【投稿】国連史上初 安保理15カ国サミット開かる
<冷戦は終結し、空想は現実に>
米国とロシアの劇的な戦略核兵器大幅削減相互提案で軍縮機運が高まる中、国連史上、初の国連安全保障理事会首脳会議(サミット)が1月31日、ニューヨークの国連本部に15理事国首脳を集めて開かれた。会議は、冷戦の終結で核兵器の大幅な軍縮が動き出すなど、世界規模の戦争については危険の度合が大きく低下したが、地域紛争や大量殺りく兵器の拡散など、冷戦後の世界はまた新たな危険を抱えていることを確認して、軍縮推進や地域紛争防止への国連の役割強化をうたった議長声明を採択して終了した。
世界が冷戦の終結や湾岸戦争を経たいま、世界の安全保障のために国連がより大きな役割を果たそうとすることは、国連本来の目的に立ち返ることであり、長い間「理想主義者の空想の産物」だった国連と国連憲章がようやく実現の「世界規範」として通用する時代を迎えたことを如実に示している。合意された議長声明が5大国のどの国にも無難な「最大公約数」にならざるを得なかったものの、冷戦後の新しい世界の枠組みを作ろうとの姿勢を明らかにした歴史的サミットとなった。
< 安保理サミット>
安保理サミットは、5常任理事国(米・ロ・英・仏・中)と10非常任理事国(日・インド・ベネズエラ他)によって開催された。サミット議長報告の骨子は、①国際平和と安全の維持に国連安保理が果たす責任が拡大、②平和への脅威に対処する国連の集団安保体制を再確認、③紛争予防、平和創造、平和維持のため国連機能の強化が必要、④軍備管理、兵器拡散防止の重要性を強調、⑤薇輸出管理、国際原子力機関(IAEA)の薇査察の効率化を強調、⑥南アのアパルトヘイト終結を評価、⑦対イラク国連決議は湾岸地域の平和回復のため依然不可欠、⑧安保理理事国は米ロが推進する中東和平交渉を支持、であった。
そして、ガリ事務総長に対して、「7月1日までに予防外交、平和の創造、平和維持のための具体策を勧告するよう」要請。今回のサミットが示した道筋を具体的に描く作業が始まることになった。
<米・口首脳会談と相互軍縮提案>
安保理サミットに先駆けて提案された米・ロ相互軍縮提案とサミット後行われた首脳会談は、「軍拡競争から軍縮競争へ」という新しい時代の幕開けが、いよいよ明確なものになってきたことを明らかにした。このことは、軍縮と協調の新しい時代を本来担うべき国連の登場を容易にしている。
今回の相互軍縮提案は、昨年10月のブッシュ・ゴルバチョフ相互軍縮提案を受けて行われたが、少なくとも、いくつかの新しい点が付け加えられている。
第1は、先端戦略核兵器に関する全面破棄が含まれている点である。米からはMXミサイルの生産停止と配備済み同ミサイルの破棄、潜水艦発射ミサイル(SLBM)核弾頭3分1削減と新規生産中止、そして戦略爆撃機B2生産は発注済み20機を最後に停止することが各々打ち出された。これを受けたエリツィンの軍縮提案もまた、複数弾頭ICBMの追加削減、戦略兵器削減交渉(START)合意の4年間繰上げ(7年から3年へ)完全実施等、旧ソ連のもつ最強部門の削減に手をつけた点で意味がある。
第2は、今回の相互軍縮提案が、米の経済的復権を目指す戦略と結び付いている点である。軍縮史上、米大統領が年頭の一般教書の中で、経済・社会政策と対になった形で軍縮提案を行った例はない。しかし今回は、向こう5年間で総額500億ドルの国防費節約を提案している。米国内経済の衰退が軍縮を促し続ける現実を逆証するものだといってよい。軍拡の不経済効果が、米・ロ両大国の政策決定者レベルで等しく共有されていることの表れと言えよう。
又、今回の米・ロ首脳会談で両首脳が署名した「キャンプデービット宣言」は、米ソ冷戦に明確に終止符をうち、新たな関係の基本原則を定めた、短い文章ではあるが、平和条約に匹敵するような政治的意味を持つ内容である。
<国連創設以来の特徴と現状>
