分語られるようになった。そうした時代の要請に応えるべく、大阪では、昨年10月、「大阪府在日外国人教育研究協議会」(略して“府外教”と呼んでいる)が発足した。続いて今年10月末には「第1回大阪府在日外国人教育研究集会」が開催され、私も全体会に参加した。周知の通り、大阪で「在日」といえばほとんどイコールで在日韓国・朝鮮の人々をさし、数多く住んでいる。
「在日韓国・朝鮮人教育」が、他に先駆けて取り組まれてきた所以である。いろいろな研究会や講演会で話を開くたびにこのことに自分がどう向き合えばよいのか、はっきりと答えを出せないでいた。「本名を名のる教育」の報告を開くことが多かったせいか、私は、「本名」にこだわりすぎる傾向に少なからず疑問を感じていた。もちろん、実践を積み上げてきた人々も、「本名を呼び名のる」ことは、教育の終結点ではなく始まりに過ぎないと認識している人が多いとは思う。また教育現場だけで解決できる問題でもない。そんなことを考えていたので、10月頃、新開で「月はどっちに出ている」の紹介記事を読んだとき、是非観たいと思った。題名の奇抜さに引かれて記事を読んだのだが、「在日」の崔洋一監督が、その非凡さで「在日」をどう措いているのか、とても興味があった。
観賞後の感想を一言で表すと、「とてもおもしろかった!」。日経新開の映画評でおなじみの嶋田邦雄氏によると「日本映画で最近、これほど受けロングラン上映している作品も珍しい」そうだ。主役の姜忠男(在日コリアンのタクシードライバー)を演じた岸谷五朗も適役で、気負いのない熱演ぶりに心を動かされた。忠男の勤める金田タクシーの二代目社長金世一、「祖国統一のため、金融業をやっているんだ」とうそぶく朴光珠、忠男の3人は朝鮮高校の同級生という役柄だが、全員、日本人の役者だ。監督の言を借りると、「僕の映画にとって必要な、有能な人材を結集させることが大事なんであって、国籍にこだわる必要はないんです」。はっきり言い切る姿勢に共鳴する。在日一世や二世の時代から、もはや三世、四世の時代を迎えつつある。生き方や考え方も当然変化してくる。その辺の事情が、忠男と母(フィリピン・パブを経営しながら、稼いだ金を祖国朝鮮に住む家族にせっせと送金している)の絡み合いからも想像できる。
「チョーセン人は嫌いだけど、思さんは大好きだ」と忠男にまとわりつく運転手仲間のホソ、忠男が朝鮮人だと知ると「慰安婦問題」を得意気にしゃべり始める乗客のサラリーマン、日本人のある側面をかいま見せてくれる。それらが、全体としてユーモアたっぷりに描かれていて、少しもイヤ味がな い。それでいて現実の「在日」をめぐるさまざまな問題を浮き彫りにしてもいる。嶋田氏の言う通り、「鄭義信の巧みな脚本にも負うところが多い」。
国際化の現実、「在日」問題に関心がある方はもちろん、映画ファン、笑いを欲している方は、是非、「月はどっちに出ている」をご観賞下さい。
(大阪十三・第七芸術劇劇こて12月30日迄上映中)
(大阪・田中雅恵)
【出典】 青年の旗 No.193 1993年12月25日