国連は第2次世界大戦への反省として、世界の民衆を再び戦禍にまみれさすことのなく、世界平和を達成するために創設された。しかし、米ソ両極体制の下で国連の活動は大きく制限されてきた。国連創設以来の特徴と現状を述べると、①五大国中心体制が崩壊し、他方、米国のヘゲモニーの行方も米国の自制と他の諸国の反発により混沌としている。②国連諸国機関の中で安保理事会の優位が確定したが、その性格は変化過程にある。③事務総長が交代し、その地位変動は避けられない。④国連機構の肥大化とその調整困難は今後も続く。⑤地域紛争の頻発に対し、国連の警察機能の強化が必要である。すなわち、(ア)憲章上の国連軍の創設、(イ)国連決議に基づく多国籍軍的国連軍、(ウ)現PKO(国連平和維持活動)の強化-のいずれかの選択が急務である。(エ)経済処理機構の統合が求められていると言うことである。
< 国連の改革の課題>
現在の国連が目指すべき立場は、最も重要な趨勢である民主化へのうねりに呼応して国連自体の民主化を図り、全ての加盟国が平和の構築と維持に連帯責任をとることにより、安全保障の確保を図ることができる体制を構築することである。
こうした立場にたって、国連改革の第一の課題は自治能力の増強である。自治能力の増強は、国連が「主権国家の集合体」であるという今日までの国際機関の限界を打ち破ることを意味する。今日、グローバルな問題といわれている環境、人権、麻薬、人口、難民などの問題は、実はすでに国境を超えて国際協力によって処理されているのが現実である。この為、国連により強力な政治的、軍事的手段を持たせることが必要になる。 第二は安保理事会強化である。安保理事会強化の問題は、常任理事国の旧戦勝五大国による独占継続の可否であり、拒否権の独占の可否でもある。現在の安保理が第二次大戦における戦勝国の優位論に立ってできた制度であるが、今日ではそのよって立つ前提ともいうべき戦後秩序が全面的に崩壊してしまっている。さらに経済大国日本と政治大国ドイツが浮上し、この両国を無視して国連が有効に機能し得ないことは確実である。湾岸危機においても、経済分野におけるG7の活動においても、両国は新しい役割をすでに演じているのである。
第三は国連財政を強化することである。国連財政は、80年代米レーガン政権の「国連軽視外交」から急激に悪化した。1億ドルの運転資金ファンドを食いつぶした87年に破産の危機を1千万ドルのアンタイド自主拠出金で救ったソ連も、深刻な外貨不足で91年米国に次ぐ「対国連債務国」に転落した。国連を通じた平和維持・平和創造活動を唱えるのはやさしいが、その真にあるのは深刻な資金難という厳しい現実である。議長声明が実績を高く評価したPKOにしても、加盟国の分担金未払い額は昨年末時点で3億8千万ドル近くに達しているのが現状である。
その他の課題として、(ア)予防外交推進のため、事務総長機能を拡大する。(イ)強制措置用の国連軍の設置を検討する。(ウ)経済問題審議機関の統合・強化を急ぐ(エ)多数決制に伴う弊害(決議の激増と不履行)を是正する。(オ)機構・人事行政の刷新を継続する。(カ)環境問題、新しい南北間題への対応を真剣に検討する。(キ)敵国条項の廃棄の実現を期する等があり、国連改革は世界秩序構築そのものとも言えよう。
<安保理サミット後の世界>
冷戦後の世界は、米ソの財政難が冷戦構造を崩壊させたように経済の変化が国際政治の枠組みを変えて行くだろう。現代の資本主義経済の産業構造は、国家経済を拠点としていたかっての経済機構から新たな経済体制を選択したのである。国家の枠を突破せざるをえない生産構造を形成し、経済活動を全世界に拡大し、グローバルな活動を推進する企業の多国籍化の時代に進んでいる。これらの経済活動が銀行・金融の多国籍化をもたらし、企業相互間の世界的ネットワークを必要とさせている。世界は益々一体になって動き始めている。
又、冷戦後の世界は協調の時代である。新世界秩序をうたう米国もかつてのように世界を主導する経済力をもち合わせていない。国内においては財政・貿易赤字を、国外では累積債務問題をかかえ苦境にあえいでいる。バックス・アメリカーナの崩壊である。しかしながら、誰もはっきりとした主導権は取れない。誰もが責任と役割を分担しなければならない時代である。今までのような資本主義体制・社会主義体制では解決のできない歴史的局面に突入したのである。
このように、世界が一つになる中、国際社会が協調しなけれはならない現実が存在するが故に国連の役割がいっそう重要になってきている。
(名古屋Y)
【出典】 青年の旗 No.173 1992年3月15日